第18話 怒り


屯平はあるカフェに来ていた。

直ぐに柚穂がやって来る。


「 お待たせーーっ! 結構待ったぁ? 」


「 全然待ってないよ、何か頼もうか?? 」


少し遅刻しても何一つ文句も言えない。

直ぐにメニューを渡した。


「 チョコレート増し増しのカプチーノ。

後はイチゴタルトにチョコテリーヌ。 」


直ぐに注文する。


「 屯平…… あの話なんだけどさ。 」


「 当然…… 抜かりはないです。 」


そう言い封筒を渡す。


「 頑張ってかき集めて10万。

いやぁ…… 力になりたくて頑張ったよ。 」


誇らしげに満更でもない顔をしている。

柚穂は直ぐに中身を確認する。


( はっ!? 10万って学生のバイト代かよ。

貯金とか切り崩して来いや! )


柚穂は期待外れの額にイラついていた。


「 本当にありがとう…… ちゃんと返すから貯金とか…… 貸して貰えない? 」


またしても図々しく催促されてしまう。


「 ごめんね…… それが限界で。

趣味に使いすぎて貯金も全然でね。

だから仕事とバイトの掛け持ちしてるから、給料日来たらもう少し出せると思うから! 」


( マジで言ってんのかよ…… 。

30にもなって貯金ないとかやる気あんのかよ。

マジ使えねぇ…… これじゃドンペリすら頼めないし。

こんな金じゃ足りないから、もう1人の方にもう少し催促するかな。

あっちはエリートっぽかったし。 )


柚穂はデザートとカプチーノを食べて、ゆっくりと立ち上がった。


「 そろそろ行こうか? 」


「 あっ…… ごめんなさい…… 。

これからお母さんのお見舞いなんだ。

だから悪いけど帰るね。

今日はありがとうね、またお願いね。 」


そう言いスタスタと走って行ってしまった。


「 本当…… お母さん思いなんだなぁ。

あっ…… お会計俺持ちかぁ。

今は大変なんだから俺が出すのが当たり前!

女性の食事くらい男が出すって本で読んだし。 」


自分より多く食べた分まで会計をしに行くのだった。

屯平は好意的な女性と話せているだけで、いつもより視野が狭くなっていて、疑いもしなかった。

これが女性経験が少ないからこそだった。


柚穂は直ぐに新しいパパの元に着き、偽りのデートを開始していた。

相手に合わせて喜ぶ会話や、仕草に寂しい人は簡単に虜にされてしまう。


「 柚穂ちゃん大好きだよ。 」


「 私もだぁーーい好きっ! 」


また1人騙されてお金を獲られてしまう。

恐ろしい女性だった。


屯平は早く終わってしまったので、ゲーセンに寄ってから帰る事に。

いつものゲーム台の前に行くと、帽子の子がまた座っていた。


「 よっ、この前色々アドバイスありがと。 」


この前のマッチングアプリのプロフの事や、ファッションなど色々アドバイスしてもらっていた。


「 別に良いよ…… さっさと座ったら? 」


無駄話はいらないからゲームをやろう?

と言わんばかりにゲームをする事に。

当然屯平の圧勝で何度やっても変わらなかった。


「 おっさん本当強いな…… 。 」


「 まぁな、このゲーム強いの見せたら彼女喜ぶかな? 」


どうにかもっと好感度を上げたくて、自分の良さをもっと知って貰いたくて必死だった。


「 正直言うと…… 絶対やめな?

こんなオタクゲームやってるって知ったら、彼女さんも付き合い方変わるから。 」


若い子だから色々詳しく、偏見にもかなり敏感だった。


「 そうだよな…… そろそろ帰るかな。 」


「 えっ? ちょっと早くない??

来たばかりじゃないか。 」


屯平は彼女にお金を渡してすっからかんになっていた。

だから当分は貧乏生活になる。

その事を伝えるとびっくりしてしまう。


「 はっ!? 何そいつ…… 。

それ絶対騙されてるから、おっさん利用されてんだよ。

早く気づきなよ! 」


帽子の子は鈍感な屯平に腹が立っていた。


「 あんなのテレビやネットだけの話よ。

柚穂ちゃんは凄い優しいんだぁ。

それにあっちが俺にベタ惚れなんだから。 」


相変わらず呑気で疑う事もしていない。


「 おっさんって本当腹立つ…… 。

女はそんなに単純じゃないんだからね? 」


忠告をされても全く信じようとはしなかった。


「 Z世代の男には分からんさ。

大人の魅力ってのがまだ難しいのかもな。 」


全く相手にされず、怒って立ち上がる。


「 …… じゃないし。 」


ボソボソと何かを呟いた。


「 えっ? 何か言った?? 」


「 何でもないっ!!

まともな女はお金借りて、奢って貰うのが当たり前なのありえないから…… 今日は帰る。 」


帽子の子は怒って帰ってしまった。

屯平はポカンとして立っていた。


「 嫉妬かな…… あっ。

帰って寝て置かないと!

夜中にまたバイトがあるんだった。 」


バイトまでの間寝ることにした。

嬉しそうにスキップをし、足は軽くてしなやかに帰って行った。


喫茶店ではマスターと美紀と愛理は屯平の彼女について話し合っていた。


「 絶対に騙されてますよ! 」


愛理が強く言うと、マスターは嬉しそうにスマホの画面を見せて来た。


「 こんな可愛い子が騙すと思うかい? 」


2人が画面を見るとデレデレした屯平と、柚穂の姿が映っている。

写真に慣れてない屯平と違い、柚穂はカメラ慣れして可愛い表情をしていた。


「 可愛い!! 」


美紀が感心していると、愛理には見覚えのある顔だった。


「 この女性…… 何処かで見たことある。

最近…… 何処だったかなぁ…… 。 」


思い出せそうで思い出せない。

美紀もそう言われて何処かで見覚えがあった。


「 あーーっ!! この人見たことある!

ウチの大学のクイーンじゃないの。 」


毎年開催されている大学の美女だけが選ばれる、グランプリの元女王が柚穂だった。

柚穂は美紀達の大学のOBだったのだ。


「 結構有名な人だよね…… 4年連続1位だったとか。

思い出したわ! この前綺麗な格好で、ホストと一緒に歩いていた人だわ。 」


屯平はとんでもないくらい有名な、美女と付き合って居る事が分かった。

同時にやっぱり騙されている事も分かった。


「 だからと言って…… どうやったらあいつに騙されてる事信じて貰えるかな? 」


「 私に任せといて!!

屯平さんを悪女から引き離してやる。 」


美紀はいつになくやる気に。

鈍感な男の為に2人は力を合わせて目覚めさせる計画を立てる。


夜に柚穂はまたホストクラブへ。

白いスーツに身を包んだイケメンと、夜の街を歩いていた。

柚穂も派手で化粧でバッチリ決まっている。


「 流星…… 誕生日プレゼント欲しいでしょ?

何が欲しい?? 」


「 そうだなぁ…… ヴィトンのバッグか前言ってたプレミアの時計かな。 」


流星の誕生日プレゼントを2人で話していた。

柚穂は嬉しそう腕を組んで幸せそうだった。


遠くから2人がくっついて歩いてる所を、美紀達はスマホのカメラで撮っていた。

おバカな屯平を信用させるのは、これしか方法が見つからなかった。


「 愛理、これで屯平さん目が覚めるね。 」


愛理は納得していなかった。

そして愛理は見ているだけのはずが、その場所から飛び出して行ってしまった。


「 えっ!? 愛理! 何してんのよ。 」


愛理は真っ直ぐ柚穂の元へ。


「 はっ? あんた誰? 」


「 あなたが騙しているバカな男の友人よ。

屯平の事騙すの…… 辞めてもらえます? 」


話さずにはいられなかった。

人を騙してそのお金で至福を肥やす。

そんな女が許せなかったのだ。


「 あんたに関係ないでしょ。

早く退いて貰えない? 」


強く押されて愛理は体勢を崩してしまう。

無理矢理その場所から離れていく。


「 心が痛くはならないんですか!?

あんな…… あんなモテない男騙して! 」


大きな声で叫んだ。

全く気にせずに振り返る事なく歩いていく。


「 あいつから貰ったお金…… 大した事ないって思ってんでしょ?

でもそのお金を稼ぐのにどれだけ頑張ったか。

あなたに…… あなたにそれが分かるんですか!? 」


聞こえていても全く返答もされない。


「 あいつが良くても …… 私が絶対許さないんだから!

あいつの事…… 何も知らないくせに!! 」


返ってくる事がないのに叫び続けた。


「 柚穂…… あれ知り合い? 」


「 知らない…… どうでもいいし。 」


柚穂は強く拳を作りながら歩いていった。

赤の他人に言われた言葉が突き刺さり、心が痛かった…… 。

分かっていたのに罪悪感でいっぱいになっていたのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る