第3話

 ここは三途川、の川っぷち。地面を見ると、無数の石がごろりと寝転がっている。賽の河原。人間たちにはそう呼ばれている場所だ。そして私の現在の職場でもある。


「シャーシャー」と何とも品のない雄叫びを上げながら、牛頭鬼(ごずき)が金棒を薙ぎ払う。小さな石を積み上げた塔は、完成目前でがしゃこと派手な音を立て崩れていく。それを見た子供たちは、ごみ溜めの臭いがするため息を小さく吐き、それを嗅ぎつけた馬頭鬼(めずき)が、臭いの主を執拗に追いかけまわす。泣きながら逃げまどう子供たちを見下げ、二匹の鬼がお決まりの台詞を吐く。


「何を泣くことがあるだろうか。これも全て、お前たちが親より先に死ぬという重罪を犯したからではないか」

「親不孝な自分を恨みながら、永遠に石を積み上げるのだ」


 親より先に亡くなった子供たちが石を積み、完成直前に石の塔を鬼が壊す。何千年と繰り返されたやりとりは、本日もつつがなく私の眼前で繰り広げられていた。


「相変わらず精が出ますね」

 差し入れの日本酒を掲げると、牛と馬の顔が嬉しそうに綻ぶ。賽の河原における私たち地蔵の役目は、鬼たちのご機嫌を伺いつつ、河原から子供たちを救い出すこと。そのためには、手土産の酒は欠かせない。

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