猛者たちの戦い

結局、話し合いでは問題を解決できなかった。


「どうしても美奈子ちゃんを連れて行くというなら、貴様とは拳で決着をつけねばならん」

「もとよりそのつもりだ。ここでは何だから表へ出ようじゃないか」


2人は家の外へ出た。暴れ回るのにうってつけの広大な芝生だ。大きく間合いをとって2人は向かい合った。


「貴様、確かワンタンめんとか名乗っていたな」

 市長は言った。


「にゅうめんマンだ。ワンタンなんかと間違えるな」

「名前も服装もおかしいが、貴様相当の達人だな。……風が騒いでおるわ」

「風って騒ぐのか」

「ああ。真の猛者もさどもがぶつかり合うときにはな」

「どんなふうに」

「まるで盆と正月が一緒に来たような大騒ぎだ」

「なんか俺が思い描く騒ぎ方と違うな……別にいいけど」


そして、戦う気持ちの準備ができた男たちは鋭い視線を交わした。


「ゆくぞ!」

「来い」


戦いのゴングは鳴った。


「ぬおおおおぉぉぉ!!」


果し合いが始まるやいなや、巨漢の市長は、にゅうめんマン目がけて暴れゾウのごとく突進した。にゅうめんマンはそれに真っ向から立ち向かい、迫り来る市長に得意のドロップキックをぶちかました。


ドロップキックは、堅い筋肉に包まれた市長の肉体に弾かれたが、にゅうめんマンは反動をうまく処理してきれいに着地した。市長側も反動を受けたが大したことはなかった。


市長は敵に息をつく暇を与えず、にゅうめんマンが着地した途端、体を広げて跳び上がり、巨体を活かしたボディプレスを繰り出した。


「むううぅん!」


にゅうめんマンはこれをかわした。だが市長ははじけるように地面から起き上がって、再びボディプレスをしかけた。思いがけない市長の身軽さに不意を突かれたにゅうめんマンは、200キロくらいはありそうな筋肉のかたまりの下敷きとなった。


しかし、巨漢の下敷きになったくらいでやられるほど、にゅうめんマンはやわではない。


「おりゃあああ!」


にゅうめんマンは激しいかけ声とともに市長の体を空中に投げ飛ばし、すばやく立ち上がった。一方、市長は地響きを立てて腹から地面に落下した。


「ぐほっ」


相当の衝撃を受けたはずだ。落ちたところを狙って、にゅうめんマンは市長の横腹を蹴り飛ばした。


「ごふっ」


強烈なキックを受けて市長はうめいた。だが、それでもまだ敵の体力に余裕がありそうだったので、にゅうめんマンは再度横腹を蹴りつけ、市長もまた同じようにうめいた。


《強敵ではあるが、これはもう勝ったかな》


などと思いながら、にゅうめんマンは3度目の蹴りを入れようとしたが、そのような事を考える心の緩みが油断を生んだ。にゅうめんマンが敵を蹴るより一瞬早く、市長が急に大きな腕を伸ばして、にゅうめんマンの片足を捕まえた。


「ぬおおお!!」


市長は横になったまま、にゅうめんマンの足首をつかんで体を空中に振り上げ、激しく地面にたたきつけた。


「ぐふっ」


強い衝撃がにゅうめんマンの体を襲った。だが、市長は横になっていたので高い位置からたたきつけることができず、連続攻撃を受けた直後でコンディションも悪く、さらに地面が柔らかい芝生であったことも幸いし、にゅうめんマンはこの乱暴な攻撃を耐えることができた。


とはいえ何度もこれを受ける余裕はない。たたきつけられた直後の強い衝撃の中で、にゅうめんマンは気力をふりしぼって、自分の足首を握る市長の手に鋭い手刀を振り下ろした。


「くっ」


にゅうめんマンの手刀は、普通の人間の骨なら軽く砕く威力がある。市長は普通を超越した人間なので骨は砕けなかったものの、強力な手刀に耐えられず、痛みに顔をゆがめて、敵の足首から手を放した。

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