第35話 怒ってる?


屯平は仕事へ向かいながら憂鬱になっていた。

どんな理由であれ食事のときに逃げてしまい、麻理恵を置いてきぼりにしてしまった。


( あれからラインもきたけど、怖くて見ていないんだよなぁ。

謝るなら直接謝らなきゃだし…… 。 )


色々考えながら会社に着いてしまう。

いつも来る道で待っている事に。


( あっ! 来た! )


麻理恵がやって来た。

偶然を装いながら目の前に。


「 あっ! 昨日は…… あのぉ。 」


話しかけるもスルーして通り過ぎて行く。

呆然と立ち尽くしてしまう。


( やっぱ…… 怒ってるよなぁ…… 。 )


しょんぼりしながら会社に向かった。

麻理恵は横目に見ていた。


( ちょっとは傷ついたんだから。

だから少しだけいじわるしちゃう。 )


全く怒ってはいなかったけど、少しだけ意地悪したくなってしまっていた。


屯平は仲直りしたくてそわそわしながら仕事をしていた。

貧乏揺すりしながら作業をする。


( どうしよう…… 元々話せてた事自体が奇跡みたいなとこあったよな。

仕事場も部所違うから会いにくいし。 )


作業しながらも色々考えていた。


「 二宮さん…… どうしました? 」


女性社員が心配してくれて話しかけて来た。


「 あぁ…… 全然、ちょっと一服してくる。 」


そう言い自動販売機に。

行くと麻理恵が休んでいた。


( やった! 偶然にも休んでて1人だ!

今しかチャンスはないぞ。 )


麻理恵は屯平が来るであろうと思い、1人で一服していたのだ。


「 昨日は…… ごめん…… 。 」


立ち上がり仕事に戻ろうとする。

屯平はやっぱりダメなのかな? と思いながらしょんぼりしてしまう。


「 置いてきぼりは傷つきました。 」


屯平が振り返ると麻理恵は立ち止まっていた。


「 何かあったら直ぐに言ってください。

私はいつでも味方なんですよ? 」


怒って屯平に近づいて来る。

屯平はしどろもどろになってしまう。


「 ごめん…… あの子とは色々あって。 」


麻理恵はぷんぷんして怒っている。

逃げてしまったことより、頼ってくれなかった事が悲しかった。


「 何でも言うこと聞くから許してくれない? 」


それを聞くと嬉しそうに顔を近づける。


「 私! お買い物に行きたい! 」


「 おぅ…… そんなんで良ければ? 」


麻理恵に笑顔が戻る。


「 やったぁ! 何買って貰おうかなぁ。 」


嬉しそうにスキップをして戻って行く。

屯平はホッとしていた。


「 良かった…… にしても。

お金足りるかな? 銀行行って来るか。 」


仲直り出来てやっと気持ちが楽になっていた。

良く考えてみると女性とケンカも仲直りも、初めての事の連続だった。


仕事をしながら外を眺めていた。

いつも見ていた景色も環境が変わるだけで、こんなにも変わって見える。

清々しい気持ちになっていた。


( もっと早くに気づいていたら…… 。

考えたらキリがないからやめた。

今日は買い物に行くんだ。 )


気持ちを切り替えて仕事に戻る。

いつもより楽しく感じていた。


帰りに近くの公園で待ち合わせしたので、会社から出て向かっていた。


「 先ぱぁーーいっ! 待ってぇ。 」


麻理恵が走ってやって来た。

屯平は周りを見渡してキョロキョロしてしまう。


「 会社から出たばかりのとこで会ったら、他の人に誤解されるだろ。

その為に公園で待ち合わせしたんだから。 」


麻理恵を気遣い、わざわざ離れた公園で待ち合わせしていた。


「 別に勘違いされても良いんだけど…… 。 」


小声で話されて上手く聞こえなかった。


「 今なんて言ったの? 」


「 何でもないですぅ。

じゃあ行きましょ!! 」


屯平には女心が分からなかった。

手を引っ張られて買い物に。


おしゃれな服屋さんに着いて、麻理恵は鏡を見ながら似合うか見ている。


「 先輩はこれとこれ…… どっちが好みですか? 」


屯平は服屋が苦手。

探していると店員が声をかけて来るし、だからと言って良い服を選ぶのも苦手。

女性服専門店なら尚更気まずい…… 。


「 どっちも似合うと思う…… 。 」


「 全然見てない! 男の人ってなんでこんなにも選んだりするの苦手なのかな。 」


屯平は仲直りの為に仕方なく来たけど、目のやり場に困ってしまう。

そんな事はお構い無しに試着室に入ってしまう。


( こりゃ…… 俺にはハードル高過ぎだろ??

本当リア生活のじゅうじつはすげぇわ。 )


周りを見ると1つの商品に目が止まる。

屯平は手に取る。


「 先輩っ、これ見て下さ…… 。 」


試着室のカーテンを開けると屯平は居なかった。


「 何よ…… また居なくなってる。 」


仕方なく私服に着替えて出ると、屯平は戻ってきていた。


「 良いの決まった?? 」


「 もう良いです! 」


服を戻して店から出ていく。

一緒に選びたかったのに、居なくなっててまた怒ってしまった。


「 そんなに急がなくても。 」


早歩きで歩いて行く。

折角二人で楽しく選べると思っていたから、ガッカリしてしまっていた。


「 これ…… お詫びに…… 。 」


屯平が回り込み何かを手渡す。

渡されたのを見ると、さっきのお店の袋だった。


「 先輩…… これは…… ? 」


恥ずかしそうに頭をかきながら、何か言いにくくしている。


「 俺は…… あんまりプレゼントとかしたことなくて、良いものじゃかいかもだけど。 」


麻理恵は袋を開けると、可愛いヘアピンだった。


「 これ…… さっき居なかった時に買ってきてくれてたんですか? 」


麻理恵は前髪にヘアピンをいつも着けていた。

だから似合うんじゃないかな?

と思いながらこっそり買いに行っていたのだ。


「 もぉ! ならもっと早く言ってくださいよ!

私…… 勘違いして勝手に怒っちゃって。 」


勝手に怒ってしまい申し訳ない気持ちになっていた。

そしてヘアピンを見ると本当に可愛いヘアピンだった。

直ぐに嬉しそうに自分のヘアピンを取って、貰ったヘアピンを着けてみる。


「 あぁ…… 無理に着けなくても良いんだよ? 」


「 どんなプレゼントでも嬉しいです。

それにこれは凄い可愛い。

どうです? 似合いますか?? 」


着けて屯平を見て微笑んだ。

屯平は照れくさそうに直ぐに横を向いてしまう。


「 似合うと思うよ…… 。 」


麻理恵は嬉しそうに手鏡を見て笑った。

不器用で奥手な屯平がプレゼントをくれた。

それがこんなにも嬉しい気持ちになっていた。


「 先輩…… ありがとうございます。

これ大切にしますね。 」


嬉しそうに喜ぶ麻理恵を見て、買って良かったと心から思っていた。


「 あそこに美味しい焼き鳥屋さんあるぞ? 」


美味しそうな匂いに誘われて、焼き鳥屋を指さしていた。


「 絶対に嫌です! 今日はダメ。

あっちの出来たばかりのタイ料理のお店にします。」


あっさり断られてしまう。

でも1つ気がかりな事が…… 。


( 今日は…… ?

ならまた出掛けてくれるのか? )


麻理恵は屯平の手を引いてタイ料理のお店へ。

本当は焼き鳥の気分だったけど、仕方ないなと思いながらついて行った。


お店でメニューを選んでいるとき、屯平はずっと言いたかった事を言うことに。


「 あのさ…… 敬語辞めて良いよ? 」


「 えっ? 良いんですか?? 」


前からずっと気になっていた。

麻理恵ももう少し近付きたくて、敬語を辞めたいと思っていた。


「 おぅ…… 先輩は会社だけだ。

今から敬語禁止だからな。 」


麻理恵は嬉しそうしながら。


「 うん…… そうするね屯平! 」


いきなり呼び捨てに。

でもそっちの方が気が楽だった。


「 なら屯平も麻理恵…… て呼んで? 」


いきなりのグレードアップ!!

屯平は恥ずかしそうに顔を赤くする。


「 分かった…… 麻理恵…… 。 」


かなり小さな声で呼んだ。

麻理恵はそれでも嬉しかった。

これが距離を縮める第一歩になると思った。


「 あれ? 全然聞こえないなぁ?? 」


「 うるさいな、早く注文するぞ。 」


照れくさそうにメニューで顔を隠す。

そんな可愛らしい姿が、また麻理恵の心をくすぐるように愛おしく感じていた。


その日は楽しい1日になった。

麻理恵のヘアピンが綺麗に輝いていた。

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