第36話 ストーカー


  いつもの喫茶店。

愛理は働きながら暇なときに、ふわふわオムライスの練習をしていた。


 「 別に良いんだよ。

私が作れるんだから無理しなくても。 」


  マスターが言うと愛理は全く聞こうとしない。


 「 マスターは見てて下さい。

私が作れるようになりたいんです。 」


 そう言いまた夢中で作り続けていた。

マスターの事を気遣っての事。

それもあるけど居なくなった飛鳥の為に。

そう思うと何か出来るようになりたかった。


 「 マスター、あいつまだやってんの? 」


 屯平が気になりマスターに聞いた。


 「 嬉しい事なんだけど…… でも無理しなくても良いと思うんだよね。 」


 マスターは心配そうに見ていた。


 「 マスターは休んでて下さいよ。

俺がビシッ! と注意してやりますよ! 」


 最近色々と前向きになり、今なら何でも出来ると思って注意する事にした。


 「 おい! あまり無理すんなって。

わざわざ無理してだなぁ。 」


 偉そうに語り始めると、愛理は鋭い目付きで振り返って睨み付ける。


 「 うるさい! 黙っててクレーマー!! 」


 その鋭い眼光と冷たい言葉が胸に突き刺さる。


 「 はい…… そうしまふ。 」


 情けなく席に戻って行く。

そしてマスターに結果報告を伝える。


 「 マスター、今んとこは好きにやらせましょ。

まぁ直ぐに根を上げるでしょうから。 」


 なんとも情けない台詞。

マスターも呆れてしまう。

愛理のやりたい気持ちは良く分かる。

でも難しい為頑張っても出来るようになるのは時間がかかる。


 閉店時間になっても辞める気配はなく、黙々とフライパンを振っていた。


 「 マスターはそろそろ帰って休みな?

俺は休みだから暇だし、見ててあげるからさ。 」


 「 そうかい? ならそうしようかね。 」


 マスターはお年なのもあり、帰って休む事に。

マスターは店を出て店内を見てニコっと笑う。


 「 飛鳥君…… 愛理ちゃんはキミの代わりになろうと一生懸命だよ。

それに…… 屯平ちゃんも変わったよ。 」


 嬉しそうに笑いながら家に帰って行った。


 夜になりもう遅くなった頃。

愛理は何度も失敗しながらも、作っては失敗の繰り返しだった。

時間だけが過ぎて行く。


 「 あんま無理してやるもんじゃないぞ。 」


 屯平が心配して駆け寄って来た。


 「 飛鳥さんみたいに上手く出来なくて。

ずっと見てたつもりだったのに…… 。 」


 屯平はシャツの袖を捲り、厨房に入って来る。

そしてフライパンを温める。


 「 あれは卵の入れるタイミングと…… 火加減が難しいんだよな。 」


 愛理は呆気に取られてしまっていた。

目の前で屯平が料理を始める。


 「 えっ? 何であんた出来んのよ? 」


 「 ん? ずっと見てて一回教えて貰って覚えた。 」


 屯平は手慣れた感じに料理をして、ふわふわのオムライスが完成する。

まるで飛鳥の料理のようだった。


 「 はっ!? あんた…… が出来んのよ。 」


 屯平の思ったより手先が器用だった。

少し料理の才能があったのだ。


 「 ゆっくりで良いんじゃないか?

ってあいつなら言うと思うから。 」


 愛理は少し気持ちが楽になった。

飛鳥なら本当にそう言ってくれるような気がした。


 「 …… ありがとう。 」


 ボソっとお礼を伝える。

屯平はちゃんと聞こえてなかった。


 「 なんて?? 」


 愛理は慣れない事を言って恥ずかしくなっていた。


 「 うるさい! だから彼女出来ないんだ。 」


 痛い事を言われて屯平は落ち込んでしまう。


 「 本当の事だからって言って良いことと…悪い事があるんだからな!

もう遅いから家まで送る。 」


 夜も遅くなり店を閉めて外に出る。

屯平は咄嗟に後ろを向く。


 「 ん? どうした? 」


 「 いや…… 誰かに見られてた気がして。 」


 周りを確認しても誰も居ない。


 「 本当人間不信なんだから。

早く行くぞぉ。 」


 気にしすぎだと思い歩き出す。

店から離れるとゆっくりと店の裏から怪しい男が出てくる。


 「 誰だ…… あの男は…… 。

にしても…… 勘の良いやつだ。

もう少し用心した方がいいな。 」


 その男はゆっくりと二人の後を追って行った。


 駅の改札口まで送り届ける。


 「 意味のない警護、お疲れ様でした。」


 「 一言余計だって。 」


 愛理は笑いながら電車のホームに向かって行った。

屯平も帰ろうとして振り返ると男性と体がぶつかる。


 「 あっ、すみません。 」


 屯平が謝ると相手は落とした帽子を拾う。


 「 こちらこそ…… 。 」


 その男性は店から追い掛けて来た男だった。

直ぐに改札口を通りホームに向かう。

屯平はその後ろ姿を見ていた。


 「 今の人…… マスターのコーヒーの匂いがしたな。

気のせいかな…… ? 」


 屯平は無駄に鼻が良かった。

気にしすぎだと思い、自分も家に帰って行った。


 電車から降りて1人暮らしのマンションに着く。

少しお高いマンションでエントランスは鍵を使わないと開かない。

他人はマンションに入るには、部屋番号を押してそこの住人に開閉して貰うしかない。

セキュリティ万全である。

両親が心配で選んだマンション。


 いつものように鍵を使いエントランスへ。

エレベーターに乗り自分の部屋まで上がる。

部屋に着き鍵を開けて帰宅。


 それを離れた場所から見ている。

その男はストーカーだった。

部屋を確認するなりゆっくり帰って行く。


 「 愛理…… ゆっくりおやすみ。 」


 怪しい男はゆっくりと歩いている。


 その次の日も愛理の後をつけていた。

バレないように距離は充分空けて。

何をする訳でもなく、後をつけて楽しんでいた。


 それは何週間も続き、愛理もようやく気づいていた。

早歩きするとその速さに合わせて早歩きをする。

角を曲がって走ったりして撒いたと思い、安心してため息をつく。


 「 怖い…… 家だけバレないようにしなくちゃね。

何で私なんか…… 。 」


 マンションに入るとストーカーはこっそり覗いている。


 「 さすがにバレたかな…… 。

そろそろ行動に移さないとね。 」


 スマホの画面をつけると、愛理の写真が映っていた。

それを見てニヤニヤしていた。


 愛理は用心深くなるが、あの日から一切つけられてる感じはしない。

安心感はなく毎日が気になってストレスになっていた。


 「 はぁ…… 。 」


 「 大丈夫かい? 」


 マスターが心配してくれていた。


 「 大丈夫です、ちょっと疲れてるだけで。 」


 そう言い仕事に戻る。

マスターは心配そうに見ていた。

屯平はいつもの席に座り、ゲームをしながら横目で見ていた。


 「 屯平君…… ちょっと良いかい? 」


 マスターは悩みの種を知っていた。

この前屯平が残ると言ったから残るのも許していた。

心配するだろうからストーカーが居るんじゃないか?

と簡単に言うのも難しかった。


 「 ん? どうしました? 」


 「 愛理ちゃんの事なんだけど…… 。 」


 ストーカーが居るかも知れない事を話す。

屯平はゲームをしながら聞いている。


 「 そんな物好き居るんですかね?

それに俺にどうしろと?? 」


 「 ウチの大切な従業員の身の安全を守る為だ。

屯平君にボディーガードを頼みたい。 」


 何とも大胆な発想。

屯平は笑ってしまう。


 「 マスターの頼みでもこれだけは。

あいつは俺の事目の敵みたいに思ってて、しかも気は強いから大丈夫でしょう。

しかもそんな危ないやつに出くわしたら、俺の命だって危ないし…… 。 」


 弱気な事を言いつつ理由をつけては断ろうとしていた。

マスターは胸元から何かを取り出す。


 「 確か…… このゲーム好きだったよね? 」


 出したのは屯平の好きなゲームの新作。

しかも値段の高い限定バージョン。

屯平は直ぐに手に取る。


 「 マスターとは長い付き合いだし。

女性の1人歩きは危ないしな。

仕方ない…… やりましょう。 」


 何とも現金な男。

マスターはそれでも頼りにしていた。


 外から愛理を見詰める男…… 。

フードを被り顔は見えない。


 「 愛理ちゃん…… 。 」


 恐ろしい男がニヤニヤと見つめて居るのだった。

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