第34話 もう1人の友達
屯平は今まで何度も精神的に不安定になってきた。
そんな男がどうやって生きてきたか。
それは精神科に通っていたのだった。
中学生の頃から親に勧められて、試しに通うと気が紛れて楽になっていた。
大人になる毎に通う回数は減り、今では全く行くことはなかったのだ。
もうお世話になる事はないと信じていた。
そして現在…… 。
屯平はいつもの診察室の椅子に横たわっていた。
「 お久しぶりですね。
見違えるくらい立派になられて。 」
精神科の先生は酒井と言うおじいさん先生。
屯平とは長い付き合いで、いつも親身になって力になってきた。
「 先生…… 俺はもうダメだ…… 。 」
屯平は意気消沈していた。
ぐったりして目は死んでいる。
「 屯平君はいつも頑張って来たじゃないか。
今日はどうしたんだい? 」
折角の異性との食事のときに、あの頃のいじめっ子に会って怖くて逃げて来た。
逃げた事により罪悪感で精神はどんどん堕ちていた。
「 そうか…… ならまずは落ち着こうか。
私のかみさんが作ったプリンがあるぞ。 」
プリンを出されても食べようとしなかった。
重症だった。
「 俺さ…… 最近ずっと頑張ってた…… 。
仕事も…… プライベートも…… 。
今までで一番頑張ってきたんだ…… 。 」
先生は優しくうなずいていた。
「 女性とだって最近話すこと多くなってた。
なんなら食事だってしたし、なんでか分かんないけど風邪の看病もされた事もあったし。
充実してるって思い込んでいた。 」
診察室の天井を見ながら話している。
「 でも違ってた…… 。
あの頃のいじめっ子に会って、女友達置いて逃げてたんだ。
怖くて…… 必死に逃げてた。
俺は何も変わってなんかいなかったんだ。 」
屯平は改めて自分の事を嫌いになっていた。
「 屯平君は良くここまで頑張ったね。
凄い成長してるんだよ。
昔なんかじゃ想像すら出来ないくらい変わったよ。」
先生は嬉しそうにしていた。
「 私は色々な患者さんと向き合って来て、屯平君と出会って沢山話してきたね。
学校にもちゃんと行けて、就職だって出来て私は本当に嬉しかったんだよ?
もっと自信を持って良いんだよ。 」
屯平は微動だにしない。
もうどうでも良くなっていた。
仕事も趣味も恋愛も…… 。
疲れきっていたのだ。
そしてポケットに入っているスマホのバイブが鳴っている。
「 さっきからスマホが鳴っているよ? 」
「 あぁ…… 逃げたから後輩の子かな?
それとも巴かも知れないな…… 。 」
全く見ようともしない。
現実に戻りたくなくて逃げている。
「 後輩の子も巴さん? その子も女性かな?
良いねぇ女の子と話せて。 」
先生は羨ましそうにしている。
「 後輩の子はなんでか分かんないけど、俺の事気に掛けてくれてる。
巴は…… 暇潰し? なんでか絡んでくる。
俺なんかと話さなくても、いっぱい良い人居るのにな。 」
「 可愛い子ばかりじゃないか。
キミは自分が思っているより、懐かれているんじゃないのかな? 」
屯平はスマホを手に取り画面を見せる。
「 その子…… アイドルやってて、写真集出したり引っ張りだこなんだってさ。
俺の事好きなはずないだろ? 」
先生はスマホの画面を見る。
「 こここりゃぁーーっ!!
屯平!! これはねるるちゃんじゃないか!
この子と友達だって言ってたのかい!? 」
隠れアイドルオタクだったのがバレてしまう。
語気まで荒くなり興奮している。
「 先生知ってたの…… ?
やっぱ人気なんだわ。 」
「 サインとか貰えたりしないのか?
なぁっ!? …… ゴホンっ! 取り乱してしまいましたね。
私が言いたいのはキミは成長して、周りにも恵まれている。
そして怖いときは逃げて良いんだよ。 」
先生はいつも調子に戻り、また話をしてくれる。
屯平はゆっくり立ち上がる。
「 俺…… 帰るわ。
今日はいきなりすみませんでした。
また来ますね…… 。 」
診察室からゆっくり出ていく。
先生は必死に追いかける。
「 また来るんだよ?
後はねるるちゃんのサインを…… 。 」
何か最後言っていたように感じたが、正直どうでも良くなっていた。
家まで帰る足取りは重く、自分の情けない姿に落胆してしまっていた。
先生との話で少し気持ちが楽になっても、後悔しかなくて自分を責め続けていた。
( コンビニでコーラでも買って帰ろ。 )
コーラを買って近くの公園のベンチに座って飲んだ。
暑いから喉が渇いて仕方がなかった。
「 相変わらずコーラ好きなの? 」
後ろからいきなり声をかけられる。
直ぐに振り返るとそこにはカスミが居た。
「 さっきはいきなりで…… 。 」
話から逃げようと勢い良く走ろうとすると、自分の鞄につまづいて倒れてしまう。
勢い良く倒れて頭を打って意識を失ってしまった。
目が覚めるとベンチの上だった。
頭が痛くて触るとおでこに絆創膏が貼られていた。
「 本当…… 私って嫌われてんだね。 」
カスミはまだそこに居た。
そして怪我したとこには手当てされた跡も。
「 手当て…… してくれてありがとう。 」
凄い小さな声で言うと首を横に振った。
「 良いの…… それよりデート中邪魔しちゃったわね。
久しぶりに会って舞い上がっちゃってた。 」
いつにもなくテンションが低い。
「 私…… ずっとあんたに謝りたかったの。
小学の時…… ずっといじめてた事…… 。 」
屯平は思い出して少し強張ってしまう。
そしてカスミは大きく頭を下げる。
「 本当に…… ごめんなさい…… 。 」
またいつものようにからかっているのか?
屯平にはその意味が分からなかった。
「 今更遅いのは分かってる…… 。
自分が罪の重みから楽になりたいだけって、言われたらそうなのかも知れない…… 。
でもどうしても謝りたかったの。
素直に会ったとき直ぐに言えなくてごめんなさい。」
真面目に言われて屯平にもやっと伝わった。
屯平は強張っていた体の力が抜けていった。
「 別に…… もう気にしてないよ。 」
「 ごめんなさい…… 。 」
屯平はかつてのカースト上位の女子に、こんなに謝られるとモヤモヤしてしまう。
「 俺がオタクだったからいじめられたんだし、仕方ないんだから。 」
「 違う!! ただの八つ当たり!
子供だからって最低な行為をしたの。 」
カスミは何度も頭を下げる。
屯平は炭酸が抜けてしまったコーラを飲む。
「 どうして俺がここに居るって分かったの? 」
「 屯平って何か悩んでるとき良くここに居るの知ってたから…… 。 」
何度も謝りたくて遠くから見ていたのだ。
屯平はその事を知り、嬉しかった。
「 もう忘れよう? 気にしてないから。 」
屯平はゆっくり立ち上がる。
「 そうだ…… 1つだけ良いかな? 」
「 えっ…… なに?? 」
屯平はずっと言いたかった事があった。
厳しい言葉をぶつけられたり、罵倒される覚悟をしていた。
カスミは歯を食い縛る。
「 飛鳥がさ…… ずっとカスミさんに謝りたいって言ってたんだよね。
冷たい言葉で傷つけたって…… 。
だから…… あいつの事許してあげて欲しいな。 」
カスミは号泣してしまう。
自分は傷つけてトラウマまで作ったのに、怒るどころか友達の心配をしてしまう屯平に、本当に申し訳ない気持ちでいっぱいになっていた。
「 飛鳥君…… 私の事気にしてくれてたんだ。
本当…… 優しい人だね…… 。 」
カスミは飛鳥の優しさに触れて、思い出して涙が溢れてしまう。
「 屯平…… あんたって自分が思ってるよりも、格好悪くないよ。
良いとこ沢山あるんだよ。 」
自分が作ってしまったトラウマを、少しでも和らげようと思い、優しい言葉を投げ掛ける。
「 ありがとう…… 。 」
照れくさそうに頭をかいてしまう。
「 私で良かったらいつでも力になるから!
だから何でも言って?? 」
屯平は少し考えてから。
「 なら…… 連絡先教えてくれる?
恋愛とか全然詳しくなくて…… そう言うの得意? 」
カスミは声を出して笑ってしまう。
「 はははっ…… そんな事?
それなら私に任せなさい!
あんたの何倍も場数踏んでるだからさ。 」
そう言い直ぐに連絡先を交換する。
屯平は嬉しそうに笑っていた。
カスミもその顔を見て嬉しくなった。
「 今日は色々迷惑かけました…… 。
そろそろ帰る…… 。 」
屯平はそう言い帰ろうとして立ち止まる。
「 俺は…… 悲しかったりしたけど、恨んだりしたことはない。
ただ…… 俺に無いモノ沢山持ってるから、羨ましいなぁって思ってたよ。
だから…… 友達になりたいって思ってた。
またね…… ありがとう。 」
そう言い帰って行った。
カスミは泣きながら笑ってしまう。
「 本当…… お人好しなんだから…… バカ。 」
カスミはやっと言えて肩の荷が取れていた。
それと同時に屯平と友達になれた。
それが何よりも嬉しくて帰って行った。
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