第2話新しい地
暗い場所から出るとすぐに違う匂いと温度にびっくりした。
暖かいにゃ。ここすっごく居心地がいいのにゃ。
「さて、今日からしばらくここに住んでもらいます」
「にゃー」
「いやかしら?」
そんなこと全然ないのですにゃ。床があったかくて癖になりそうだ。しばらくは立てそうにない。
「名前は何にしましょうかね。あの子のところにいたころはミケだったのよね」
「にゃー」
気に入っている名前がいいにゃ。
ご主人様が最初につけてくれた大切な名前だにゃ。
「ミケがいいだろう。あの子の名づけだ。嫌なわけではないだろう」
「ミケ、おなかがすいたでしょう。好きなものを選ぶといいわ」
これはご主人様のうちにあった食事が目の前にたくさんあった。
ご褒美でもらえるものも、いつものご飯もちょっといいご飯もあった。夢のようだ。これがいいにゃ。タシタシと叩いてみるきゃ。
「これね。教えてくれてありがとう」
食事を用意しながら母上様は困ったように話すのにゃ。
「さて、いつまで喧嘩が続くのかしら」
「ミケが嫌がるんじゃ、やはり別れないと無理なんじゃないか」
「早く決着がついて元居た場所に戻れるといいわね、ミケ」
「ああ。本当にな」
「ねぇ、ミケ。3か月たっても決まらなかったらうちの子になる?」
「おいおい」
「あの子には猫はまだ早かったのかもしれないわ」
父上様は困惑した様子だにゃ。
「そうかもしれないが、もっと猶予をあげてはどうだ?」
「そんなことをいったら何年たっても決まりませんよ。何事も時間制限は大切ですわ」
そうかもしれませんにゃ。早くあの男と別れてほしいものだにゃ。
☆☆☆
翌朝には電話をかけている母上様に会った。ご主人様とは少し遅い時間だが、きちんとカリカリが出てきた。
嬉しいにゃ。それに量が少し多い。おいしいものがたくさんあるのはよいことだ。
あとでたくさん遊んでもらおう。
「ねぇ、明美? 早くミケちゃんを迎える準備をしないとウチの子になっちゃうわよ」
母上様は電話で何かを話している。きっとご主人様にプレッシャーなるものをかけているのだろう。少し大きめに鳴いてみる。
「にゃーご」
「ほら、すこし恋しくなったんじゃないの?」
電話の向こうの声はわからない。
「フフフ、待っているわね」
ガチャンと受話器を置いてこちらにやってくる。
「迎えに来てくれるといいわね」
ご主人様のなでてくれる手も嬉しいが、母上様のなで方はより優しく一度撫でてもらうと離れがたくなってしまうの。
もっとなでてほしいのにゃ。
「あらあら。もう少しこうしていましょうね」
しばらくご主人様のことを忘れて癒しの空間を堪能してみたのだ。
「ミケや。少し外へ出るか?」
「お父さん、ミケは猫ですよ。そんなにストレスを与えることがいいとは思いません」
「そうかなぁ。車ならと思ったんだが」
「これを読んで勉強してください」
お母様が取り出したのは猫の本だ。猫のキモチが分析され、人間にもわかりやすく書かれている。
「おう。そうか」
父上様は熟読してくれて騒音の中移動することは避けられたようだ。
「なーご」
お母上様には感謝している。よく猫のおもいを汲んでくれる。何かの折には感謝の意を表現していかなかくてはならないと感じている。
とりあえず、ことあるごとにお母上様の後をついてまることにした。
「あらあら、ちょっとご近所さんに回覧板を届けてくるから少しお部屋の中で待っていてね」
そう諭してくれる母上様も大好きだ。しばらくは父上様の隣で温まることにした。
床は温かいようにしてくれているからそこにいるだけで幸せを感じられる。
「暖かいな。幸せか? わしも幸せだ」
ゆるりとまどろみながら母上様の帰宅を待つのだった。
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