第27話 タメ口


仕事も無事に終えて帰る事に。

屯平は疲れたので喫茶店で、愚痴を聞いて貰いながらマスターに色々奢って貰おうと思った。


( うっしっしっし…… 。

疲れたときはやっぱあそこだな。

給料前で色々ピンチだからあそこで色々食べようっと! )


嬉しそうに外に出ると後ろから思い切り抱きつかれる。


「 何処行くつもりよ! 」


「 うわぁっ!! 」


びっくりしてそのまま前に倒れる。

帽子を被り大きめな眼鏡をかけて変装した巴だった。

相変わらず積極的な対応。


「 何処に行くのも勝手だろう?

ってか…… お仕事はもう終わりか? 」


「 うん、だからこっそり待ってたの。 」


世の中のファンが聞いたら死んでしまうくらい嬉しい展開。

屯平はゆっくり立ち上がる。


「 本当アイドル様は自由気ままな事で。 」


「 屯平お腹空いた…… 早く連れてって。 」


巴は正体をあかしてからは、自分の思った事を言うようになった。


「 何で俺が連れてくんだよ!! 」


「 あっ…… 屯平の上司に言っても良いの?

凄い態度悪くてイメージキャラ降板したいって。 」


上手いこと痛い所を攻めた。

年下の女の子に偉そうな態度を取らせたくない。

ここは大人の威厳を魅せるタイミング。

屯平は心を鬼にして。


「 お嬢様、直ぐにお連れしますね。 」


やっぱり頭が上がらなかった。


「 うむ、早く連れてってくれ。 」


まるで姫様と家臣の関係に。

仕方なく喫茶店に向かった。


喫茶店に入りいつもの目立たない奥の席へ。


「 凄いレトロなお店だね。

昭和の感じみたいな? 」


「 何か嫌みに聞こえるんだけど。 」


二人はメニューを見ながら話していた。

初めてのお店で巴もはしゃいでいた。

屯平とプライベートで出掛けた事はほとんどなく、いつもゲーセンばかりだった。

そのせいなのか? いつもより会話も弾んでいた。


「 マスター…… あれ誰ですかね? 」


愛理が巴に直ぐ目がいっていた。

マスターも目を細めて見る。


「 誰だろうね…… 初めて見る子だね。 」


愛理は気になり直ぐにお冷やを持って席へ。


「 いらっしゃいませ。

ご注文がご決まりになりましたらお呼び下さい。 」


そう言いお冷やを渡す。


「 あいよ。 」


屯平は相変わらず適当な返事。

巴はコクリとうなずくだけ。

直ぐにその場を後にした。


「 マスター…… あの子…… 女の子じゃない? 」


「 そうなのかい? パッと見では分からないね。 」


愛理は直ぐに巴が女の子だと分かった。

髪をまとめて帽子に入れていても、シャンプーの匂いや洋服の匂いだけでも男性とは違う。

それに指が綺麗なのも直ぐに分かった。

女の観察眼はえげつなかった。


「 それに…… あいつがまともに話してる。

女の子と友達になったのなんか、麻理恵ちゃんと美紀くらいだし。

あれは一体誰なのかしら? 」


愛理は興味津々だった。

注文を頼まれてマスターが調理を始める。

愛理は飛鳥のように作れなく、運んだりお皿を出したりする程度。

作る練習はしていても簡単にはいかない。


「 お待たせ致しました。

海老グラタンとナ・ポ・リ・タ・ンです。 」


あえて屯平の頼んだナポリタンを強調して言った。


「 おいっ! 何だその言い方は?

ここの店員は接客態度最低だなぁ。 」


「 はっ? あなたには言われたくありません。

最低な客のクセに…… 出禁レベルじゃない! 」


相変わらず二人の痴話喧嘩が始まった。

直ぐにマスターがやって来る。


「 声が丸聞こえですよ、愛理ちゃん。

すみませんね…… 初めてのお客さんの前で。

良ければこれ、サービスです。 」


そう言いながらアイスクリームを渡す。

相変わらず大人なマスター。

愛理を連れて厨房へ戻って行った。


「 ごめんな…… うるさい店で。

味は文句無しにうまいから安心してくれ。 」


巴は愛理とマスターを見ていた。


「 屯平…… ここが屯平のお気に入りの場所? 」


前に遊んでいるときに来ている事を話していた。


「 そうだよ、マスターは父親同然なんだ。

あのうるさいバイトは別として。 」


屯平は笑みを浮かべながらカフェオレを飲んだ。

巴はそんな顔を見つめている。


「 何か顔に付いてるか? 」


「 え…… あっ、何か良いお店だなぁって。 」


そう言いながらアイスクリームを食べる。

すると目を大きく見開いて口に手を当てる。


「 何これ…… 美味すぎなんだけど! 」


と大喜びしてまた一口。

パクパクと食べる姿を見て屯平も喜んでいた。


「 そうだろ、そうだろ?

マスターがこれまた変わりもんでさ、アイス出したら売り上げ上がるかも?

とか言ってやろうとするまでは良かったんだ。

でもわざわざ牛乳に拘ってわざわざ、牧場から取り寄せた牛乳で作るまでやっちまったんだよ。

味に探求するのは良いんだけど、ここまで出来るまでの出資の方がかかったんだよ。

本当笑っちゃうだろ?? 」


屯平はゲラゲラと笑った。

それを見て釣られて巴も笑ってしまう。

調子に乗って勢い良くカフェオレを飲み過ぎてしまい、お腹が痛くなり屯平はトイレへ。


「 本当に人の苦労を笑い過ぎだよ。 」


マスターは恥ずかしそうにカップを拭いている。

巴は食事を食べながら周りを見渡していた。

そして一つ気になる物に目が止まる。


「 あれって…… 。 」


飛鳥の写真に目が行ってしまう。

店を見渡せる場所に綺麗に飾られている。

その周りには屯平と飛鳥とマスター、愛理が映った写真も飾ってある。


「 あいつの親友です…… 。

ついこの前亡くなってしまって。 」


愛理が巴が気になっていたので説明に行った。


「 あいつは女性恐怖症で全然話せないし、だからと言って男性の友達もほとんど居なくて。

そんなあいつのたった一人の親友だったんです。

本当に…… 良い人でした。 」


愛理が懐かしみながら目がうるうるしてしまう。


「 知ってるよ…… この人。 」


巴がぼそっと口を開く。


「 凄い優しい人だなって見てたから。 」


そう言って飛鳥の写真の前で手を合わせる。


「 知ってるんですか? 」


「 うん…… ずっと前からね。 」


それはさかのぼる事数年前…… 。

まだ芸能界に入って上手く行かなかった時、ゲーセンで巴は時間を潰していた。

少しでもストレスを紛らわしたかった。


つまらなそうに座って店内を見渡していると、二人の男が目の前でゲームをしていた。


「 うおいっ!! また卑怯したな? 」


「 卑怯でもなんでもないだろ?

同じ手に何度もかかる屯平が悪い! 」


それは屯平と飛鳥の姿だった。

楽しそうに笑いながらゲームをしていた。


( 男って単純…… あんな怒ったり笑ったりして、子供みたいにはしゃいでバカみたい。 )


直ぐに他に目をやりその日は終わってしまう。


また別の日に来て適当に時間を潰していると、また二人がやってきた。


( また子供みたいなオヤジだ…… 。 )


暇で見ているとまた楽しそうにやっていた。

二人の会話を聞いていると何故かくだらない、と分かっているのに笑っていた。

その日から巴は遠目で見るのが日課になった。


ある日の事…… 。

また二人を見ていると屯平はゲームで負けて怒って帰ってしまった。

大人げないと思って見ていた。


「 キミいつも遠くから見てるよね?

キミもゲーム好きなのかい? 」


飛鳥が話をかけてきた。


「 別に…… ただの暇潰し…… 。

いきなり話しかけてくんなよ。

良い大人がゲームばっかやって。 」


無愛想な返答をしてしまう。

恥ずかしさを紛らわせるように強がってしまっただけだった。


「 あはははっ、ごめんねいきなり話しかけて。

大人だってゲームやるさ。

楽しい事をやるのに年齢は関係ないだろ?

人生は楽しんだもん勝ちさ。 」


飛鳥は笑いながら話していた。

巴は黙って聞いていた。


「 キミはいつも寂しそうにしてて気になってね。

つい余計なお節介で話しかけてしまった。

それと俺も暇潰しでかな? 」


「 はっ? 暇潰し?? 」


自分との話を暇潰しと言われ少し腹が立った。

でも飛鳥の話し方は悪いようには聞こえなかった。


「 さっきの俺の友達…… 短気だろ?

負けたりすると直ぐに怒るんだ。

笑っちゃうだろ? あははは。 」


嬉しそうに話している。


「 でもね…… 俺の友達は絶対に俺を裏切らない。

一生親友で居れるくらいの絆なんだ。 」


「 裏切らない? 現にキレて帰ったじゃない。

そんなヤツ早く縁切って違う友達作ったら? 」


人間関係に疲れていたのもあって、綺麗事を言う飛鳥に八つ当たりしてしまった。

飛鳥は全く動じてはいなかった。


「 そう思うだろ?

そろそろかな…… 離れたとこで見てなよ。

あいつが戻って来るからさ。 」


言われた通り遠くで見ていると、本当に屯平が戻って来た。


「 さっきは…… 言い過ぎたわ。

このアイス食って再戦しろよ!

今度は俺のエレガントプレイで負かすからな? 」


「 また泣きべそかくなよ? 」


飛鳥は屯平からアイスを受け取り食べた。

そして飛鳥は一瞬、アイコンタクトのように巴を見た。

そしてにっこりと笑った。

まるでだから言っただろ? と言わんばかりに。


巴は友達になんか興味なかったのに、急に羨ましく感じてしまった。

巴はその日楽しそうに遊ぶ二人を、羨ましそうに見つめているのだった。

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