第10話 二人


何日か過ぎた雨の日…… 。

白岩飛鳥のお通夜が行われていた。

昔の友達に、店のマスターに愛理も来ていた。

沢山集まってくれていた。

男友達も多かったけど、明らかに女性の方が多かった。

女性達はみんな泣いている。


突然の心臓発作だった。

元々心臓が弱く、激しい運動とかはしないようにしていた。

一人で居るときに発作を起こして、救急車を呼ぶ前に倒れたのだろうと言っていた。

30歳と言う若さでこの世を去っていった。


喪服姿で屯平は外を見ていた。

お通夜では食事が出されていたが、みんな泣いていて誰も手をつけられていなかった。


「 おばさん…… 箸もらって良い? 」


屯平は飛鳥のお母さんから箸を貰い、一人食事を食べていた。

周りからは冷たい視線を向けられている。


「 ねぇっ? あんた冷た過ぎない? 」


食べている目の前に愛理が立っていた。

屯平は一瞬見るなりまた食べている。


「 親友じゃなかったの?

良くもまぁ…… 黙々と食べれるわね。

周りと違って涙一つ流してないし…… 。

あんたって…… 本当最低だよ…… 。 」


激しく怒りをぶつけた。

泣きながら罵声を浴びせる。

屯平はゆっくり箸を止める。


「 そうだな…… 俺もそう思うよ。 」


ゆっくり立ち上がり玄関に歩いていく。

直ぐに追いかけて愛理は言った。


「 涙流れないなんておかしいよ!!

あんなに仲良くしてたのに…… 。

お前なんか出ていけ!! 」


また罵声を浴びせて追い払うようにしてしまう。

屯平はゆっくりと出ていってしまった。

泣きながら立ち尽くしていた。

愛理もこんなに怒ったのは生まれて初めてだった。


「 ごめんね…… 愛理ちゃん。

屯平ちゃんを許してあげてね…… 。 」


飛鳥のお母さんが愛理に優しく言った。

愛理は直ぐに言い返す。


「 だって…… だっておかしくないですか!?

ぐすっ…… だって、飛鳥先輩の為にみんな…… みんな泣いてるのに。

あいつだけ全然泣いてないなんて…… 。

いつもと変わらない…… それが許せなくて。 」


やるせない気持ちに泣きながら話した。

飛鳥のお母さんも泣いている。


「 ごめんね…… 屯平ちゃんは悪くない。

ちょっとまだ不安定で…… ごめんなさい。 」


不安定な気持ちで話していたので、耐えきれず誰も居ない所へ行ってしまった。

愛理にはその言葉の意味が分からなかった。


居間に戻るとみんなは少しずつ食事をしていた。

愛理も席に座った。


「 さっきの屯平君だよね? 」


「 そうよね、屯平君だったね。

飛鳥君…… まだ仲良くしてたんだ…… 。 」


かつての同級生達が屯平の話をしている。


「 飛鳥君…… 絶対仕方なく一緒に居たのよね。

一人ぼっちで可愛いそうだからって。 」


「 絶対にそうよ…… 哀れみ? みたいな。 」


あらゆる所から屯平の話が聞こえて来る。


「 俺も付き合うのやめろって何度も言ったんだよ。

見てみろよ…… 泣くこともなく平然としてた。

マジで気持ちわりぃな。 」


愛理の耳に嫌でも色々な話が聞こえて来る。


( あんなに言った私が言うのもあれだけど。

ここに居るみんなから…… あいつへの怒り?

違う…… ただ嫌いなんだ…… 。 )


愛理は心が苦しくなっていた。

自分とは違う…… 嫌いの重さを感じていた。

みんなは嫌悪感丸出しになっている。


「 あなた達…… やめてもらえない!?

屯平ちゃんを悪く言うなら帰ってくれますか??

ここの家で…… あの子の前で悪く言うのは絶対に許しませんっ!! 」


飛鳥のお母さんが大きな声で怒った。

その場は静まり返る。


「 すみません…… 冗談なんです。 」


「 私も…… もう言いません。 」


みんなは屯平の話をやめた。

愛理も深く反省していた。

亡くなった飛鳥の前で悪く言うのは、絶対にしてはいけなかった。


愛理は落ち込みながら外を見ていた。

雨は強く、明日も雨は続きそうだ。


「 隣良いかしら? 」


茶髪の綺麗に髪の毛を束ねられている女性が隣に座る。

見たことない女性だった。


「 初めまして、私はあのバカの妹。

二宮未来にのみやみくって言います。 」


屯平の妹だった。

慌てて愛理は謝ろうとする。


「 ああ…… あの…… さっきは。 」


「 何も言わないで良いよ。

あなたが言ってる事間違えてないし。 」


未来はそう言いながら一緒に外を眺める。


「 お兄ちゃんはね…… 感情が欠落してるんじゃないんだよ。

ただ人より表に出すのが苦手なの。 」


未来は屯平の話をしてくれる。


「 お兄ちゃんは…… 心の整理が出来てないの。

飛鳥さんが倒れてるの最初に見つけたの…… お兄ちゃんだったのよ。

前日に具合悪そうだったから、朝に様子見に行った時に。

直ぐに救急車呼んだらしいけど、全然間に合わなかったって。 」


愛理は知らなかった。

親友が倒れていたらどんな気持ちだったのか?

その時にどれだけ動揺してしまったのだろうか?

想像するだけで悲しくなっていた。


「 ごめんね…… 愛理ちゃんだっけ?

私ね…… お兄ちゃんの事オタクでキモいとか思うけど、飛鳥さんとは誰よりも仲良くて兄弟みたいな関係に見えたのよ。

だから…… お兄ちゃんを許してあげて欲しいな。

直ぐにじゃなくて良いからさ。 」


愛理は慌てて頭を下げる。


「 未来さん…… 私はただ八つ当たりしたかっただけなんだと思います。

怒った気持ちもあったかもしれませんけど、あそこの居た人達みたいに悪くは思ってません。

本当は…… 本当は自分が一番分かってます。

ごめんなさい…… ごめんなさい。 」


愛理は泣いてしまう。

未来は優しく抱き締める。


「 よしよし…… 泣かなくても良いの。

飛鳥さんの事大好きだったんだね。 」


愛理の気持ちが分かっていた。

いきなりの別れに情緒不安定になっていた。


「 私もね…… 初恋は飛鳥さんだったんだ。

今は違う男性と結婚したけどね。

本当…… 格好良かったなぁ…… 。 」


愛理は我慢していたのに涙が溢れてしまう。

二人は初めて会ったのに意気投合していた。

互いの傷を癒すように…… 。


屯平は一人ずぶ濡れになりながらアパートに来ていた。

飛鳥の住んでいたアパートだ。


「 本当…… 綺麗な部屋だよな…… 。 」


暗い部屋で一人立っていた。

テレビをつけてDVDを見る。

それは二人で見るはずの映画だった。


「 つまんねぇ…… つまんな…… 。

一人だと…… 愚痴も言えねぇのな。 」


寂しそうに見ていると、いつも隣にいる飛鳥の姿が見えている。


「 本当に…… つまんねぇ。 」


直ぐに目を反らすように映画を見る。

屯平は目は充血していた。

沢山泣いたのか? それとも全然眠っていないのか?

理由は分からなかったけど、屯平は眠る事なく同じ映画を何度も見ていた。


次の日に火葬場で飛鳥との最後の別れをする。

みんなは泣きながら最後の顔を見る。

別れを惜しんでいる。


そして屯平がやって来た。

周りからは冷たい視線をされてしまう。

飛鳥の顔を最後に近くから見る。


「 早いんだよ…… お前は…… 。 」


体を震わせながら拳を作る。

別れを告げて離れて行く。

愛理とすれ違うとき黙って通りすぎる。

愛理は謝ろうとしたが、重たい空気で思ったように言葉が出なかった。


飛鳥が火葬されて煙突から煙がで出てくる。

屯平はそれをゆっくりと眺めている。


全てを終えてみんなは帰って行った。

愛理もゆっくりと帰ろうとしている。


「 今日はありがとう…… 。

ウチのバカ兄貴が色々ごめんね…… 。 」


未来がそう言うと愛理は頭を横に振った。


「 いいえ…… 私…… 自分が一番嫌いです。

もう何も考えられなくて。

でもお兄さんには謝らなくちゃ。 」


「 うふふ…… なら居場所教えたあげようか? 」


そう言い屯平の居場所を教えた。

そこは飛鳥のアパートだった。

遺品の整理の為、飛鳥のお母さんから鍵を預かっていた。

ゆっくりと愛理は部屋に近づく。

飛鳥の部屋のキッチン窓が開いている。

その小さな隙間から中を覗く。

屯平が居るのが分かった。


屯平は机の中から一冊の日記を見つける。

ペラペラと中を見る。


「 器用なもんだな…… 。 」


日記をザックリ読んでいると、そこには屯平の心配や屯平との想い出ばかりが書き記されていた。

そして亡くなってしまった日…… 。

調子悪くなりながらも、日記は書いてあった。


( 屯平の女友達が店に来た。

凄く可愛くて屯平がは相変わらずのぶっきらぼうでも、全然気にせず話してくれていた。

本当に嬉しかった。

俺は屯平の女性恐怖症は絶対に治ると思った。

それでいつか誰かと結婚出来るんだと。

その時は二人のナコードをするのは俺だ。

恥ずかしい話を沢山してやるんだ。

今からワクワクしている。

明日は屯平と秋葉原。

早く寝ないとな。 )


最後の日記を見ながら屯平の目から、溢れるくらいの涙が溢れ落ちる。


「 何だよ…… 何だよ…… 。

誰が気にしてくれって…… 頼んだんだよ…… 。

自分の事をもっと…… もっと気にしろよ。

辛いときは…… 辛っ…… 辛いときは!

辛いって言ってくれよ…… 友達だろっ!!

うっ…… うぅ…… 。 」


屯平は日記を握り締め泣いた。

日記には屯平の事ばかり書いていて、自分の話は全然書かれていなかった。

我慢してた分の涙が溢れていた。

後少し早く着いていれば…… 。

前日に病院に連れていっていれば…… 。

後悔しかなくて自分の事が許せなかった。


愛理はこっそり見ていて、バレないようにしゃがみながら泣いてしまった。

未来の言う通りだった。

屯平は誰よりも飛鳥の死を悲しんでいて、自分を責め続けていた事も…… 。

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