ベストセラー

バス乗り場を目指してさまよううちに、にゅうめんマンは、駅構内にある大型書店へやって来た。店を向こう側へ通り抜けようと思って店内に入ると、『ヌードル戦士☆にゅうめんマン』という小説が平積みになっているのが目に入った。


興味を刺激されて、にゅうめんマンはその本を1冊手に取った。カバーには帯がついていて


「全米が泣いた。にゅうめんマンシリーズ待望の第2作」

「タイタニックを超える衝撃。現代人に生きる意味を問う感動巨編」


という販促文が書いてある。著名人の推薦コメントも載っていた。


「私はこの小説を読むために生まれて来たのだと思います。――文芸評論家 阿保杉太郎」


この絶賛ぶり。よほど感動的でおもしろい小説なのだろう。これはもう読むしかあるまい。


――そのとき、30代くらいの男が、にゅうめんマンのそばを通り過ぎると同時に『ヌードル戦士☆にゅうめんマン』を1冊かすめ取り、上着の内側に隠した。男はそのまま歩き去ろうとしたが、店員がその万引き行為を目撃して


「万引きだ!」

 と叫んだ。


「ちっ。ばれたか」


男は出口へ向かって駆け出した。店員たちが後を追ったが男の足が速くて追いつけない。


「誰かその万引き犯を捕まえてくれ!」

 店員たちはどなった。


正義のヒーローとして万引きを見過ごすわけにはいかない。すぐさま走り出したにゅうめんマンは、超人的な身体能力を発揮してあっと言う間に万引き犯に追いつき、書店の出口を出たところでその男を捕まえた。


「放せ、この野郎!」


男は怒って殴ろうとしたが、にゅうめんマンはその動きを見切って攻撃をよけた。


「何だそのとろくさいパンチは。俺は忙しいんだからもうちょっと急いで殴ってくれよな」

「バカにしやがって!」


男は再び殴りかかったが、にゅうめんマンは軽くかわして、反撃のデコピンをお見舞いした。


「ぐあっ!」


男は短く叫んで額をおさえた。にゅうめんマンほどの怪力になるとデコピンだけでもかなり痛いのだ。


それから書店員たちもすぐにその場へ駆けつけて、ピラニアの群れのように、集団で万引き男に襲いかかった。書店員たちは男をボコボコにして身ぐるみをはぎ、金目の物をすべて回収してから店内へ戻った。


コテンパンにのされた男はパンイチで床の上に放置された。通行人たちはそれを見て笑ったり、つついたり、ブレーンバスターの練習台にしたり、胸に7つの傷をつけたりした。

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