見事だ

再び山田が暴れ出すといけないので、にゅうめんマンは山田が持っていたヌンチャクを没収した。


するとそのとき、またしても別の男がどこからともなく現れた。眼鏡をかけたインテリ風の男は、もったいぶって拍手をしながら、ゆっくりと、にゅうめんマンに近づいた。


「うちの山田を危なげなく打ち負かす手並み。実に見事だ」

「あんた誰だよ」

「私は第2の副市長、田山だ」

「田山……!」

「君の名前はなんというのだ」

「にゅうめんマンだ」

「変な名前だな」

「ほっといてくれ」

「名前はさておき、にゅうめんマン、君は確かに強いがこれくらいで慢心するなよ」

「どういうことだ」


田山は眼鏡を光らせて不敵にほほ笑んだ。


「山田は数人いる副市長の中でも最弱。我々が本気を出せば、君を始末することなど赤子の手をひねるようにたやすい」

「それがどうした。次はお前が戦って俺を倒すとでも言うのか」

「そう焦るな。今はまだ私たちが戦うべきときではない」

「戦うべきときとかあるのか」

「ある。そういうわけだから、また会うときまで、さらばだ、にゅうめんマン。ふははは。ふははははははは……」


田山は大きな声で笑いながら、エレベーターに乗って、上の階へ戻った。


《何がしたかったんだろう》


と、にゅうめんマンは思ったが、後から聞いたところによると、次のような事情であったらしい。


田山は、市役所に何者かがやって来て乱闘騒ぎを起こしていることに気づいたが、自分では戦いたくなかったので、しばらく上の階に残っていた。だが、なかなか騒ぎが収まらないので、立場上放っておくわけにもいかなくなり、やむなく1階まで様子を見に来た。すると山田がにゅうめんマンと戦っていて、直にやられた。


田山はやはり、にゅうめんマンと戦いたくなかったが、そのまま去ると部下たちの顰蹙ひんしゅくを買うので、それっぽいことを言ってお茶を濁し、上の階に戻ったのだった。


――さて、山田を倒し、田山との無意味な会話を済ませてから、にゅうめんマンは、山田のヌンチャクによって床にたたき落とされたままになっていた杖を回収した。武器として使うために、来庁者の老人から拝借したものだ。


ヌンチャクで強打されたせいで杖には大きな傷がついていたが、にゅうめんマンは、持ち主の老人にそのまま杖を返した。その傷を見た老人は


「死んでわびろ」


と言ったが、にゅうめんマンは無視した。


この街の住民はすぐに「死ね」だの「ぶち殺す」だのと言うが、にゅうめんマンが理解したところによると、それは口の悪い住民たちが習慣的に言っているだけであって、深い意味はない。一種のあいさつみたいなものだ。


「死んでわびろ」という言葉も、多分「今日はいい天気ですね」くらいの気持ちで言っているのだから、まじめにとり合う必要はない。


老人を無視したにゅうめんマンは上の階にある市長室へ向かった。

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