第16話 最高の女性


屯平はデートの待ち合わせ場所に居た。


( うひぃ…… ドキドキするぅ。

こんな暑い日にスーツで来るんじゃなかった。 )


カフェのテラスでガチガチのスーツで座っている。

明らかに場違いだった。

マッチングアプリで会うことになった柚穂ゆずほと言う名前の女性。

年は少し若いけどそこまで気にしてる余裕はない。

顔は画像で確認したが、加工してるように見えるくらい顔は小さく、目が大きかった。

髪型はツインテールで赤にピンクのメッシュが入った可愛い子だった。


この話にはまだ続きがある。

屯平が載せていたプロフィールが気に入って、あっちから申請をしてきたのだ。


( 釣りだった可能性もある…… 。

まぁ勉強代として帰るだけだけどな。 )


半分諦めかけながらカフェオレを飲んでいた。


「 あれれ? もしかして屯平?? 」


声が高く明らかに若い声の子が話をかけてきた。

自分の名前を知っている…… 間違いない。

柚穂ちゃんだ。


( 加工しているのは仕方ない…… 。

ただ明らかに違い過ぎるのはキツいな。

期待し過ぎずに見てみるか。 )


声の方を見てみる。

そこには画像と同じ柚穂ちゃんが立っていた。

いや、むしろ目の前の柚穂ちゃんの方が可愛いまである。

加工はしていなかったのだ。


「 あののの…… 初め、初めのまして。

とととと…… 屯平でっす。 」


いきなり大汗をかいてしまう。

もう少し可愛くなければ、まだまともに話せたかも知れないのに、明らかに男がほっとかないくらいの美人さんが来て心臓がバクバクに。


「 本当っウケるっ! あの画像ってマ?

見て1人で笑い過ぎちゃったんだけど! 」


屯平の画像を思い出し笑っている。

恥ずかしそうに頭をかく。


「 ここだとあれだから他行こ?

私良い店知ってるからさ。 」


そう言い屯平と腕を組んできた。

屯平はびっくりして離れようとする。


「 ちょっと! 初めてじゃないでしょ?

だったら大袈裟にリアクションしないの。 」


屯平は当然初めてだった。

柚穂に連れられて何処かに向かう。

周りの男達の視線は未来に向いていた。


「 私ねぇ絶品ピザが食べれる店見つけたんだぁ。

そこで話ながら食べよっ。 」


屯平は心臓がバクバクでその高鳴りをどうにか抑えるのに必死だった。

この高鳴りがバレたら恥ずかしくて、平常心を保つように無心になろうとしていた。


( おいおいおい…… 良く会う女性は画像より2割くらい悪いって書いてあったぞ?

だけど実際は3割増しくらい可愛い…… 。

あの本当てにならないじゃないか!! )


「 さっきから聞いてる??

今日の服この為に買ったお気になの。

どう? 似合ってる?? 」


「 ふぁふぁ…… はい。 」


背が低く上目遣いで見る彼女を直視出来なくて、直ぐに顔を背けてしまう。

ピザ屋さんに着き、専用の石窯で焼いたピザを食べることに。


「 それでそれでね、友達がウケるの。 」


話を沢山降ってくれていた。

屯平は真面目に聞いて何度もうなずいていた。


「 屯平はさ、楽しくない? 」


上手く話せないでいたので、気にして聞いてきた。


「 そそそん、ごほっ! そんな事ないよ。

俺…… 話すのが苦手で。

でも…… 楽しいよ? 」


必死に否定すると柚穂は手を握ってきた。


「 本当に本当?? 私ね。

屯平の事凄い好きなの。

だから今日会えたのも凄い嬉しくて。 」


手汗をかいてしまい、直ぐに手を離してしまう。


「 ああ…… ありがとう。

俺も…… 凄く楽しみだった。 」


屯平が勇気を出して言うと凄く嬉しそうに微笑みかけてきた。


「 柚穂嬉しいっ!

もっと好きになっちゃった。 」


笑顔が可愛く直ぐにボディタッチをしてくる。

屯平はあっという間に心を奪われていた。


その日の夜に屯平は喫茶店にやって来た。

マスターと愛理はびっくりする。

敬遠していたのにやって来るとは思っていなかった。


「 屯平君…… 良く来たね。

さぁ、ゆっくりしなさい。 」


「 久しぶりです…… 。 」


直ぐにいつもの席に着く。

いつもと違い表情には自信が満ち溢れていた。

足を組み、遠くを見ながらニヤニヤと笑っている。


( 何よ…… あいつ…… 。

散々来なかったくせに、来たかと思ったらカッコつけちゃって。 )


愛理はイラつきながら水を持っていく。


「 あんた…… キモいんだけど。

もう来ないんじゃなかった? 」


来て嬉しい気持ちもあるのに、何故か冷たくしてしまう。


「 お前には関係ないだろ。

適当にココアでも入れてくれ。

俺は近況報告してくる。 」


屯平はそう言い飛鳥の遺影の写真の前にシュークリームを置いた。

マスターは直ぐに愛理を厨房に呼ぶ。


「 何ですか! いきなり。 」


「 あの子は恥ずかしがりやだ。

少し二人きりにしてあげよう。 」


そう言い屯平から少し離れる。

マスターの計らいだった。


「 なぁ…… そっちはどうだ?

上手くやってんのか…… 。

来るの遅れて悪かったな。

だから…… シュークリーム買ってきたぞ。 」


1人で写真に向かい話していた。


「 お前が一番気にしてた女嫌い、治す為に頑張ってるよ。

直ぐに結婚してやるから安心しろ。

最近は友達とか話し相手とかも出来て、別人のようになってんだぜ? すげぇだろ?? 」


嬉しそうに話している。

愛理達もこっそり聞いていた。


「 今日な…… 初めてデート? したんだぜ。

何か鉄の釜みたいなので焼くピザ食ったり。

お前の言う通り…… 悪くなかった。 」


屯平がデートの報告をしていた。

その事実を聞いて愛理もびっくりする。


「 こう見えて意外にモテるんだぜ。

良い子だしまたデート行ってくる。

報告楽しみにしとけよ? 」


写真の飛鳥は笑っているように感じる。

そしてゆっくり席に戻る。


「 おいっバイト! ココアはまだか?

あまり客を待たせるんじゃ…… ないぞ? 」


愛理は勢い良くココアを置いた。


「 うわっ!! 何だよ。 」


「 別に…… 子供舌にはココアがお似合いよ! 」


そう言い捨てて厨房に戻る。


「 あれは女ではないな…… 。

ゆっくりとココアを楽しもっと。 」


気にせずココアを飲む。


( 何よ…… ちょっとデートしたくらいで、あんな偉そうにして。

どうせ遊ばれてんのよ。

それか凄い不細工かもしれないし。 )


プンプンと怒りながら皿を洗っている。


「 愛理ちゃん…… 割らないようにね? 」


「 分かってますよ!! 」


ガシャーーンッ!!

何枚かお皿を落としてしまう。

少し動揺してしまったのか?

愛理は慌てて割れた皿を拾い集める。


「 マスター …… すみません。

ちょっとイライラしちゃって。 」


「 良いの、良いの。

これくらい大したことないよ。

ここ任せても良いかなぁ?

ちょっと男同士話して来るかな。 」


そう言い屯平の元へ行ってしまうマスター。

愛理は遠くから見ていた。


( 別に…… 勝手にしたら。

私には別に関係ないし。 )


遠くからは屯平が嬉しそうに話してる声が聞こえてくる。

マスターも自分の事のように喜んでいる。


( あいつ…… あんな風に笑ってるの久しぶりに見たなぁ…… 。

笑ってると…… ちょっとマシに見えるかも? )


あんなに嬉しそうに話されてる相手の女性が、少し羨ましくも感じていた。

愛理は1人寂しく帰って行った。


駅前を歩いていると、ふと飛鳥を思い出していた。


「 忘れ物ーーっ! 愛理ちゃんは足速いんだね。 」


忘れ物があると一生懸命走って持ってきてくれた。


「 はぁ…… 全然忘れられないよ。 」


また思い出して悲しくなって遠くを見る。

するとホスト街に目が向いてしまう。


( ホスト街って本当華やかだなぁ…… 。

私には絶対関係のない場所。 )


と思いながら見ていると、1人の華やかな女性がホストと一緒にホストクラブに入っていく。


( 綺麗な人…… 顔も凄く小さい。 )


その女性は昼間とは別人のように派手な服装や、髪型になった柚穂の姿だった。

何も知らない愛理は電車に乗って帰って行った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る