第15話 あいつなら


次の日麻理恵は怒られる覚悟で出勤した。

上司には見つからなかった時のために、別のプレゼンも用意してもらっていた。


( 仕方ないよね…… あんなに探したんだもん。

上司には怒られて失望されちゃうけど、また頑張ってみせる。

絶対に負けないんだから。 )


そう思いながら出勤する。

出勤すると同僚の女性達が笑っている。

チラチラとこっちを見る視線を感じる。

分かりやすいいじめだった。


「 柿沼さん、本当に残念だったわね。

また次の機会に頑張りましょうね。 」


先輩の女性が励ましに来てくれた。

でも明らかに嘘をついている。

励ましではなくて勝った余韻を味わいたいように感じた。


「 ありがとう…… ございます。 」


「 まだ入り立ての人なんかに任せるのが悪いのよ。

あなたはまだまだ雑用とかが良いかもね。

女は女らしくしてなきゃね。 」


そう言って立ち去ろうとする。


「 先輩…… 新人にはチャンスはないんですか? 」


いつもなら軽く流して、嫌われないように上手く立ち回れるはずだった。

でもどうしても納得出来なかった。


「 チャンスはあるわよ。

でもあなたみたいに失くされたりしたら、周りが迷惑するってのもあるじゃない?

基本男の人達が先人切って頑張ってるのよ。

女性には荷が重すぎるわよ。 」


「 その通りだと思います…… 。

でも女性だからって関係ないと思います。

男性に差別的な人だっていると思います。

だからって全員が全員そうじゃないです。

もしそんな偏見や差別があるとしたら、変えるのは私達女性なんじゃないですか? 」


笑っていた周りの女性達も静まりかえってしまう。

女性の先輩も何も言い返せないでいる。


「 私は諦めません…… 。

何度だって企画してやりますよ。

諦めなければ絶対に成功するんです。

私はそう思っています。 」


波風立てずに生きてきた麻理恵が、こんなにハッキリ物申したのは初めてだった。

心臓の高鳴りが凄くなっていた。

頭を下げて自分のデスクへ。


( やっちゃった…… 何やってるのよ。

イライラしたから? 八つ当たり?

それも違う…… 自分の気持ちに嘘つけなかった。)


周りからは当分腫れ物扱いされるのが目に見えていた。

それでも認めたくはなかった。


( あれ…… ? 引き出しから紙がはみ出てる。

しっかりしまったはずなのに。 )


そう思いながら引き出しを開ける。

そこには失くしてしまったUSBが入っていた。


「 えっ!!? 何でUSBが? 」


勢い良く立ち上がり驚きが隠せない。


「 柿沼君…… USBは見つかったかな? 」


上司がやって来た。

直ぐにUSBを見せる。


「 よし良くやった!

直ぐにデータを人数分印刷しろ。

空いてる者達で印刷を頼む。

これは新人で上手く行ったら大手がらだぞ? 」


そう言って時間のある人達を集めて、麻理恵の企画を成功させる為に手伝った。

結果…… 企画は大成功!

まだまだ荒削りだったが、補正次第でかなり良い企画と絶賛されていた。


( はぁ…… やっと一安心…… 。

上手くいって良かった。 )


するとさっきの女性の先輩がやって来る。


「 柿沼さん…… おめでとう。

凄いわね…… 私は何度挑戦したけどダメだった。

あなたに嫉妬してた…… 今回のUSBも捨てたのは私だったの…… 本当にごめんなさい! 」


「 嫉妬とかは誰にでもある感情です。

私は先輩の作った上手くいかなかった企画、部長から参考に見せて貰いました。

正直凄かったです…… こんな企画書作って見たくて、頑張ったんですよ?

尊敬してるんですからね。 」


先輩は嬉しくて抱きついて来る。

嫉妬や妬みからやってはいけないことをしてしまう。

それに気づき謝れる…… 。

それがまた前に進む為の一歩になる。


( あれ…… 捨てた…… ?

なら何で私の引き出し入ってたのかしら? )


疑惑は残したまま、麻理恵は助けてくれた人の存在に気づいたのだった。


「 ふあぁーーっ…… 。 」


屯平は大きくあくびをしていた。

すると同期の出世頭の宮内与一が近寄って来る。


「 おいおいおい、どうした? どうした?

大きなあくびをしたりして。

またゲームのやりすぎか?

それとも漫画でも読んでいたのかい? 」


相変わらず鼻につくやつだ。

周りはそのジョークセンスで笑ってしまう。


「 別に…… 関係ないだろ? 」


「 本当暇人は良いな。

俺なんかは昨日接待よ。

酒をガンガン飲んで…… ほにゃほにゃ…… 。 」


聞いていられなくて、途中からは頭に入ってこなかった。

昨日の疲れと退屈な話に興味はなかった。


前の日に屯平はゴミ捨て場で必死に探していた。

白いYシャツは黒く汚れ、顔も汚れて手は紙で切れて軽く血が出ている。


「 らしくないな…… こんなことして。 」


見つかるか分からないのに、どうしても探さずにはいられなかった。


「 あんた…… こんなに散らかして。

しかもそんな汚くなっちゃって。 」


掃除のおばちゃんに見つかってしまった。


「 ちょっと…… 探し物してて。 」


そう言うとおばちゃんも一緒に探してくれた。


「 そんなにUSB? ってのが大切なのかい? 」


「 …… 多分、俺には良く分からない。

でもその人にとっては大切なのは分かる。

失くすのがどれだけ辛いかは分かるから。 」


屯平は昔いじめられて物を失くした時、飛鳥が一緒に探してくれたのを思い出していた。


「 そうかい…… なら見つかったらお茶奢りだからね。

私はタダ働きが好きじゃないのさ。 」


勝手にやり始めて置いて、奢って貰う気満々な態度にイラついていた。

猫の手でも借りたかったから、仕方なくその交渉に応じていた。


「 あっ…… あった。 」


USBを見つけた。

やっぱり誰かに捨てられていたようだ。


「 あんたって反応薄くない?

普通もっと喜ぶでしょ?? 」


「 これでも喜んでますよ。

あっ、これお礼のお茶です。 」


そう言いペットボトルのお茶を投げる。


「 本当に愛想ないわね…… 。

こう言う時はありがとうよ? 」


「 お茶にそれも含んでるんで。

それと…… そのUSBをこのデスクの引き出しに入れといて貰って良いですか? 」


掃除のおばちゃんに麻理恵のデスクの場所を教える。


「 別に良いけど…… 自分でやらないのかい? 」


「 そろそろお迎えが…… それとこの事は内緒と言うことで。 」


そしてギリギリの所でゴミ収集車やって来る。


「 それじゃ約束通り手伝って貰いますよ? 」


「 当然…… ありがとうございます。 」


そこから朝方までゴミ収集の仕事は続いた。

屯平はヘロヘロで家に帰った。


誰もそんな事があった事は知らない。

ただ…… あいつなら、飛鳥なら同じ事をしたはず。

そう思うと体が勝手に動いていた。

屯平はいつの間にか眠ってしまっている。

相当疲れていた。


麻理恵は企画が通りウキウキで帰ろうとしていた。


「 あんただったのかい?

USB失くしてたのは? 」


麻理恵に話を掛けて来たのは、掃除のおばちゃんだった。


「 そうです…… あっ!

USB見つけてくれたのは、もしかしてあなただったんですね。

本当に助かりましたーー 。」


「 可愛い子だねい。

私は何もしてないよ。 」


おばちゃんは納得したように笑っている。


「 冴えない頭モジャモジャの男がさ、ゴミ捨て場で必死に探してたのさ。

それで手伝ってやったんだよ。

しかも引き出しに入れろって命令されて。 」


モジャモジャ…… 直ぐに屯平だと分かった。


「 本当にありがとうございます! 」


深く頭を下げる。


「 全然構わないよ。

ただ…… あいつはやめときな?

あんな愛想ないやつ彼氏にしたら、絶対に不幸になるからね。 」


余計なお世話をして帰っていった。

麻理恵は嬉しくて強く鞄を抱き締める。


「 本当…… 不器用過ぎてなんも得しないのに! 」


麻理恵は嬉しそうに帰っていった。


そんな事も知らずにマッチングアプリでメールを送り続けている。


「 おおいっ!! 趣味聞いてブロックって!

どんだけお偉いんだよ。

だから女なんか嫌いなんだよ!! 」


相変わらず上手くいかないのであった。

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