第11話 1人きりの
会社ではいつも通りの作業が行われている。
屯平も変わりなく仕事をしていた。
そして何度もミスをして、上司に叱られている。
「 ちょっと…… 休憩行ってきます…… 。 」
そう言い休憩に行ってしまう。
周りからは屯平の話をされていた。
「 二宮さんミス多くない? 」
「 本当多いわ…… 参っちゃう。 」
女性達は不満が沢山出てしまう。
廊下を歩いて居ると向かい側から、麻理恵が歩いて来る。
「 先ぱーーいっ! おはようございます。 」
元気良く話をかけると、ペコっと頭を下げて通り過ぎる。
立ち止まり直ぐに振り返り屯平を見る。
屯平はゆっくり歩いて行った。
( 何だろ…… 元気がない?
気のせいかな…… 何か気になる…… 。 )
違和感を感じていたが、話をかけられるように感じなかった。
心配そうに見ていた。
屯平は休憩中に炭酸の飲み物を飲んでいる。
何も考えず遠くを見ていた。
「 二宮君…… 大丈夫かい? 」
部長が話をかけてきた。
友達が亡くなったのを知っていたのは、部長だけだった。
お葬式で休む為に仕方なく話していた。
周りには病欠と嘘をついてもらった。
「 はい…… 大丈夫です。 」
あまり寝ていないのかクマが出来ていて、目に生気が宿っていなかった。
「 二宮君…… 私は君とプライベートの話をした事は無かったね。
友達の事は本当に残念だったね…… 。 」
屯平は黙って聞いている。
「 俺も友達と一緒に居ると、1日があっという間に過ぎてて…… 仕事面倒くさいなって思うことが多かった。
でも1人になってから、同じ1日が凄く長く感じるんだ。
その時思ったんだ …… 俺は友達と居るのが当たり前になってて、毎日が楽しかったんだなって。 」
部長は優しい人で泣いてしまい、眼鏡を外してハンカチで涙を拭う。
「 二宮君…… 君は1人じゃない…… 。 」
「 は…… い…… ありがとうございます。 」
立ち上がり職場に戻ろうとする。
直ぐに部長も立ち上がる。
「 私は…… 私は!!
二宮君の事を嫌いではなーーい!
周りの言葉など気にするな!!
堂々としていろ!! 君には私が付いてる! 」
屋上で大声で叫んだ。
屯平はお辞儀をしてその場から離れていった。
居なくなると部長は泣いていた。
「 1人ではないんだから…… 。 」
部長はそう言って少し泣いていた。
屯平はその気持ちを受け取っていた。
傷は全く癒えなくても、少し気が紛れるように感じていた。
仕事を終えて麻理恵は喫茶店に。
平日なのに休みの札がかけられている。
「 あれ…… お休みなのかな? 」
中を覗いているとマスターが出てきた。
「 ごめんね…… 少し腰を痛めていてね。
折角来てくれたので、良かったらコーヒー一杯飲んで行って下さい。 」
マスターは店に入れてくれる。
麻理恵は喜んで気持ちを受け取る。
コーヒーが運ばれて来て一杯飲む。
「 美味しいです…… でもこの前と味が違う。 」
「 コーヒーとは入れる人によって味が変わって来るんだよ。
それとその日の天気にその人の気持ち。
全てがコーヒーに現れてしまう。 」
マスターは悲しそうに話していた。
「 そうなんですね…… 今日はあのイケメンの飛鳥さん居ないんですか? 」
動揺してカップを1つ落としてしまう。
「 失礼…… やっぱり言っていないんだね。
あの子は絶対に言わないか…… 。 」
麻理恵はその話し方に違和感を感じる。
そして奥に飾られている飛鳥の大きな遺影の写真を見つけてしまう。
「 えっ…… そんな…… そんな。
先輩…… 普通に働いてましたよ…… ? 」
気が動転しながら話すとマスターも察したのを直ぐに分かった。
「 あの子は本当に…… 本当に。
ごめんなさい、まだ気持ちを受け入れられてなくてね。
屯平君は…… いつも通りにしていたいんだ。
何も考えないように…… 。 」
マスターは声を震わせながら話した。
麻理恵も直ぐに泣いてしまっていた。
飛鳥と会ったのはたった1度だけ。
それなのに凄く悲しくなっていた。
「 あいつの事…… 宜しくお願いします。 」
飛鳥の言葉を思い出して、胸を締め付ける。
優しい笑顔に優しい声…… 。
忘れたくても忘れられない…… 。
麻理恵は泣いてしっていた。
愛理と美紀も2人で放心状態のように座っていた。
授業も受けずにベンチに腰を掛けている。
「 屯平さん…… 大丈夫かな…… 。 」
美紀はボソッと話す。
「 私……約束したんだ。
あの人の友達になるって…… 。
だから…… 私探してみる。 」
美紀はゆっくり立ち上がる。
「 美紀は強いんだね…… 私は全然前に進めそうにないよ。 」
「 違うよ…… 飛鳥さんが居たら絶対に私にそう言うと思うから。
私はいつまでも泣いてはいられないよ。 」
美紀の心は強かった。
生きるため…… 前に進む為に一歩踏み出している。
そして屯平を探して会社に向かった。
愛理は美紀の切り替えの早さが羨ましかった。
「 美紀…… 私にはまだ出来そうにない。 」
悲しみに打ちのめされていた。
屯平は1人ゲーセンへ。
何も考えず無心にゲームをしている。
「 ねぇ…… あんた弱すぎなんだけど?
ナメプ《なめたプレイ》してんなよ。 」
向かい側の対戦相手が怒って来る。
それは以前会った事もある、深く帽子を被った人だった。
「 …… すみません。 」
そう言い立ち去ろうとする。
「 待てよ! こっちはすげぇ練習したんだ。
勝ち逃げすんなよ。 」
相手は前にぼこぼこにされたのを恨んでいて、仕返しする為に練習していたのだ。
「 俺には関係ないし…… つまらないからもうやらない…… 。 」
そう言い歩いて行ってしまった。
帽子の子は。
「 絶対また来いよ…… 待ってるからな! 」
返事もすることなく歩いて行った。
帽子の子は立って帰って行くのを見ていた。
1人何をするのでもなく、ひたすら歩き続けて疲れては休むを繰り返していた。
家に居てもやることもなかった。
「 秋葉原かぁ…… フィギュアの予約締め切ってんだろうな。
今になってはどうでも良いけど…… 。 」
つまらなそうにベンチに腰を下ろしていた。
「 どうした? そんなタメ息ばかり吐いて。 」
妄想で隣に飛鳥が居るように見えていた。
「 だって…… 何か何もやる気にならないんだ。
ゲームもアニメも…… 漫画も…… 全部お前と見ていたから楽しかったんだ。
今は楽しくない…… 。 」
1人で寂しそうに語り掛けていた。
いつもなら優しい言葉が返ってくる。
でも飛鳥はもう居ない…… 。
その現実がどうしても受け入れられない。
次の日の仕事は休んでしまった。
屯平には生きる気力が無くなっていた。
喫茶店の近くの公園のベンチに腰をかけていた。
喫茶店には行きたくなかった。
あそこには思い出が多すぎた…… 。
「 あんた…… 何で店に来ないのよ…… 。 」
愛理に見つかってしまった。
屯平は直ぐに立ち去ろうとする。
「 待って! あの日…… 言い過ぎたわ。
本当にごめんなさい…… 。 」
愛理が謝ると立ち止まる。
「 別に謝らなくて良いよ…… 。
言われて俺もそう思ったから。 」
「 何でいつまでもイジイジしてんのよ!
そんな事してて…… 飛鳥先輩が喜ぶとも? 」
屯平にも分かっていた。
早く前に進まなければいけない。
それが大人と言うことなのだ。
「 やりたい事が見つからない…… 。
飛鳥の居なくて何をすれば良いのか。
まだ俺には分からなくて…… 。 」
その目は光を失っているように感じた。
愛理は屯平の手を握る。
「 あんたが…… 残された人がその人分まで生きるのよ。
それが残された人の役目なの。 」
愛理は咄嗟に手を握ってしまい、直ぐに手を放す。
屯平の口がゆっくりと開いていく。
「 そうだ…… そうか……。
分かったぞ!! やりたい事が。 」
いきなり大きな声で叫んだ。
愛理はその意味を聞くと。
「 俺…… 婚活するわ! 」
「 はっ? 」
慰めたらなんでそんな事になったのか?
全く分からない…… 。
愛理はまた屯平が嫌いになっていた。
どんな理由かは分からないが、屯平の目に生気が宿っていた。
その日から…… 屯平は婚活を始めるのだった。
それは険しくて辛い道になるだろう。
屯平はもう迷う事はなかった。
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