第28話 アイドルの悩み
巴は屯平と飛鳥を遠くから見るのが日課になっていた。
屯平が居ない時に飛鳥は良く話をかけてきた。
「 こんにちは、良かったらゲームやらない? 」
「 別に…… やりたくない。
あなた何でもう一人のおじさん居ないときだけ来るのよ!
もしかしてナンパ!? 」
言われた通り飛鳥は屯平の居ないときだけ来ていた。
「 そうだね…… 色々複雑なんだ。
俺の友達はね…… あまり女性と上手く話せなくて、もしキミと俺が話してたら逃げちゃうから。 」
「 良い大人がだらしない…… 。
コミュ力ない人とかヤバいでしょ。 」
屯平の事を非難してしまっていた。
飛鳥は怒る事なく聞いている。
「 心って複雑で傷ついたら簡単には修復出来ない。
ゆっくりと時間をかけて治すしかないんだ。
俺の友達はリハビリ中なんだ。 」
飛鳥は少し悲しそうに話した。
巴も交遊関係が上手くいっていない。
だから気持ちが良く分かった。
「 もし俺の友達が一人で居るとき、ゲームの対戦相手になってくれないかい?
話さなくても良いからさ。 」
そう言って飲み物を手渡した。
直ぐに巴は立ち上がる。
「 誰もやるなんて言ってないんだけど!? 」
「 やらなくても全然構わないよ。
やりたくなったらで良いからさ。 」
飛鳥は帰って行った。
巴はゆっくりと座ってため息をつく。
「 別に…… ゲームなんかやりたくないし。 」
と言いつつやってしまった。
意外にやってみると楽しかった。
下手くそで負けまくりなのに、それでも夢中になってやっていた。
屯平が真剣にやってるのが良く分かった。
それから仕事の合間にやるのがガス抜きになり、仕事も変な緊張が無くなって上手くいった。
人気が出て来ると行く日は少なくなっても、出来る限り行っては練習していた。
そして声をかけられたくなくて、大きめな帽子に大きな眼鏡をかけるようになった。
ある日に行ってゲームをしていると、ゆっくりと飛鳥が近づいて来た。
「 久しぶりだね、意外に楽しいだろ? 」
夢中で近づいて来たのに気付かなかった。
「 ななな…… 何よ、やるのは勝手でしょ? 」
恥ずかしそうに言った。
でも帽子に眼鏡をかけて居るのにどうして気づいたのだろうか?
「 何で…… 私だって分かったの? 」
「 どうしてだろ?? 勘かな! 」
仕草や背格好で何となく分かった。
そんなさりげない気配りが出来る飛鳥を格好良く見えていた。
「 じゃあそろそろ行くね。
俺と友達は近くでゲームしてるからさ。
今度二人でやろうね。 」
そう言い屯平の元へ。
「 遅いじゃないか! 早くやるぞ。 」
「 悪いな、やろうか! 」
離れた場所から二人をまた見ていた。
屯平を見ていると本当に楽しそうに笑っている。
「 何だ…… 女性が苦手でも友達とはあんなに笑えるんじゃない。 」
巴は屯平の笑っている顔が好きになっていた。
飛鳥の写真を店で見ながら色々思い出していた。
「 名前も全然話さなくて、愛想も悪かったのに凄く話しかけてくれたなぁ…… 。
もっと話して置けば良かったって後悔したなぁ。 」
巴は寂しそうに話した。
愛理も飛鳥の写真を見ていた。
「 そろそろ戻って来るかな。
店員さんは屯平の事好き?? 」
急な質問に愛理は動揺してしまう。
「 ちょっと!! んな訳。
全然ありません、いや100%ありえません! 」
そう言うと巴はクスりと笑う。
「 良い友達になれそう。
じゃあ戻るね。 」
巴はご機嫌になり席へ戻った。
愛理は心臓が高鳴っていた。
( 何言ってんのよ…… ビックリさせないでよ。
そんな事考えた事もなかったわ。
あんなダメ人間…… なんとも…… 。 )
屯平はトイレから戻って来た。
「 ふぅーーっ また食べるかな。 」
「 レディとの食事の時にトイレとかありえないんですけどぉ? 」
巴は楽しそうに話していた。
屯平はまだ少し慣れなくて、あまり目を見れていなかった。
ご飯も食べてゆっくりとくつろぐ二人。
テーブルの上に巴は自分の写真集を出した。
「 ねぇねぇこれ見てよ?
新しいのなんだけど、ドバイで撮った写真。
どれが良く撮れてるかなぁ?? 」
屯平に自分の写真集の感想を聞こうとしていた。
「 おいおいおいっ! 何だよこれ!! 」
顔を赤らめて目を背ける。
屯平には刺激が強すぎた。
そんな反応が来るのを分かっていて、ニコニコしながら楽しんでいる。
「 ちょっとさっきからうるさいわね。 」
愛理が注意しに来ると写真集に目が行った。
「 あんた…… こんな写真集買って…… 。 」
「 あっ…… それは。 」
写真集を持ち上げて中身を見られた。
「 本当男って…… こんなの何が楽しいの?
婚活とか言ってこんなの買って…… 。
現実見なさいよ! こんな女性は今頃リッチな男性と食事してるわよ。 」
いつもの愛理の容赦ない指摘が始まった。
屯平はあたふたしてしまっていた。
何故ならその写真集の女性が目の前に居るのだから。
「 愛理さん…… 今日はそこまでにして。 」
「 ダメです! あんたは言わないと分からないんだから。
このアイドル人気な子よ??
あんたみたいなオタクでもじゃもじゃ頭。
付き合えると思ったらバチが当たるわよ? 」
ドンドンとパワーワードが炸裂してしまう。
屯平は全く傷ついていない。
それよりも巴の事を心配していた。
そして巴は立ち上がり帽子と眼鏡を外した。
「 初めまして、その写真集に出てるねるるです。
宜しくお願いします! 」
帽子で隠されていた長い髪が出て、良い匂いが愛理に降りかかる。
愛理の目はグルグルと回っている。
「 あにょあにょ…… ねるる…… 。 」
いきなりの事に頭が追い付かず、失神して倒れてしまう。
「 あぶなぁーーいっ!! 」
何とか屯平が地面に落ちる前にキャッチした。
「 マスターっ!! ちょっと助けてくれよ。 」
直ぐに愛理は二人で裏に運ばれてしまう。
巴は面白くて歯を見せるように笑った。
「 本当面白いっあはははは。 」
屯平が直ぐに戻って来た。
「 思ったより一般人にはお前の存在はデカ過ぎる!
何で正体バラしたんだ? 」
「 んん? 愛理さんだっけ?
何か見てたら可愛くてからかいたくなって。 」
巴はからかうのが大好きないたずらっ子。
からかうのは好意的な相手にだけだった。
愛理の事が気に入っていた。
無駄にお騒がせしてしまい、屯平と巴は帰る事にした。
愛理は帰るまで気を失っていた。
「 なぁ…… 何で俺の事かまったり、行くとこ付いて来たりするだ?
お前みたいな有名人は…… ほら。
何て言うか…… 。 」
「 屯平の悪いとこは直ぐにマイナス発言するとこ。
後は人の目をしっかり見ること! 」
顔を近づけて来ておでこに指を当てて注意してきた。
直ぐに払い避けてしまう。
「 年下の癖に生意気なんだよ!
距離感…… 無駄に近いし。 」
「 普通にこれくらい当たり前。
屯平には前からタメ口だったんだから、別に今更気にされてもねぇ…… 。 」
全く受け入れられなかった。
巴は屯平の前を歩いている。
「 それと…… 一緒に居て楽しいから。
それで良くない? 」
屯平は不思議で仕方がなかった。
こんな自分の相手をしていて何が楽しいのか。
「 じゃあ帰るねぇ! それじゃあ。 」
そう言い角を曲がり帰って行った。
「 楽しいから…… それだけじゃないけどね。 」
小さく独り言を言った。
また少し前の事を思い出してしまう。
それは巴が一人でゲーセンに居ると、子供がUFOキャッチャーをやっていた。
離れた所で見ていると何度やっても上手くいかない。
子供は悔しそうにしていた。
「 子供には難しいって…… 。 」
巴がそう思っているとそこに屯平が現れた。
「 ガキんちょ…… 力の法則が分かってないな。
お兄ちゃんに少し貸してみろ。 」
そう言い屯平がやり始めた。
「 まずはだな…… 重量が多いとこを見極めて、持ち手との力と反作用によってだな。 」
うんちくをぶつぶつ言いながらやっている。
少し持ち上がると直ぐに落としてしまう。
「 全然ダメじゃん! 」
子供は正直に何でも言ってしまう。
屯平はまた100円を入れる。
「 だからまだまだ甘いんだよ。
今のは様子見だわ! 」
そう言って何度も何度も失敗していた。
近くに居た子供達も見物しに来て、屯平のうんちくを聞いては笑っていた。
「 おじさん全然ダメじゃんかよ! 」
子供達は笑いながら見ている。
屯平はその中心で一生懸命力説していた。
「 だから言ってるだろ?
物理の法則では…… ここんところを。
あちゃーーっ!! 」
失敗する毎にみんなを笑わしていた。
取れなかった子供も一緒に笑っている。
「 なっ? 凄いだろ?? 」
飛鳥がひょこっと巴の前に現れる。
「 はぁっ!? あれの何処が…… 。 」
「 あいつは子供の為に取りたい。
その思いでやってるけど、それが上手くいってないんだなぁ。
でも俺が一番好きなのは…… 。 」
飛鳥が嬉しそうに見ていたのは、屯平を中心に子供達が囲むように野次馬になり、笑ったりアドバイスをしたりしていた。
その笑いは屯平の優しさが動かした結果だった。
「 こうやって…… これ来たーーっ!! 」
子供の為にぬいぐるみをやっと取った。
そのとき子供達も大はしゃぎしていた。
「 あいつ…… カッコいいだろ? 」
そう言って笑いながら屯平の元へ。
巴は屯平の事が気になっていた。
他の人達は誰も助けてあげなかったのに、屯平だけが出来もしないのにカッコつける為に行ったのだ。
「 本当…… 何円使ったのよ…… あははは! 」
その時初めて屯平の事へ興味を持ったのだった。
屯平は結局8000円くらい使って取っていた。
カッコつけるには大きな出費になった。
巴は思い出しながら笑っていた。
あの日から興味を持って今では友達に。
「 本当屯平と居ると飽きないなぁ。 」
巴は屯平の事が好きになっていたのだった。
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