第7話 拒絶反応


屯平には美紀の思考が理解出来ない。

何故見ず知らずの男性の席に相席したいのか?

黙って見詰めていた。


「 びっくりしちゃいますよね。

何してるのかなぁ?

って凄い興味が。

お喋りなので凄い話してみたくて。 」


飛鳥にお願いされたことは伏せて話した。

サークルでは一番のコミュ力に、男性経験も豊富な美紀は不自然なく接していた。


「 そう…… 。 」


一言言ってまたゲームを始めた。

美紀はぽっかり口が開いてしまう。

いきなり話かけたのはあっても、こんなにも冷たく対応されたのは初めてだった。


「 …… そうなんですよ!

ここのお店の常連さんですか?

凄い美味しいですよね、ここのコーヒーは。 」


負けずに一方的に話しかけた。

美紀はカチンときてしまう。


「 ちょっと! 目の前に座って話してるんだから少し相手してくれても良くないですか? 」


怒って屯平のゲーム機を取り上げる。

少しやりすぎにも感じたが、少し強引なやり方の方が効く場合もある。


「 …… 何歳? 」


屯平から質問してきた。

美紀は一歩前進したと思った。


「 23歳の大学生です、はい。 」


「 そう…… ですかぁ。 」


美紀は色んな人と話したり、友達になってきたから察してしまう。

これはかなり厄介な男なんだと。


「 ちょっと…… トイレ行ってきます。 」


そう言いトイレに行ってしまう。

美紀は大きくタメ息を吐く。


「 ごめんね…… 凄い大変でしょ? 」


飛鳥が心配そうにやってきた。

美紀は全く堪えていなかった。


「 いえいえ! 全然。

私なら絶対に心開かせて見せます。

帰って来たらまたやってみます!! 」


凄いやる気を出して再挑戦しようと思っていた。

飛鳥は苦笑いしてしまう。


「 あの…… もう帰ったよ。 」


「 えぇ…… えーーっ!? 」


トイレに行くふりをして帰っていた。

席には荷物はなかった。


「 あいつは気まずい空気になると、あんな感じに逃げるんだ。

本当にごめんね…… 。」


美紀の開いた口はふさがらなかった。

ここまで手強いとは思っていなかった。


「 だから言ったのよ…… 。

あんなの構う必要ないのよ。 」


愛理は強めな口調で言った。

美紀も上手くいかず落ち込んでしまった。


「 本当にごめんね…… ちょっと追っかけるわ。 」


そう言い飛鳥は追っかけて行ってしまった。


「 はぁ…… あんなに壁が厚いとは。 」


「 だから無理だって言ったのよ。

あんな奴…… 人に迷惑しかかけない。

私は絶対あんな奴知らないんだから。 」


美紀を落ち込ませてしまった事に怒っていた。

奥からマスターが二人にカプチーノを持ってきた。


「 まあまあ…… これでも飲んで落ち着いて。 」


マスターの絶品カプチーノを飲む。

絶妙な甘味に飲んだ後には、口にカプチーノの香りでいっぱいに。

二人は幸せそうに上を見る。


「 屯平君を嫌いにならないでおくれ。

私にとっては息子のように可愛いお客さんなんだから。 」


「 マスターっ!! みんな振り回され過ぎです。

私はあんな奴は一人ぼっちになっちゃえば良いのよ。 」


愛理は屯平に振り回されてる事に腹が立っていた。


「 あの子はいじめられた事でトラウマになってしまったんだ…… 。

だから女性とは距離と、壁を作ってしまうんだよ。

そうする事によってメンタルを保って来たんだ。 」


傷つくくらいなら何も期待しない。

そして最初から話さない。

屯平はそうやって生きてきた。


「 マスターさんはどうして詳しいんですか? 」


美紀は気になり尋ねた。


「 子供の頃からの常連さんなんだよ。

ケンカしたときもいじめられた時も、いつも一番奥の席でゲームしたり本読んでいたんだ。

私は悲しくて…… 。 」


マスターは小さな頃から知っていたからこそ、今の屯平を見ていると悲しくなってしまう。

二人は黙って聞いていた。


「 だからこそ飛鳥君は屯平君の事をいつも気にしているんだ。

二人は親友だからね。 」


マスターの話を美紀は頷きながら聞いていた。

逆に愛理は面白くなさそうにしている。


愛理と美紀は帰っているときに、屯平の話になっていた。


「 なんで愛理は屯平さんの事嫌いなの? 」


「 だって…… だって飛鳥先輩にいつも迷惑かけてるし、自分勝手で横暴で下品でオタクで。

私にだって凄い偉そうに話すし。 」


日々の屯平への不満を話すと、美紀はキョトンとしてしまう。


「 てかてか…… 愛理は屯平さんと話してるの? 」


「 えっ…… ? まぁ。 」


言われてみると気になる事が。

女性嫌いで直ぐに逃げるのに、何故か愛理とは普通に話せている。

愛理も言われてみればと思ってしまう。


「 いつからなのよ!

どんな手を使って話せるようになったの? 」


食い気味に聞いてきた。

愛理には思い当たる事がなかった。


「 好かれていると言うよりも、女として見てないのかも。

バカにしてくるし年上面してくるし。 」


「 んーー …… そうなのかな? 」


謎は解決せずに二人は家に帰っていった。


その頃に屯平は家で飛鳥に叱られていた。


「 屯平はどうしていつもあんな態度なんだ?

少しぐらい話しても良いだろ? 」


「 …… 嫌いだ…… 若くておしゃれな子は。 」


逃げた事を申し訳なく思いつつも、怖くて我慢出来なかった。

しょんぼりしながらゲームをしている。


「 そう言えば…… どうして愛理ちゃんとは普通に話せるんだ?

気にした事なくて全然気づかなかった。 」


ゲームをしている屯平に聞くと少し考えている。


「 分からん…… なんとなく。 」


実は理由はあった。

まだ愛理がバイトし始めの頃、屯平は話す事なくいつものように一人本を読んでいた。


すると小さな女の子がソフトクリームを食べていた。

はしゃいで食べていたのでお皿ごと地面に落としてしまった。


( ん? あらら…… やっちゃった。

まぁ飛鳥が対応するから大丈夫か。 )


そう思っていたとき愛理は直ぐに女の子の元へ駆け寄る。


「 大丈夫だった? 今新しいの持ってくるから安心してね。

割れたお皿片付けちゃうから、ちょっとだけ待っててね。 」


笑って話す愛理を見て女の子も笑顔になる。

嫌な顔せず片付けて、飛鳥に頼んで新しいソフトクリームを運んできた。

女の子も嬉しそうに笑って食べた。


「 おい! こっちにもソフトクリーム頼む。 」


その時から屯平は話すようになった。

なんとなくだけど愛理は他とは違うと思った。

少し態度は悪かったけど。

これは屯平だけの秘密だった。


飛鳥も少しだけ分かっていた。

屯平が愛理にだけは心を許し、本音で話している事が。

愛理は少し口は悪くても、嘘をつかない。

そして誰にでも優しい。

そんなとこが良かったのかもしれない。


( 俺は嬉しいよ…… 。

少しでも心を開いただけでも。

お前なら必ず普通に話せるようになる。

その日が俺は待ち遠しいよ。 )


屯平の後ろ姿を見ながら笑っていた。

飛鳥は少しずつ前進している事が嬉しかった。


「 よーーし、コントローラー貸せよ。

俺もこのゲームやりたいんだよ。 」


飛鳥がゲームがやりたくてコントローラーを取ろうとする。


「 やめろよ! まだ満足してないんだよ。 」


「 お前の満足するのは50時間ぐらいしてからだろ?

そんなの待てるかよ! 早く貸せって。 」


大きくなっても二人は変わらない付き合いだった。

夜遅くまでゲームをするのだった。

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