第19話 婚活って難しい


パパ活をしている柚穂は罪悪感なんてなかった。

可愛いからお小遣い貰っても当然でしょ?

おっさんが自分みたいな若くて、可愛い子と話せただけで有難いと思って欲しい。

それぐらいにしか考えていなかった。


「 あいつから貰ったお金…… 大した事ないって思ってんでしょ?

でもそのお金を稼ぐのにどれだけ頑張ったか。

あなたに…… あなたにそれが分かるんですか!? 」


麻理恵の言葉を聞いて、初めて罪悪感を感じていた。

屯平だけにじゃなく、今まで騙してきた人達も頑張って稼いだお金だったのだろうか?

貯めてきたお金だったのだろうか?

みんな騙されてるのに気付かずに、楽しそうに笑っている顔を思い出す。


「 クソが…… しらけるし。 」


色々考えてしまい楽しくなくなっていた。

ホストの流星さえ居ればそれだけで…… 。


「 あれ…… もしかして流星がやってる事って私と同じじゃね? 」


ホストは指名されたくて、あれやこれやと上手い言葉を使って心を操るプロ。

まさか自分が騙されてるなんて気付かなかった。

そんな事はないと気付かないフリをする…… 。


次の屯平とのデートの日。

いつものように安物の鞄に、メイクも自然な感じで派手にしない。

その方がウケが良いのだ。


「 やぁ! こっち、こっち。 」


屯平が手を振っている。

最初と比べて明るくなっているように見える。


( キモいから…… 目立つから止めろって。 )


好きでもない人と会って話す。

この時間が苦痛でしかなかった。


腕を組みながら服を見たり、ショッピングや食事を楽しんだ。

歩きながら気になり聞いてしまう。



「 子供の頃って…… どんな子だったの? 」


「 本当つまらないやつだったよ。

話せる話なんてないくらい。

クラスに良く居るハブられてるやつだったかな。

特に女子からはバイ菌扱いされて…… 。 」


柚穂は自分の子供の頃と重ねて考えていた。

良く居る何も悪い事してなくても、顔や話し方や仕草などを気持ち悪がられて、みんなにいじめられてしまう。


「 辛くなかった…… ? 」


自分はいじめていた加害者側。

少し気になり聞いてしまう。


「 辛くなかったって言ったら嘘になるかな。

でも俺にはたった一人だけ親友が居たんだ。

そいつと居れば何も怖くなくて、一人ぼっちじゃないんだって思えた。 」


飛鳥の事を思い出しながら話していた。


「 その親友と居る時は時間を忘れるくらい、バカやったりゲームやったり。

だから俺は自分の過去を後悔してない。

長く話しちゃった…… かな? 」


「 ううん…… 全然。 」


柚穂は暗くなっていた。

騙している人の事を考えた事なんてなかったからだ。


「 私ね…… 結構モテてさ。

彼氏とか居なかった事なくて、いつも取っ替え引っ替えしてて。

女からは嫌われてたと思う…… 。

友情より恋の方が大事だったから。 」


何故か勝手に話していた。

偽りの自分ではなく、本音で話したくなっていた。


「 モテてると女王様みたいになってて、楽しくていい気になって。

いつの間にか…… 友達誰も居なくなってた。 」


そしていつの間にかホストにハマってしまった。


「 そうなのかぁ…… 。 」


屯平は考えながら返答していた。

柚穂は幻滅させてしまったと思った。


「 俺はモテた事ないから分かんないなぁ。 」


( 本当…… 男って単純…… 。

生き方違うって分かったら引け目感じて。

今こうやって話してる事自体ありえないんだから。)


屯平の自信の無い声を内心笑っていた。

違いを分からせて勝ち誇りたかったのか。


「 屯平は私の何処を好きになったの? 」


いきなり率直に聞いてしまった。

返答は可愛いからや優しいからに決まっている。

そう確信していた。


「 難しいなぁ…… お母さん思いのとこかな? 」


「 えっ…… ? 」


思った答えと違っていてびっくりしてしまう。


「 可愛いし気が利くし、良いところは沢山あると思うけど。

俺はお母さんを大切にしてて、凄い良い子なんだなぁって思ったかな? 」


嘘で言ったお母さんの病気の話…… 。

本気で信じていたのだ。

その時やっと分かった…… 。

この男は好きだから沢山お金を払ったのではない。

本当に病気のお母さんを心配していたのだ。


「 またお金入ったら渡すからね。 」


屯平の手はケガだらけ。

良く見ると身体中に痣を作っていた。

何をして稼いだか容易に分かる。


「 はぁ…… うっざ…… 。 」


「 あえっ? 」


いきなり立ち止まり暴言を吐いた。

屯平は聞き間違いと思ってしまう。


「 好きな理由…… めっちゃキモいんですけど?

こんな簡単な事も言えないからモテないんじゃない?

ハッキリ言って幻滅したんだけど。

もう連絡してこないでくれる? さよなら…… 。 」


いきなりの事にびっくりしてる間に、柚穂は駆け足で去ってしまう。

屯平は何も言えずに立っていた。


「 ごめんなさい…… 。 」


柚穂は優しい屯平を騙してしまい、このまま続けるのが辛くなっていた。

笑って話す横顔を見ているだけで心が苦しくなっていたのだ。


「 はい…… 。 」


「 もしもし…… 柚穂?

今日出勤なんだけど今日来る?

俺…… 今回トップ目指してるから、力貸して欲しいんだわ。 」


流星からの電話だった。

少し考えれば直ぐに分かった。

いつも内容は愛を囁くのではなく、仕事やお金の話しばかりだった。


「 自分で注文しろ! このクズ!! 」


そう言い捨てて電話を切った。

そして直ぐに着信拒否をする。


「 本当…… 私なにやってたんだろ。 」


悲しくなり呆れて涙が溢れてしまう。


「 シリアルにバナナとヨーグルトを入れてね、栄養満点にして食べると…… 。 」


咄嗟に屯平とのくだらない電話を思い出していた。

くだらない雑学や今日あった嬉しかった話。

いつも欠かさずに電話をかけてきていた。


「 本当…… 騙されやすいんだから。

案外…… 見た目より中身って嘘じゃないのかも。」


男を見る目が変わっていた。

その日にパパ活の相手との関係を全て終わらせた。

どんなに考えても傷つけずに終わらせる事は出来なかった。

その日…… 柚穂は求人雑誌を見て、新しく働く決意をしていた。

恥ずかしい自分との決別の為に。


その頃そんな事なんか知らない屯平は喫茶店で絶望していた。


「 何だよ…… いきなりウザいって。

頑張って話してたし…… 服装だってごにょごにょ…… 。 」


失恋していつもの席で一人で念仏を唱えるようにぼやいていた。

失恋したのを察して麻理恵はホッとしていた。


「 仕方ないわよ…… あんたには高嶺の花だったと思うしかないわよ。

あんな可愛い人と付き合えるはずないんだから。 」


励ましているようで貶しているような話をしてしまう。

まさか自分が訴えかけたお陰で罪悪感を感じて、諦めたとは思っていなかった。


「 イチイチ…… うるさい奴だなぁ。

ん?? お前に柚穂ちゃん見せたっけ? 」


「 そんな事は良いのよ。

口を動かすより手を動かしたら?

また何処かでカップルが誕生してるわよ! 」


と言いたいことを言って、テクテクと厨房に入っていった。


「 何だよ…… あいつ。

こっちは失恋したってのに…… 。 」


すると一件のメールが届く。

柚穂からだった。


( 必ずお金は返します。

だからご安心を。

良いお友達が居て羨ましい。 )


との事だった。

ちゃんと働いてお金は返してくれるらしい。

屯平はそれを見て大きくタメ息をつく。


「 そんな事はどうでも良いよ…… 。

はぁ…… てか良いお友達?? 誰の事? 」


それが麻理恵だとは分かりようがなかった。

屯平の婚活はまた振り出しに戻る。

それでも少しだけ女性と話せるようになる。

大きな前進になったのだった。

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