第20話 初めての失恋
会社のデスクで上の空な屯平。
口を開けながら窓の外の景色を眺めている。
「 ねぇねぇ…… いつも変だけど、二宮さん凄い変じゃない?? 」
「 私も思った…… 仕事もせずに何してるのかしら? 」
同僚のOL達が悪口を言っていた。
全く隠そうともしていないので当然と言ったら当然でした。
「 うおい、おいおい…… 。
どうしちゃった訳よ?
いつも冴えない顔してんのに、今はそれを越えてナマケモノになってんぞ! 」
同期の性格の悪い与一がやって来た。
また企画が通って上機嫌。
「 別に…… 関係ないだろ。 」
相変わらず無愛想な返答。
周りからも冷たい視線が背中に突き刺さる。
「 関係ないだってぇい!?
何を言ってるのさ、俺達は大学からの仲間だよ?
そんな冷たい事言うなよ。 」
与一は上機嫌で肩を組んできた。
屯平はこのノリがとても嫌いだった。
口から清潔感のアピールのように、ハッカの香りが漂って来る。
( うっとうしいなぁ…… 。 )
心から与一の事を嫌っていた。
「 そんな事よりも屯ちゃん、ここの会社のCMが出来るのは知っているかい?? 」
そう言いながら屯平のデスクにポスターを拡げる。
「 そのCMを担当するのがあの…… 。
松浦ねるるなんだぞ! 分かるか? 」
屯平はしっくり来ていない。
どうせ知らないと分かっていたので、ポスターに載っているねるるを指差しながら説明し始める。
「 ねるるはまだ19歳のグラビアアイドル。
見た目もスタイルも最高!!
今のネットやメディアはこの子で引っ張りだこ。
かなり前から俺が事務所に出向いて、取引先の接待した甲斐があったな。 」
屯平は全く表情も変えずにポスターを丸めて、与一に返してしまう。
「 ねむむなんて知らないよ…… 。
グラビアアイドルなんか俺達と関係ないだろ。 」
「 何を言っているんだよ!
今度撮影する為のBIGプロジェクトが始動される。
それに立ち会えればお近づきに…… 。 」
与一は妄想を始める。
「 与一さん…… 初めて会った時から好きでした。
私と付き合ってくれませんか? 」
ねるるから告白をされる妄想をしている。
「 実は…… 俺も前から…… 。 」
そう言いながら二人は手を取り合う。
見詰め合う二人の距離は次第に縮まり…… 。
ガシャンッ!!
椅子を引いて急に屯平は立ち上がる。
その瞬間に与一の妄想が終わってしまう。
「 何だよ! 急に…… 。 」
「 具合が優れないので早退致します。
仕事は適当…… 真面目に家でするのでご安心を。
それではお先に失礼致します…… 。 」
そう言い残して速やかに帰っていく。
全然盛り上がらない屯平にイラつく与一。
仕方なく仕事に戻っていく。
廊下を歩いていると向かい側から、麻理恵がやって来た。
「 あっ! 先輩じゃないですか。
これから外回りですか?? 」
「 具合悪いから帰ります…… それでは。 」
直ぐに行ってしまう。
麻理恵はいつもと違う違和感に気付いていた。
「 先ぱぁーーい、何か悩みあったら行ってくださいね??
私ならいつでも相談に乗りますから!! 」
と大声で言っても振り返ることなく歩いていく。
すると麻理恵のスマホにメールが来た。
( 廊下で騒ぐな、うるさい。 )
直接言わずにメールで送って来たのだ。
麻理恵は笑ってしまう。
そして冷たい内容の最後に。
( ありがとう。 )
と書いてあった。
それを見てニッコリ微笑んでしまう。
「 本当に素直じゃないんだから。 」
麻理恵はそのメールをゆっくりと保存した。
何気ない文章なのに何故か嬉しかった。
そしてスキップしながら自分の仕事場に戻っていった。
屯平はつまらなそうにゲーセンでゲームをやっていた。
何度も何度もやったゲームなのに、無気力になりながらやっている。
すると対戦相手が現れた。
横から相手を覗き込む。
またいつもの帽子の子だった。
「 ゲームは楽しんでこそだろ?
何またバカ丸出しにしてんだよ。 」
帽子の子は相変わらず言葉が汚い。
「 うるせぇなガキが。
大人の八つ当たり見せてやる!!」
そう言って対戦が始まり、あっという間に3回も勝ってしまった。
帽子の子は大きく舌打ちをする。
「 本当におっさんダメダメなくせに、ゲームの腕だけは確かなんだから。 」
「 ガキが偉そうに評価すんな!
てか…… お前の名前ってなに? 」
すると帽子の子はソワソワし始める。
「 あんたの名前なら知ってるよ、屯平! 」
話したつもりはないのに知っていた。
どうして知っているのだろうか?
「 何で知ってるのかって?
マッチングアプリのプロフ編集してたとき、名前載せてたでしょ? 」
一緒にやったのを忘れていた。
「 なるほど…… 何で呼び捨てなんだよ! 」
いつの間にか話題を変えられてしまい、結局名前を知ることはなかった。
何やら言えない秘密がありそうだった。
屯平は失恋の傷みが癒える事がなく、喫茶店のいつもの場所で落ち込んでいた。
愛理は離れた場所から気になって見ている。
「 屯平君…… 相当落ち込んでいるね。 」
マスターも心配そうに見守っている。
愛理は何故フラれたのかも分かっていた。
騙されていて解放された事で、愛理も一安心していた。
それでも失恋でショックな気持ちは良く分かっていた。
「 全くぅ…… 仕方ないな。 」
愛理はスタスタと屯平の元に向かう。
「 いつまでもグジグジしてるんじゃないの!
男の癖にウジウジ…… みっともない。 」
屯平はテーブルに顔をつけて全く動かない。
「 もう…… ダメだ…… おしまいだ。
俺みたいなダメ人間は…… このまま1人孤独に死ぬんだろうなぁ…… 。
どうせ俺なんか…… 。 」
屯平のまた悪い癖が出ていた。
スーパーネガティブモード突入。
これになったらそう簡単には戻らない。
周りにも伝染してしまいそうなくらい暗い。
タメ息の連続発射…… 聞いている方が落ち込みそうだ。
「 あんたは悪くないから…… 。
そんな落ち込む事ないわよ。 」
柄にもなく慰めている。
相手が悪かったのだから仕方がなかった。
「 うるさぁい…… うるさいっ。
どうせ俺なんか…… 。 」
何も聞く耳持たず、いつになくショックを受けていた。
厨房からは美味しそうな匂いがこっちに漂って来た。
「 クンクン…… オムライスだっ!! 」
いきなり飛び起きる。
その勢いで愛理はびっくりして離れてしまう。
「 さぁ…… オムライスだよ。
沢山お食べなさい。 」
オーナーがとろとろのオムライスを作ってくれていたのだ。
そして特製のデミグラスソースをたっぷりかける。
最高の料理の1つ。
「 いただきみゃあーーすっ!!
ぱくっ! ぱく!! 」
取りつかれたようにオムライスを食べていく。
愛理は呆れて大きくタメ息を吐く。
「 マスター…… これって? 」
「 言ってなかったかい?
何か嫌な事あるときは美味しい物を食べさせる。
そうすると子供のように忘れてしまう。
凄い単純なんだよ。 」
愛理は夢中で食べている屯平を見て、心配して損した気持ちになる。
ゆっくりと離れて行こうとする。
「 むしゃむしゃ…… 何処行くんだよ。
まだ話の途中だぞ…… うめぇ。
もうバイトも…… あむ!
終わりだりょ? 座って作戦会議だ!! 」
単純な思考回路にただ笑ってしまう。
また婚活の為に頑張る決意をしていた。
「 口に物入ってるのに話さないの。
バイトまだ終わりじゃないし…… 。
ちょっとだけなら付き合ってやるか。 」
内心は元気になって嬉しかった。
屯平の前の席に座り、屯平のマッチングアプリのプロフを見る。
「 こんなんじゃダメよ!
この写真なに!? 会社の面接のつもり? 」
いきなりダメ出しから始まる。
屯平とスプーンをスマホに向けて言い訳をしていた。
愛理のダメ出しは止まることを知らない。
マスターはその声を聞きながら、嬉そうにコーヒーを入れていた。
その頃ある場所では?
「 ねるるちゃーーんっ! 準備は良いかなぁ? 」
自分の楽屋で小型ゲーム機で遊ぶ女の子の姿が。
「 はぁーーい…… チッ! 面倒くさ。 」
可愛いグラドルはゲーム機を置き、仕事に行ってしまう。
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