第14話 マッチング


タメ息をつきながら仕事をしている。

パソコンとにらめっこしつつ、たまにスマホを確認しても何も進展はない。

誰からの返信も来ていなかった。


( 仕事もやる気にならないな…… 。

適当に外行ってリフレッシュするかな。 )


そう思い休憩を取って外に出る。

公園で空を眺めては、自分の存在価値がないことに幻滅するばかり。

モテないのは分かっていた。

でも頑張れば少しは…… ?

そんな気持ちは甘かった。


( はぁ…… 仕事に戻るかな。 )


自分の癖っ毛をモジャモジャと触り、気持ちを入れ換えて仕事をしようと思った。


自分の職場に行く途中に、麻理恵の部の前を通ると何やら騒がしい。


( ん? どうしたんだろう?? )


何やら皆で必死に探している。


「 あの…… 何かあったんですか? 」


屯平が新人に聞くと小声で話し始める。


「 ちょっとトラブルで…… 仕事の企画書のUSBを何処かに落としちゃったらしくて。

皆で必死に探してるんです。

結構嫉妬とかされそうだから、誰かに捨てられちゃったのかも。 」


「 ほう…… どうも。 」


何やらトラブルのようだった。

屯平には関係ないので行こうとする。


「 にしても災難だよな…… 麻理恵ちゃん。

よりによってあのUSBを失くしちゃうなんて。 」


失くしたのは麻理恵だったのだ。

立ち止まり中を覗いてみる。

でもそこには麻理恵はいなかった。


( あんなに真面目にやってたのに…… 。

どうしちゃったんだろ? )


その場からゆっくり歩いていく。

自分のデスクに着き、モヤモヤする気持ちはあるけど仕事をする。


夕方になり定時なので上がる事に。

いつものように何事もなく帰る。

するとスマホを見てみるとマッチングアプリからの通知だった。


「 やほーーいっ!!」


思わず声が出てしまう。

そしてメールの内容を読んでみる。


「 初めまして、私もいい人に出会いたくて始めました。

良ければお食事でもしながらお話しませんか?

急だと思いますが今日の夜なんてどうですか?

お返事待ってます! 」


とても綺麗な30代の女性からだった。

優しそうで何も問題ない。

急な誘いにドキドキが止まらない。

直ぐに返信をした。

何と言う奇跡!!

こんなに上手く行くことがあるだろうか?

屯平は心を踊らせながら待ち合わせの場所に向かう。


嬉しい事で気持ちが高ぶっていて、麻理恵の事を忘れてしまっていた。


( どうしようかなぁ…… 。

ただ食事するだけだからな。

花とか買ってたら変かな?

こんなショボくれたスーツで大丈夫かな? )


初めての女性との食事に緊張しっぱなし。

電車に乗って目的の場所に…… と思ったら、大切な資料を会社に忘れていた。

家でやらないと明日のプレゼンに間に合わない。


( しょうがないな…… 一度戻るか。 )


駅まで来たのにまた会社に引き返す。

会社のデスクの引き出しから資料を持って、今度こそ待ち合わせの場所へ。


もう日も暮れて会社には人の姿が少なくなっている。

麻理恵の仕事場の前を通るときに、中をさりげなく覗いてみる。

そこには1人必死にUSBを探す麻理恵の姿があった。


( あいつ…… まだ探してたのか…… 。 )


可哀想だけど約束の時間に遅れてしまう。

気にしている暇はなかった。


「 ない…… 絶対に引き出しに入れたのに。 」


いつも明るく元気な麻理恵も、こればかりはそんな訳にはいかなかった。


「 お疲れさま…… ちょっと一服しない…… い?」


屯平はエナジードリンクを2本買ってきた。

クスりと麻理恵に笑顔が戻る。


「 先輩、こう言う時は普通缶コーヒーとかですよ?

でも疲れてたんで凄く嬉しいです。 」


屯平は少し遅れる事をメールして、麻理恵と少し話してから行くことにした。

ほっとけなかった。


「 USB見つからないのか? 」


「 はい…… デスクの上に置いといたのに、何処にも見つからなくて。

頑張って作ったプレゼンの資料だったのに…… 。

やっと貰えたチャンスだったのに、これでまた初めからです。

頑張ったんだけどなぁ…… 。 」


ベンチに座りながら悲しそうに話していた。


「 ミスっても良くないか?

だって…… たかが仕事だし。

また来たらやれば良いんだし…… 。 」


「 私は男の人に負けないくらい人よりも多く仕事したりして、やっと貰えたチャンスだったんです。

これだから女は…… って顔されちゃってました。

本当になんなんだかって感じです。 」


麻理恵は人一倍頑張って与えられた仕事だった。

だからこそこの損失は大きかった。


「 でも…… 頑張ったんだから。

諦めるのも社会人として必要だろ? 」


麻理恵も上司にはそろそろ帰れと言われていた。

だから諦めも肝心だと分かっていた。


「 そうですね…… でも悔しい。

全部無駄になっちゃった…… 。 」


そう言いながら泣きそうになるのを必死に堪えていた。


「 頑張ったの見ている人も絶対にいる。

だから…… 努力したのは無駄なんかじゃない。 」


屯平のその言葉に嬉しくて涙が溢れてしまう。


「 すみません…… 泣いちゃって。

そんな優しい事誰にも言われた事なくて。 」


「 俺もそうだったから…… 。 」


そう言って鞄を持って立ち上がる。


「 親友からの受け売りさ…… 。 」


その言葉は飛鳥に昔言われた言葉だった。

その優しい言葉を違う誰かに伝えたくなっていた。

直ぐに親友が飛鳥の事だと悟り、麻理恵も直ぐに立ち上がる。


「 先輩! …… 飛鳥さんの事は何て言うか。

その…… 先輩…… 大丈夫ですか? 」


屯平のショックが大きいのを分かっていた。

だからずっと心配していた。


「 まだ受け入れられていないかな。

だけどあいつに恥ずかしくないように生きたい。

そう思えば前に少しでも進めるかな…… 。

なんて考えたりして。 」


恥ずかしそうに話した。


「 先輩…… 先輩は1人なんかじゃないですよ?

何かあったら私に言って下さい。

いつだって私は味方なんですから! 」


屯平は恥ずかしそうに帰っていった。

麻理恵ももう少し探したら帰れ事にした。

でも麻理恵の気持ちは救われていた。


屯平が走って外に出ようとしていた時、ゴミ捨て場が目に入る。

その時に麻理恵の同僚の話を思い出していた。


( 結構嫉妬とかされそうだから、誰かに捨てられちゃったのかも。 )


屯平はスマホを取り出しメールを打っていた。

直ぐにゴミ収集車がやって来た。


「 ちょっと待って下さい!

このゴミの中にまだ大切な物あるかもしれないんで。 」


そう言い回収するのを止めさせた。


「 ちょっと困るよ…… こっちだって仕事でやってんだからさ。

次の場所に行かないといけないし。 」


当然怒られてしまう。

屯平は必死に頭を下げる。


「 なら一時間だけ…… 他の所回って貰えませんか?

それまでに見つけるので。 」


「 そんな事言われても…… 。

こっちも1人で回って疲れてんだからさ! 」


どうしても見つける為に時間が欲しくて頭を下げる。

相手も予定外の事をされて面倒くさそうにしている。


「 なら…… 時間待ってくれたらゴミ回収手伝いますよ?

その方が楽ではないですか? 」


相手はまだ若者で楽したい年頃。

だからその条件がかなり大きかった。


「 本当ですか? 約束ですよ?

一時間だけですからね。

見つからなくても回収するし、その時も手伝って貰いますからね? 」


なんやかんやあり上手くいった。

屯平はスーツを脱ぎ捨てて、Yシャツ姿になり腕捲りをする。


「 よし…… やってやるか。 」


屯平はUSBを探す事にした。

デートの相手からはドタキャンしたのもあり、直ぐにブロックされていた。

それも覚悟していたから仕方がない。


「 少しくらい待てない女なんか知るか!!

俺は…… 俺の思った通りやる。

それが1人もんの男だからな。 」


また婚期が遠退いていくのを感じるだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る