第8話 女の友達


会社でいつものように仕事をしていた。

可もなく不可もなく…… 何も変わらなく作業を進めている。


( 疲れた…… そろそろちょっと休憩するかな。 )


周りを見ると女性社員と男性社員で話している。

仕事に夢中で自分以外で盛り上がっていたのが分からなかった。


( うわぁ…… 気まずい…… 。

外出て飲み物でも飲もうっと。 )


話を邪魔しないように出ていった。


「 あれ? さっきまで二宮さん居ませんでしたっけ? 」


一人のOLが言った。

みんなも周りを探す。


「 まぁ良いでしょう。

どうせ陰気な野郎はこっそり休憩行ったんだろ? 」


与一が言うとみんなも納得して笑う。

与一は話が上手い。

自分を中心になって話している。


と話してるのをなんとなく察している屯平。

与一とは昔から仲が悪く、直ぐに自分の悪口で笑いを誘っていた。


( 与一とは本当に合わない…… 。

何で同じ会社で働いてんだろ。 )


一人ベンチに座ってゆっくりしていた。

ノルマをこなしていたから、問題がない限りはゆっくりできる。


その頃社内では与一の話で盛り上がっていた。


「 お疲れ様でぇーーす。 」


麻理恵が社内通達の資料を持ってきた。


「 聞いてよーー 、与一先輩の話面白いのよ? 」


女性社員は与一の話に夢中。

笑いながら麻理恵にもその面白さを伝える。


「 あはははっ! そうなんですか?

与一先輩は本当面白いですね。 」


話に混ざって笑ってしまう。

笑いながら屯平のデスクが目に入る。


「 あれ? 二宮先輩は休みですか? 」


社内に屯平の姿が見当たらない。

与一は話を止めて返答する。


「 えーー? トントン??

何処行ったんだろ…… トイレじゃないかな。

あいつはいつもお腹ピーピーだから。 」


そう言うとみんなは笑ってしまう。

更に屯平をいじるように話すと、また笑いが起きていた。


「 そうですか…… そろそろ戻ります。 」


麻理恵はその場から去るように出ていく。

社内では屯平を笑っていた。


麻理恵は誰とでも話せるぐらい社交的。

上司からも年上からも年下からも愛されている。

でも麻理恵には嫌いな事があった。

それは悪口で笑いを取る事。

場の空気を壊したくないので、怒ったり止めはしないけど反対だった。

自分がされたら嫌な事はしない。

麻理恵の親から教わった事。


( つまんないなぁ…… 。

与一さんって悪口とか人をいじってばっか。

まぁ人それぞれだから何も言わないけど。

軽蔑はしちゃうな…… 。 )


麻理恵はストイックな性格で、心の中では好きか嫌いな人を分けていた。

自分の職場に戻ろうとしていると、屯平の事が気になった。


( 先輩…… トイレ行ったのかな? )


一番近くのトイレに行ったけど、外からは入っているかは分からない。

居ないから諦めて帰ろうとする。

すると近くから鼻歌が聞こえて来る。


「 ふんふんふーん…… ふふふんふーん。 」


こっそり近づくと近くの休憩室のベンチに座り、楽しそうに漫画を読んでいた。

楽しいのか鼻歌まで唄っている。

麻理恵はクスクス笑ってしまう。


( 悪口言われてるの何て全然気にしてないんだなぁ。

自分の時間を大切にしてて凄いな。 )


ゆっくりと屯平の横に座る。

話をかけても反応がない。

イヤホンをつけていて聞こえていない。

邪魔しないように横に座っていた。


少しすると屯平は気配を感じて横を見る。


「 うわあっ!! 」


ビックリして飛び上がる。

その反応を見て声を出して笑ってしまう。


「 いつから居たの? 」


「 うふふふ、先輩の鼻歌唄ってるくらいからですよ。 」


そう言うと恥ずかしそうに顔を赤くする。


「 先輩が悪いんですよぉ??

私が話しかけたのにイヤホンなんかつけてるから。」


イヤホンを外してポケットにしまう。


「 お…… 俺の休憩なんだから。

何しようと自由だから。 」


そう言って頭をかいた。

恥ずかしそうな姿を見て笑いそうになるが、どうにか堪えている。


「 誰…… 誰にも言わないでくれる? 」


笑われるのを恥ずかしがり、麻理恵に頼み込んできた。

麻理恵はキュンと心を締め付けられる。

大の大人がそんな些細な事を気にする姿に、麻理恵は可愛く感じていた。


「 どうしようかなぁ…… 。

なら先輩、飲み物奢って下さい。

そしたら忘れてあげます。 」


顔を近づけて目を輝かせて話す。

屯平は直ぐに目をそらしてしまう。

麻理恵は何かと距離感が近い。


「 別に…… 良いけど。 」


口止め料に飲み物を奢った。

カルピスを買うと喜んで飲んだ。


「 じゃあ…… 俺はそろそろ。 」


「 ああーーっ!! ダメダメ。

ちゃんと飲み終わるまで隣に居てください! 」


本当は帰りたくてもバラされたくないから、帰る訳にはいかなかった。

仕方なくまたベンチに座る。


( 何で付き合わないといけないんだ…… 。

飲み物奢ったんだから満足だろ。

俺と居ても楽しくないのに。 )


「 俺と居ても楽しくないのにとか思ってます? 」


屯平の心の声を当てられてしまう。

ビックリして体がビクッ! と反応する。


「 私は先輩と話すの好きでよ。

先輩から全然話かけてくれませんけどね。 」


麻理恵は屯平の反応で図星なのを確信する。

分かりやすい反応だった。


「 話す…… 話すことないから。

他に沢山…… 沢山居るだろ。 」


顔を見ずにうつ向いて話した。


「 関係ありません、色んな人と話すから面白いんですよ。

だから代わりなんて居ません。 」


屯平はその返答を聞いて、やっぱり麻理恵は自分とは全く違うのだと思った。


( たまにお前から話かけてみろよ。

そうすれば必ず返事が返って来るからさ。 )


飛鳥の言葉が脳裏を過る。


「 こここ…… コーヒーって好き? 」


暑くもないのに汗が吹き出る。

ハンカチで顔を拭いた。

勇気を振り絞りだした話題だった。


「 コーヒーですか? 好きですよ。

甘党だから砂糖とミルクは入れますけどね。 」


嬉しそうに返してくれる。

屯平は嬉しかった。


「 俺も好きで…… 近くの喫茶店に良く行く。

そこの店の角っこの席でコーヒー飲みながら、本読むのが好きで…… 。

近くの公園の池とかも見えて綺麗で。 」


コーヒーは飲めないからココアを飲んでいる。

格好つけてるのでコーヒーと言っている。

一生懸命話す屯平を珍しそうに見詰めていた。


「 そうなんですかぁ。 」


( あれ? 反応が悪い??

やっぱりどうでも良いよな…… 。

てかてか! 何で喫茶店の話!?

あんな店の話するとか俺がバカだった。 )


少し反応が悪く見えて色々考えてしまう。


「 そこの店凄い気になります。

今度連れてって下さいよ! 」


反応が悪かったんじゃなく、色々喫茶店を想像していたから反応が薄く感じていた。


「 いやいや…… 行くほどの店じゃないから。

古い店だし…… マスターと社員の二人で回してて。

バイトがまた生意気で…… 。 」


「 古いの好きですよ?

昔ながらの喫茶店良いじゃないですか。 」


無駄に喫茶店の話をしたから食いついてしまった。

凄い行きたがり引き下がらない。


「 そろそろ…… 休憩から戻らないと。

悪いけど戻る。 」


そう言い立ち上がり帰ろうとする。


「 先輩! 戻る前にもう一つだけ。 」


「 何かな…… 。 」


喫茶店の話か? それとも金銭的な頼みか?

それとも連帯保証人の頼みなのか?

色々想像してしまう。


「 私の事は麻理恵と呼ぶ事! 」


「 えっ? 」


いきなりの事で気が動転してしまう。


「 先輩はいつもキミとかって呼んだりして、全く名前呼ばないので。 」


「 でも…… なら柿沼さんで良くない?

名前で呼ぶのは抵抗が…… 。 」


麻理恵は立ち上がり近付いて来る。


「 絶対ダメです!!

ちなみに上司で年上なんだから、麻理恵さんじゃなくて麻理恵で良いですから。 」


いきなりの高難易度な問題…… 。

今まで一度も名前で呼ぶ女友達は居なかった。

だから強い抵抗があった。


「 分かった…… 次から呼ぶ。 」


恥ずかしそうに走って戻っていった。

麻理恵は嬉しそうに笑っていた。


麻理恵はその後、資料を置きに行くだけなのに寄り道していたので、上司に少しだけ怒られてしまった。

それでも麻理恵にとっては楽しい時間だった。

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