猫のキモチ 完

朝香るか

第1話猫と人間

 ウチがみた人間界


 うちは猫と呼ばれてる。


 別に好き好んで呼ばれているわけではないけれど、

 そういう定義らしいから仕方なくこれを受け入れている。


 人間が下した名称なんかはよくわからない。


 イヌ科やネコ科なんか。


 なぜあんなにあくせくと動くのかもわからないし、

 なぜあんなに楽しげに笑うのかもわからない。


 ウチは今日も日当たりのいい場所を探し寝るだけだ。


 食べ物はご主人様がくれる。

 今日もご主人は日が昇ると同時に出かけていく。


 もっとゆっくりご飯を食べればいいのにバタバタとして、

 ロクにテーブルとやらの前に座らず食事を済ませ化粧をして行く。


 ウチのご飯を忘れずに用意していくマメなご主人である。

 そういうところは大好きだ。


 大好きなご主人様ともっと一緒に過ごしたいのに帰ってくるのは夜遅くなんだ。

 御主人様が体を壊さないかだけが心配だ。

 今日も今日とてご主人さまは朝早く出ていったが、帰りは2人でリビングに入ってきた。男と帰ってきたのだ。

 この男、気に食わないにゃ。


 コロンの匂いが気に入らないし、足の匂いも汗の匂いも気に入らない。

 ご主人のいい匂いをかき消す嫌なやつだ。


 ツメを立てて威嚇してやったら背を向けて逃げていった。

 ウチのご主人はあんな臭い男とは付き合わないのにゃ。


 変な男が来た翌日、今度はご主人様の両親がやってきたの。

「そうなの。しばらく預かってもらえないかと思って」

 何でそうなるのにゃ。

 母上の足にスリスリする。ご主人と似ている優しい匂いが好きなのにゃ。

「彼氏と会えないからって勝手じゃないの」

「その猫がいるなら別れるっていうのよ」


 ご主人様には失望にゃ。

 こんなにも悪い匂いのする男を追い払ったのに通じていない。

 どころかウチを居心地の良いこの家から追い出そうとするなんて。


「何を考えているのやら。オトコよりも自分の飼い猫のほうが大切だろうに」

「ミャーゴ」

 ご主人様の母上の方がわかっているニャン。

「それなら短期間、家で預かろう……どれだけこのコに依存しているか、日々の潤いとなっているかわかるはずだよ」

 ご主人様のお父上様もいい人にゃ。今度は父上様の足元にもすり寄ってみる。

 ちょっと苦手な匂いだけど、あの男ほどじゃない。

 ご主人様には目を覚ましてほしいんだ。

「この子。良い子じゃないか! 人の言葉がわかるようだね」


 そうなるのにゃ。判る賢いネコなの。


 だからご主人様のご乱心を止めてほしいのにゃ。


「移動用のペットのカバンに入るかしら? あら、すんなりとはいってくれるのね。賢いわぁ。このままウチに来てもいいのよ」

 邪険にされるのなら家とやらに行きたいにゃ。あの男と会いたくないのにゃ。

「お母さん、預けるだけだからっ!」

 ご主人様は慌てているけれど、ウチの大切さを実感するといいのにゃ。


「そうだといいわね。お付き合いしている方としっかり話し合ってきて頂戴ね」

「……はい」

 ご主人様は不機嫌になってしまったにゃ。残念だけどあの男には何かあるにゃ。絶対に分かれないとだめなのじゃ。

「それでは、必要なもものを車に運ぶよ」

「お父さん。そのケージも高かったんだから大切に扱ってよ」

「心配しないくていい。お前よりも大切に扱えるさ」

 ご主人様はうなだれてしまったにゃ。

 その後のご主人様の様子はわからない。


 ウチに分かるのは車にゆられってどこかに向かっているということ。

 そして車の揺れが心地よくて眠ってしまったことだけだ。


 優しい揺れになれていしまったから不覚にもうとうとしてしまったが、いつの間にか

 揺れは収まり別の揺れになった。


 ご主人様より荒っぽい持ちかたにゃ。優しく頼むにゃ。

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