交付手続

市役所は、歴史がありそうな、重厚でとても大きな建物だった。高さは7階建てくらいだろう。にゅうめんマンの事前調査によれば、市長は、ここにある市長室で仕事をしているはずだ。


大きなひさしのある玄関から中へ入って奥に進むと、公的な手続をする窓口で、男が床に額をこすりつけて、市役所職員に何かを懇願していた。


「お願いします!書類を交付してください!それがないと大事な手続ができないんです」


どうやら何かの書類の交付を受けに来たようだ。これに対して男の職員は言った。


「あぁん?何だって。声が小さくてよく聞こえんなぁ!?」


男はぬかづいたまま声を張り上げ、再び懇願した。


「書類を交付してください!!お願いします!!」


すると職員がもったいぶって答えた。


「書類がほしけりゃゴリラのものまねをしろ」

「ゴリラですか」

「そうだ。本物のゴリラに似るよう真剣にやれよ」


男は悔しそうな顔をしたが、命じられたとおり、ウホウホ言ってゴリラのものまねをした。


「やりましたよ。書類を出してください」

「全然似てないじゃないか。あんな出来の悪いものまねで出してもらえるわけがないだろ」

「ひどい……」


だが男は食い下がった。


「恥をしのんでゴリラのまねまでしたのに、なんで交付してくれないんだ!」

「だって、お前に書類を出したって、俺が何か得するわけじゃないしな」

「得をしなくたって、それをするのがあなたたちの仕事でしょ!」

「黙れ愚民!!市の職員に逆らうのか!」


市役所職員は、自分に反抗した男を殴りつけた。


「ぐはぁっ」


男はがっくりと床に膝をついた。


「ちくしょう!!ちくしょおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉ!!!」

「むはははは」


男は叫び、悔し涙を流した。それを見て職員は意地悪く笑った。


星鬼松市では、市職員は特権階級であり、住民はゴミ以下の存在としかみなされない。市民たちはこのようにして毎日公権力にしいたげられているのだ。


市役所職員の対応が想像を絶してひどいので、正義の味方であるにゅうめんマンは、その職員を叱りつけた。


「こら!市民に対してなんて仕打ちをするんだ!ちゃんと書類を出してやれ」

「なんだ貴様は」

「俺は正義の味方にゅうめんマンだ。どうしても交付をしないというなら、お前のような堕落だらくした職員には、俺が熱いお灸を据えてやる!」


職員は、にゅうめんマンをにらみつけた。


「市役所にたてつくとは……死にたいらしいな」

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