第23話 運の使い道


少年が走って逃げるのを追いかけて行く。


「 待てぇーーっ! コソ泥野郎がっ! 」


子供は速くてどんどん距離は離れていく。

大人と子供の歩幅を考えれば、直ぐに追い付けるはずなのに全然追い付けない。


「 はぁはぁ…… 待てぇ…… ゲホッ! オエッ! 」


最近太ってしまったのもあり、肺活量は子供以下になりあっという間に見えなくなってしまう。

情けなくオエオエと吐き気が止まらない。


「 えっ? もう疲れたの? 」


帽子の子が屯平に直ぐに追い付いた。


「 はぁはぁ…… オエーーッ!!

なあに…… 大人が本気で追いかけたら周りに変な目で見られるだろ?

だから…… はぁはぁ…… 頭を使う!! 」


そう言いスマホをいじり始める。

周り一帯のマップを開いて何かを探し始めた。


「 そんなの見て分かるの? 」


「 あまり大人を嘗めるなよ。

体使うのは苦手な分、頭には少し自信がある。

そんなに時間は掛からん。 」


そう言いながら探していると、ある一つの場所を見つけて手を止める。


「 ビンゴっ!! 」


そう言ってタクシーを手配する。

二人は直ぐに乗りある場所へ。


その場所は病院だった。

ゲーセンからは徒歩で30分以内の場所。


「 ねぇ…… 何でここだと思ったの? 」


屯平達は少年が病院に来るのを隠れて待ち伏せしている。


「 あの少年とぶつかった時に、薬品の匂いがした。

それを思い出してここら辺に病院があるか探して見たら、少し離れた場所にここがあった。

少年は病院の方向に逃げてたから、かなり可能性は高いと思う。 」


病院特有の匂いはいつの間にか、服に付いてる事は良くある話だった。

それにしても無駄な記憶力に想像力。

帽子の子も感心していた。


「 見ろ! 汗かきまくってやって来た。 」


言った通り少年がやって来た。

直ぐに取り押さえるのかと思ったら、屯平は直ぐには動こうとしない。


「 ねぇ? 何で直ぐに捕まえないの?

あの子今なら捕まえられるじゃない。 」


屯平はニヤニヤと薄気味悪く笑う。


「 俺の予想によるとあの子の家族があそこに居る。

看護婦さんなのかドクターなのか、それとも入院してるのかも知れないし。

だから親に直接問い詰めるのさ。

お宅のお子さん、どんな教育をしてるんだってな。」


何とも嫌らしく、性格の悪い発想だった。

帽子の子も呆れてタメ息をつく。

そしてゆっくりと付いて行く事に。


階段を上り病室に向かって行く。

そして少年は病室に入っていった。


「 んふふふふっ…… 遠藤梨紗子?

これがヤツの親の名前だ。

病室には一人しか入院していない。

間違いなく親だな、問い詰めてやる! 」


手間取らされてしまったのを、親に叱って貰おうと部屋の前へ。

すると中から声が聞こえる。


「 お母さん大丈夫?? 」


「 大丈夫だってば、お母さんはそう簡単には死んだりしませんよ。 」


少年のお母さんはそう言いながら少年の頭を撫でている。


「 お母さん…… まだ手術出来ないの? 」


「 お母さんの準備は出来ていても、適合するドナーは見つからないんだって。

見つかるまでは絶対耐えるんだから安心してね。 」


その母親は少し痩せていて、顔は笑っていても辛そうに見えた。

子供の前では笑顔で居なければ。

そう思っていたのだ。


「 お母さん飲み物買ってきてあげるよ。

ちょっと待っててね。 」


そう言い飲み物を買う為に廊下へ。

屯平と帽子の子は咄嗟に隠れた。


近くの自動販売機で飲み物を買おうとしている。


「 見つけたぞ…… 泥棒野郎が。 」


後ろから声が聞こえて飲み物を落としてしまう。

直ぐに逃げようとした所を、屯平が首元をひょいとつまみ上げる。


「 放せよ! 放せ!! 」


「 うるせぇガキだな。

大人の厳しさを教えてやる! 」


屯平はそのまま中庭まで連れて行った。

観念したのか落ち着いて話し始めた。


「 俺のお母さん…… 体調あまり良くないんだ。

ずっと入院してて…… お父さんも離婚してるから居ないんだ。 」


屯平は腕を組みながら聞いている。


「 お母さんが死んだら…… 俺は親戚のおばさんの所に行くんだってさ。

おばさんからこの前話をされたんだ。 」


少年は寂しそうに話していた。


「 俺はどうして良いか分からなくて、近くのゲーセンで何をするのでもなく座ってた。

そしたらおじさんが現れて…… 。 」


屯平と帽子の子との話を近くで聞いていたのだ。

半信半疑で見ていると飲み物は当たり、コインゲームも大当たり。

まさに幸運の石の話を信じるしかなかった。


( あの石さえあれば…… お母さんは。 )


「 そう思ったら盗んでた…… 。 」


少しでも可能性があるのなら、その石の力でお母さんを助けて欲しかった。

それで悪いと分かっていても盗んでしまったのだ。


「 そうか…… 泥棒は良くないな。

それは俺の大切なもんだ。

さぁ…… 返して貰おうか? 」


少年は仕方なく石を返した。


「 ごめんなさい…… 。

お母さんには言わないで?

もっと具合悪くしちゃうから。 」


少年はお母さんの体を心配して、少しでも不安にさせたくなかった。


「 泥棒っての立派な犯罪だ。

子供だから許される…… 甘く考えるんじゃない!

お前が捕まったらお母さんはどう思うか?

良く考えて行動しろ! 」


屯平は珍しく大人らしくも、冷たくも厳しくお説教をした。

帽子の子は離れた場所から見ていた。


( 当然だよな…… あれはおじさんにとっても大切な石。

渡すはずないよね…… でも冷たいな。 )


分かっていても屯平の行動は冷たく見えていた。


「 この話はこれでおしまいだ。

次は俺からの話だ。 」


話は終わったかと思ったら、屯平は少年の手に何かを握らせる。


「 これって…… 。 」


それは幸運の石だった。

少年はびっくりしていた。

当然帽子の子も。


「 おじさんからのプレゼントだ。

ありがたぁーーく受けとれ。 」


「 でも…… なんで?? 」


少年には意味が分からなかった。


「 どんな理由であっても犯罪はするな。

これから生きて行く時に、良く考えて助けて欲しいときは相手に気持ちを伝えろ!

人間には口があるんだ。

話す事をやめなければ絶対に分かりあえる。

無理だからって楽な道に逃げるな。 」


そう言い屯平は笑った。


「 その石は幸運の石ではないんだ。

人にある不の感情を幸運に変える。

悪い事がばかりじゃない。

この石は可能性の石なんだ。

お前になら絶対応えてくれるさ。 」


屯平は少年の頭をぐしゃぐしゃにして笑った。

少年は泣きながら笑っている。


「 お前は男なんだ。

だからお母さんを守るのはお前だ。

恥ずかしくないように、誇り高く生きろ!

お母さんと幸せにな…… 。 」


屯平はゆっくりと歩いていく。

少年は泣きながら叫んだ。


「 ありがとう…… ありがとうっ!!

本当にごめんなさい…… ありがとう! 」


見えなくなるまで手を振っていた。

少年は嬉しそうに病室へ向かう。


帽子の子が屯平に問いかけてきた。


「 どうして…… あれがないとまた運が無くなるんだよ?

また婚活だって大変になるし。 」


屯平は笑ってこう言った。


「 子供は宝だ…… 未来を作るのは子供だ。 」


「 えっ?? 」


いきなり意味が分からない事を口にする。


「 友達の口癖だ…… 。」


屯平は飛鳥に良く言われていた。


「 おい! あのうるさいガキ注意しろよ。 」


喫茶店でうるさくしている子供に対して、屯平はイライラしていた。

飛鳥は怒る事なく、微笑ましく子供達を見ていた。


「 子供は宝だ…… 未来を作るのは子供だ。

それを支えるのは大人の仕事だ。

元気いっぱい過ぎるのもどうかと思うけどな。 」


そう言い笑っていた。

屯平はそんな飛鳥を見て納得出来なかった。

でもその答えは間違えていない。

その事は良く分かっていた。


「 本当にお前は能天気だな。

お詫びにプリンアラモード持ってこいよ。 」


「 はいよ。 」


二人は顔を見合わせて笑った。


その思い出が屯平を突き動かしたのかも知れない。


「 俺は充分楽しんだよ。

だから石何か無くたって関係ない。

俺の人生は俺が決めるんだ。 」


屯平は誇らしそうに笑って歩いていた。

帽子の子はその姿を見て嬉しそうに笑った。


その時風が吹いて帽子が外れそうになる。

帽子から隠していた長い髪の毛が出て来てしまう。

慌てて直ぐに帽子にまとめる。

その子は男ではなかった。

実は女の子だったのだ。


その後何事もなかったように歩き始める。

どうして隠しているのか?

何やら複雑な理由がありそうだ。


その頃少年は嬉しそうにお母さんの元へ。


「 お母さん! お母さん!!

聞いておくれよ…… これ。 」


少年はお母さんに石を握らせる。


「 何だいこれは? 」


「 これは可能性の石なんだ。

お母さんの病気なんか直ぐに治るんだ!

そんな凄い石なんだよ? 」


少年は一生懸命に興奮して話した。

お母さんは何度も頷いて聞いていた。

どんな物でも子供がくれた物。

その気持ちが嬉しかった。


「 遠藤さんっ!! 大変よ。

急に適合するドナーが見つかったって。

今先生から連絡があって。 」


看護婦さんが嬉しそうにやって来て話してくれた。

お母さんはいきなりの事に、声も出ずに驚きを隠せずにいた。


「 お母さん言っただろ?

これは可能性の石だって。 」


お母さんは泣きながら思いっきり少年を抱き締める。

二人は久しぶりに思い切り笑った。


その後無事に手術が上手くいった。

少年は前よりも少し男らしくなり、その手には石が握られていた。


屯平はそんな事知ることもなく、また懲りずにマッチングアプリで彼女を探していた。


「 またブロックっ!! どんだけ性格悪いんだよ。」


まだまだ結婚相手が見つかるのは時間が掛かりそうだった。

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