第29話 風邪


屯平は少し疲れていた。

男かと思っていた巴はアイドルだったり、仕事相手でもあったりと落ち着かなかった。

マッチングアプリで連絡していた女性と、3人と会ったりと大忙しだった。

だからと言って上手くいくはずもなく、会ってからは連絡しても返事はなかった。


「 はぁぁ…… 休み返上して会ったのに、全く進展せずメシを奢らされただけだ。

話題も沢山出してたんだけどなぁ。 」


相性が合わない事もあるが、理由はそれだけではなかった。

それが分かったら苦労はしない。

恋愛は本当に複雑だ。


パソコンの前で少しうつらうつらとしていた。


「 おい、何ふらふらしてんだ? 」


与一が話をかけてきた。


「 あぁ…… 何ともない。 」


と言いながらもふらふらしていた。


「 少し休載して来いよ。

お前なんて居なくても一緒なんだし。 」


冷たい事を簡単に言っているが、少しばかり心配していた。


「 なら…… ちょっと飲み物飲んで来る。 」


屯平はゆっくりと出ていった。

周りの女性社員達も少し心配そうに見ていた。


「 二宮さん大丈夫ですか? 」


女性社員が与一に聞くと笑って答えた。


「 大した事ないだろ。

まぁ…… あいつはダメな時絶対ダメって言わないだろうけどな。 」


与一は少しだけ心配していた。

周りの女性社員達も心配してくれていた。


ベンチに座り乳酸菌飲料を飲んでいた。


「 ふぅわぁ…… 体がダルい…… 。

面倒だけど病院行ってくるかな。 」


休みもなく張り切ってデートをしたりしたので、体調を崩してしまっていた。


「 …… ん? メールかぁ。 」


スマホを見るとマッチングアプリからだった。


「 パンケーキさんこんにちわ。

今日はお仕事頑張ってますか? 」


麻理恵からだった。

まだ話しているのが麻理恵だと気づいてはいない。


「 モンブランさんこんにちわ。

今日は体調悪いので病院行ってきまふ。 」


屯平はメール返すと体がダルくてベンチの上で倒れてしまった。

ゆっくりとスマホは地面に落ちてしまう。


麻理恵は自分のデスクで仕事をしていた。

そして屯平からのメールを見て驚く。


「 うぇっ!? 風邪!!? 」


急に大きな声を出して立ち上がってしまう。

周りから一斉に見られる。

恥ずかしそうにゆっくりと座った。


( 恥ずかしい…… でも大丈夫なのかな?

メールの最後の語尾も誤字ってるし。 )


几帳面な屯平とは思えないミスだった。

直ぐに屯平を探しに行く事にした。

嫌な予感がして急いで休憩出来るベンチに。


( 先輩…… 待ってて下さいよ。 )


ベンチに着くと倒れた屯平をおんぶする与一が居た。


「 麻理恵ちゃんじゃないか。

どうしたんだい? そんなに息切らして。 」


「 はぁはぁはぁ、先輩は大丈夫なんですか!? 」


顔を赤くして眠ってる屯平を心配していた。


「 大丈夫だよ、社会人のくせに体調管理も出来ないなんてな。

全く世話が焼けるよ。 」


与一はやっぱりほっとけなくて、仕方なく来てみたら倒れていた。


「 病院連れてくんですよね?

なら私も…… 。 」


「 キミは他のチームの人だろ?

こいつの事は任せて置いて仕事に戻りな。 」


与一は屯平を連れて病院へ。

麻理恵はそれを見ている事しか出来なかった。


その頃巴は写真撮影の現場で暇をして居た。


「 マネージャー! つまんない。

何か面白い事ないかなぁ。 」


「 まあまあそう言わずに。

そう言えば今、この前の会社に電話したら担当の二宮さん? 風邪で倒れちゃってるらしいね。 」


その瞬間巴は立ち上がる。


「 マネージャー…… 早く撮影終わらせよ?

軽くポーズ決めてやっからさ。 」


「 おっと! 何かやる気になったかな?

待ってて直ぐに戻るから。」


巴はちゃっちゃっと終わらせようと思った。

当然屯平の事が心配になったからだった。


屯平は薬を貰い家で安静にとの事。

風邪でダウンしてしまった。

与一にタクシーで送られて家で降ろして貰った。


「 屯、大丈夫か?

薬飲んで早く治せよ? 」


「 悪かったな…… 後は宜しく。 」


そう言って自分のアパートに歩いて行った。

与一は心配そうにしながら会社に戻った。

屯平は出しっぱなしの布団の上に倒れてしまう。

何とか家に帰って来れた。


「 もうダメだ…… 寝るしかない。 」


ぐったりしながら直ぐに眠ってしまった。

相当具合が悪かったのだ。


何時間か過ぎてタクシーが屯平の家の前に。

降りて来たのは巴だった。

そして屯平の部屋へ。


「 屯平生きてるぅ?? 」


鍵も閉まってないので勝手に入ってしまう。

見ると部屋は散らかりっぱなし。

布団の上でスーツのまま寝てしまっている。


「 凄い散らかってる…… 屯平大丈夫? 」


「 うぅ…… ううーーっ。 」


苦しそうにうなされていた。

巴は直ぐに屯平のスーツを脱がしてパジャマに着替えさせ始める。


「 こんな事は朝飯前よ。

お父さんの酔っぱらったときにやってるからね。 」


慣れた手つきであっという間に着替えさせてしまう。

屯平は着替えた事すら気付いていない。


「 よし、ならまずは掃除するか。 」


屯平の散らかし続けていた部屋を、静かに掃除し始めてしまう。

読んだら読みっぱなしの雑誌。

床に散乱するペットボトル達。

男のだらしない部屋の代表のようだった。


巴は髪を束ねて本格的に掃除をした。

いらない古い雑誌はゴミ捨て場に。

食べ掛けや飲みかけも全て捨てた。

巴は全く嫌な顔せずにやっていた。


「 ふぅ…… こんなもんかな? 」


部屋は整理整頓されて本は棚に。

床のいらない物は全て撤去した。

棚を見ると大好きなアニメやゲームのフィギュアや、ゲームなどが飾られている。

拘りなのかここだけは整頓されていた。


「 ふぅーー ん…… ちょっとはオシャレね。

でもここには女の子呼べないわね。

普通に引かれるね。 」


巴はオタクな趣味に慣用的で、自分もゲームをやったりするから全然嫌ではない。

一般的な目線からすればオタクの部屋だ。


「 薬飲んだのかな?

おいっ! 薬は飲んだの? 」


屯平を揺すると頭を横に振った。

貰った薬の袋を見つけて、弱っている屯平に薬を飲ませる。


「 飲まないと治んないからね? 」


介護されるように膝枕をされながら薬を飲む。

屯平は言われるがまま言うことを聞いていた。

飲むとゆっくりとまた眠りに。

巴は落ち着いた屯平の表情に、少し一安心していた。


その光景をこっそりと台所の窓の隙間から見ていた麻理恵。


( なになになに!?

あの女性は一体誰なの?

あんな親身になってやってくれてるし…… 。 )


麻理恵は仕事を終わらせて屯平の介抱しようと、急いでやって来たのに巴に先を越されてしまっていた。

手には沢山のヨーグルトや飲み物。

消化に良いものを沢山買ってきていた。


( そうよね…… 先輩にだって彼女さんくらい居るよね。

私ったら余計なお世話しちゃった…… 。 )


麻理恵は悲しそうにゆっくりと帰っていった。

持ってきた物は玄関のドアノブにかけて置いた。

折角買ってきたから無駄にはしたくなかった。


( 本当…… 余計な事したなぁ…… 。 )


麻理恵は凄く心が痛くなっていた。

ただの友達くらいに考えていたのに、ここまで他の女性が居ることに嫉妬してしまっている。

その時初めて分かった。

麻理恵は屯平の事を好きになっていた。


巴はお粥を作っていた。

そこにまた違う来客が。


「 おいっ! 生きてるか? 」


ドアを激しくノックしながら野太い声が。

与一が心配してやって来たのだ。


( げげげっ!!

余計な来客が来るとは。

私が居るの見られると色々まずい…… 。 )


直ぐに持ってきた帽子を被る。

長い髪も帽子にすっぽりと隠す。

無神経にドアを開けて入って来た。


「 屯平…… 生きてる…… か? 」


巴と鉢合わせする。


「 あれ…… あなた誰です? 」


「 どうも、ちょっとした知り合いで。 」


声も少しトーンを下げてバレないようにする。


「 はぁ…… そうですか。 」


「 はい…… わた…… 俺はこれで失礼します。 」


直ぐに荷物をまとめて帰っていく。

与一の横を横切る。


「 お疲れさま…… です。 」


与一は不思議そうに見ていた。


「 今の人…… 女性??

凄い良い匂いがしてた。 」


与一の男センサーは人並み以上。

少し隠しても簡単にバレてしまった。

ただ女性の友達なんて居ると思わないので、気のせいだと思う事にした。


「 チッ! 余計な奴のせいで帰らないといけなくなったじゃないか。

まぁ充分やれたから良いかな? 」


巴は嬉しそうに帰っていくのだった。

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