バス乗り場への道

万引き犯を捕まえた後、にゅうめんマンは書店員にバス乗り場までの道をたずねた。店に協力したのだから、それくらいは快く答えてくれるだろうという思惑だった。


「いい歳をして1人でバス乗り場にも行けないくずは、とっとと死んだ方がいいと思うが」


と前置きをしてから、書店員は親切に道を教えてくれた。にゅうめんマンはその情報を頼りに再びバス乗り場を目指した。


   *   *   *


それにもかかわらず、にゅうめんマンはまたしても道に迷った。書店員は正しい道を教えてくれたのだと思うが、駅周辺の構造が複雑すぎて、おおまかな道順を聞くだけでは不十分だったのだ。


道案内表示の類が極端に少ないのも、迷いやすさに拍車をかけた。たまにそのような表示があっても、破壊されているか、落書きなどで汚されていて、まったく役に立たない。


規則は破るためにあり、公共物は壊すためにある、というのが星鬼松市民の考え方だ。案内表示を作る側も「どうせ壊されるんだから作るだけ無駄だ」という心理が働き、さらに表示が少なくなる、という悪循環が成立していた。


さて、にゅうめんマンはスマートフォンや携帯電話は持っていない。バス停にたどり着くためには、やはり誰かに道をたずねるのが現実的と思われた。


そこで、にゅうめんマンは


《さっきは男に道をきいて攻撃を受けた。ならば次は女の人にたずねれば、もうちょっと優しく答えてもらえるのではないか》


というはかない期待を抱いて、ちょうどそばを通りがかった7色のアフロの女に声をかけた。


「すみません。バス乗り場へはどう行けばいいですか」


女は答えた。


「西だ」

「あの……もう少し詳しく教えてもらえたら嬉しいんですけど」

「夕方に太陽が沈む方角が、すなわち西だ。……あとは分かるな?」


「全然分からないんですが……」


にゅうめんマンは言った。女は切れた。


「人が親切に説明してるのに、ろくでもない口答えをしやがって!!死ねやっ!」


女はすばやくポケットに手を入れた。にゅうめんマンが危険を察知して身構えると同時に、女はポケットから取り出したクナイ手裏剣を投げつけた。幸い、にゅうめんマンはそれをかわすことに成功し、女が投げたクナイ手裏剣は、後ろを歩いていた通行人の頭に刺さった。


女は再びポケットに手を突っ込んで2本目のクナイを放った。にゅうめんマンはそれもどうにかかわし、大急ぎで逃げ出した。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る