上役

それで戦いは終わりかと思ったがそうではなかった。主役は遅れてやって来るのだ。


にゅうめんマンが市役所職員たちの集団を全滅させるのと前後して、一際ひときわ邪悪な顔をしたスーツ姿の男が、後ろの方からヌッと姿を現した。


「うちの職員たちを随分ずいぶんとかわいがってくれたようだな」


男は少し離れた所からにゅうめんマンに語りかけた。


「こいつらが襲いかかって来たから応じたまで。お前は何者だ」

「俺は星鬼松市副市長の山田だ――市役所職員を好き勝手暴行するお前こそ一体何者だ」

「俺は正義の味方にゅうめんマン。お前んとこの市長にさらわれた人を助けるために星鬼松市へやって来た」

「それはそれは。はるばるここまで来たのに気の毒なことだ」

「何が気の毒なんだ」

「ここで俺に殺されてしまうことさ」


山田は上着の内側からヌンチャクを取り出し、その上着を脱ぎ捨ててワイシャツ姿になった。それから、準備運動なのかパフォーマンスなのか分からないが、ヌンチャクをすごい勢いでビュンビュン振り回した。大口を叩くだけあって腕が立つようだ。さすがに副市長ともなると平職員とは一味違う。


にゅうめんマンは普通の人間と比べればずっと体が丈夫だが、このヌンチャクで殴られたら、ただではすまないだろう。打ち所が悪ければ本当に死んでしまうかもしれない。――そんなことにならないよう、気を引き締めて、にゅうめんマンは武器として使っている杖を体の正面に構えた。


「とおぉーー!!」


少し離れた所に立っていた山田は、高くジャンプして一気に、にゅうめんマンに飛びかかった。にゅうめんマンは杖でヌンチャクを防ぎながら、軽く飛びのいて攻撃をかわした。


敵はヌンチャクを持っているのでリーチが長く攻撃をよけづらい。また、ヌンチャク相手では腕で攻撃をブロックすることもできない。こちらもリーチの長い杖を持っているとはいえ、長々と戦っていたら、そのうち致命的な一撃を受けかねず、にゅうめんマンに不利になる気がする。


《こういう場合は先手必勝だ》


と考えて、にゅうめんマンは一気に攻め立てようとした。だが、それより一瞬先に山田が激しくヌンチャクをふるい、にゅうめんマンが握っていた杖を床にたたき落とした。それで、形勢は結局にゅうめんマンに不利になった。


山田はヌンチャクを振り回しながら前進し、にゅうめんマンを追い詰めた。攻撃する隙を見つけられず、にゅうめんマンは相手の方を向いたままジリジリ後退することを強いられた。


《この状況はよくないな……》


そうして後じさるうちに、にゅうめんマンはパイプ椅子が並べてあるそばを通りかかった。そこに反撃の手段を見てとったにゅうめんマンは、1脚の椅子を片手でつかみ、敵に向かってすばやく投げつけた。


それは一瞬の動作だったし、投げるスピードも速かったから、山田は飛んで来る椅子をよける余裕がなく、両腕を上げて体を守らなければならなかった。そこで、にゅうめんマンはもう1脚の椅子を取り上げ、椅子の脚を前に向けて体の正面に構え、山田に向かって突撃した。


「ぐふっ」


山田はこの椅子タックルに対応できず、椅子の脚で激しく体を突かれて打ち倒された。にゅうめんマンは山田の胴体に飛び乗って2、3回踏みつけ、敵を弱らせてから、足を上にして山田の体をさっと持ち上げ、パイルドライバーを放ってとどめを刺した。

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