第22話 運男


屯平はいつものように仕事へ。

いつもと変わらずパソコンとにらめっこ。

作業を進めてノルマをこなす。


そこへ嫌み全開の同僚の与一がやって来る。


「 相変わらず黙々とやってるねぇーーっ。

俺なんか今さっき、上司と話してお褒めの言葉を頂きました。

昇進も目と鼻の先だってさぁ。

ウッシッシッシ!! 」


肩を無理矢理組まされて屯平は嫌そうにしている。


「 それは良かったですね…… 。

未来のない俺はほっといて仕事して貰える? 」


そう言い無理矢理肩から腕を振りほどいてしまう。


「 なになになによ??

冷たい態度取っちゃってさ。

大した成果もない癖してよ。 」


それを聞いて周りの同僚は笑っている。

屯平は全く効いていない。

ただひたすら仕事をしている。

それがまた与一をイライラさせてしまう。


「 同じ同期でなんでこうも違う訳??

俺は毎日出世コースまっしぐら。

それに比べお前は新入社員にすら鼻で笑われる。

俺は悲しいよ…… だから助けてやりたい。 」


心にもない事をべらべらと話している。


( こいつのこの性格にも慣れたな…… 。

流すのが得策だけど、少し恥をかかせてやるか? )


屯平はポケット石を握り締める。


占い師からの言葉を思い出す。


「 運気が倍増しているあなたに不可能はないわ。

あなたが望みさえすれば、全て思いのまま。

試してみると良いわ。 」


その言葉通り石を握り願いを込める。


( 高級寿司をたらふく食べたい…… 。 )


屯平は強く願う…… 。


そこへ部長がやって来た。


「 二宮くん! お昼まだだろ?

良かったら食事に行かないかい?? 」


( なにぃ!? こんなにも容易く!!? )


屯平はまさか…… そんなに上手く行く訳はないと思った。


「 はい…… まだですけど。 」


「 なら良かったぁ。

仕事の話しもあるし外で食べよう。

実はさっきさ…… 福引きで高級寿司の無料券が当たってしまったのさ。

だから二人で食べようじゃないか。 」


それを聞き周りはびっくりしてしまう。

与一も黙ってられる筈もない。


「 部長ぉお! 俺と行きましょうよ。

相談したいこと沢山…… 沢山あるんですよ。

だからお願いしますよぉおーーっ。 」


可愛い部下モード全開。

胡麻すり上手な部下に早変わり。

出来る男は何処へ行ったのだろうか?


「 すまないね…… キミとは良く食べに行ってるだろ?

だから今日は二宮君と決めていたんだよ。

さぁ、直ぐに支度して行こうか。 」


周りもびっくりするくらいの出来事。

屯平は直ぐに支度をし、仕事場から離れていく。

与一は黙って通りすぎるのを見ている。


「 あの野郎…… どうなってる…… 。

運から見放されてるあいつが何故。 」


現実を受け入れられずに、ゆっくりと屯平の席に腰をかける。

引き出しから一枚の名刺がはみ出ているのを見つける。


「 なんだこれ…… 月詠?

これって…… 占い師の名刺…… 。

なんでこんなもんがこいつの引き出しに? 」


占いなんて信じなそうな男の引き出しから、名刺を見つけて疑問に感じていた。


屯平はカウンターの寿司屋にやって来ていた。


( 凄いお店だ…… 飛鳥と行ってたチェーン店が子供の店に思えてしまうクオリティ…… 。 )


大好きなチェーン店を下げたくなくても、どうしても差を感じては目を丸くしてしまう。


「 二宮君、じゃあこの店のフルコース。

堪能しようじゃないか! 」


部長は格好つけて買ったシマシマのネクタイは、何ともミスマッチだった。

本人は嬉しそうだったので、屯平も何も言わなかった。


入って席に着き、ゆっくりと目の前で寿司が握られる。


「 まずはマグロの赤身です。

取れたてなので最初にお食べ下さい。 」


一口食べると口に広がる旨さ。

生臭さはほとんど無く、赤身の旨味が凝縮された感じだった。


「 うまいです…… 。 」


屯平が言うと部長からは返答がない。

直ぐに横を見ると涙を溢していた。


「 えっ…… 部長大丈夫ですか? 」


「 すまない…… 接待とかで食べた事あったけど、あの時は味なんて味わう余裕なくて。

さぁ大将、どんどん握ってくれるかい? 」


嬉しそうに頼む姿は似合わないネクタイと相まって、場違いな感じなのは考えないようにした。


「 二宮君…… 親友の傷は少しは癒えたかい? 」


屯平はお茶を口に入れて少し考える。


「 俺にとってはたった一人の親友だったので、そう簡単には癒えそうになくて。

でも約束したんです…… 。

自分のパートナーを見つけて幸せになる。

難しいですけど…… 頑張ってみようかなって。 」


部長は嬉しそうにお寿司を一口で食べる。


「 そうか、そうか…… んんっ!

ごくりっ、その気持ちが大切なのだよ。

あっはっは、何なら私がお見合い取り合っても良いぞ?

私はキミの味方なんだからな?

あはははっは! 」


屯平もその気持ちが嬉しかった。

その後も楽しい時間を過ごし、部長がアボカドロールを頼むまでは、大将との平穏な時間を過ごせたのだった。


仕事を終えた与一は、一人占い師の元へ。

沢山の女性が並んでいて当分は自分の番に回ってこない。

一時間が過ぎるとやっと自分の番に。


「 いらっしゃいませ…… 何を占いますか? 」


「 ちょっと聞きたいんだけど!

30代くらいの冴えないおっさんで、天然パーマの挙動不審な男来なかったか?

女性への耐性ゼロみたいな感じな。 」


占い師にも保守義務があり当然話せない。

月詠さんはその事を伝えようとする。

でも与一の体から溢れるオーラを見てびっくりしてしまう。


「 あなた…… とても幸運で自分からも掴みに行くくらいの強運の持ち主。

そんなあなたが何故他の人の事が気になるのです?

堂々と生きれば良いのです。 」


与一は笑ってこう言った。


「 俺は今のままじゃ満足出来ないんだよ。

もっともっと強欲で強運を手に入れたい!

だから冴えないサラリーマンに渡した石。

俺にも売ってくれよ。 」


月詠はその目の奥に輝く、強欲で欲望でいっぱいになる男の野望が見えてしまう。

笑って石を手渡した。


「 そんなに欲しければお譲りしましょう。

あなたは本当に傲慢な人ですね。 」


「 まぁね、自分の人生だし楽しませて貰うよ。 」


与一は嬉しそうに帰っていく。

月詠はその後ろ姿を見送っていた。


「 あの石は強力なんだよ…… 。

不幸な人には強大な幸運を。

また幸運な人には…… 。 」


クスりと笑いまた仕事に戻る。

これだから占い師は辞められないと感じていた。


屯平は帰りにゲーセンに寄っていた。

当然いつもの帽子の子が居た。


「 お前…… いつもこの時間に居るな。 」


帽子の子はあまり反応しなかった。


「 別に…… この時間には来れるようにしてるだけだよ。

暇人って訳でもないから。 」


そう言いながらゲームに夢中だった。


「 何か飲み物でも飲むか? 」


「 えっ? …… 別にいいよ。 」


屯平は気にせず自販機で自分の欲しいのを買う。

するとルーレットが始まり、当たりの所で針が止まる。

大きな音で当たりを知らせる。


「 好きなの選べよ。 」


まるで分かっていたかのような対応。

帽子の子も驚いている。


「 おっさん…… 犯罪でもしてんの? 」


「 バカ言うなよ! これはだなぁ…… 。 」


石の話を聞かせて見せていた。


「 へぇ…… 良くもこんな石の話信じるね。

絶対騙されてるんだよ。 」


まだ疑ってる帽子の子に、屯平は面白がってまた運の力を見せようとする。

周りを見渡して何かを探している。


「 ならこれ見てくれよ。 」


落ちていたコインを見せる。


「 このたった一枚のコイン…… 。

これを俺は100枚以上にしてみうよではないか。 」


そう言いコインゲームの所に向かう。

帽子の子も疑いと同時に、遂に気でも狂ってしまったのか?

と心配もしていた。


たった一枚でスロットゲームをする。

適当にスロットを止める。

7…… 7…… 7!!

フィーバーになり、大量のコインが排出されてくる。

帽子の子もこれは石の力なのだと思ってしまう。


「 あーーはっは! 見たか!

これさえあれば婚活なんて余裕だよ。

彼女だって秒で出来るさ。

ふーーはっはっは!! 」


バカ笑いをしていると小さな少年とぶつかる。


「 ごめんなさい…… 。」


子供は謝り直ぐに出ていってしまった。

屯平さ気にせず、笑うのを続ける。


「 その石もう一回見せてよ。」


「 良いよぉ、何度でも…… ?

えっ! ない…… ない!! 」


幸運の男の石が失くなっている。

周りを見ても落ちていない。


「 あっ…… さっきの…… 。 」


少年とぶつかった時に、盗まれた可能性を考えてしまう。

直ぐに怒り店内から走って出ていく。


「 クソガキがぁーーっ!!

逃がすものかぁーー 。 」


帽子の子も訳が分からないけどついていく。

屯平の石は取り戻せるのだろうか?

少年の盗んだ目的は??

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