第6話 恐怖症


大学の授業中、美紀は上の空だった。

何かを思い出してはタメ息をつく。


「 さっきからどうしたの?

あんたらしくないじゃない。 」


愛理が心配になり話をかける。


「 ん? 飛鳥さんってカッコいいなぁって。 」


デレデレして話すと愛理はびっくりして立ち上がる。


「 はぁっ!? 何で知ってるのよ!!? 」


いきなり立ち上がり大声を出してしまい、周りの痛い視線が突き刺さる。


「 鈴村さん…… 授業中ですよ。 」


みんなに笑われながら恥ずかしそうに座る。


「 全部あんたのせいよ? 」


「 愛理が早とちりしただけでしょ。

私は関係ありま…… せーーん。 」


そのふざけた態度に腹を立てる。

怒りを溜めたまま休み時間に。


「 ちょっと! 洗いざらい話して貰えるかしら? 」


昨日の出来事を全て話した。

こっそり行った事や飛鳥に一目惚れした事も。


「 ちょっと、ちょっと!!

恋のキューピッドって応援係じゃなかった?

何で美紀が一緒になって好きになってんのよ。 」


「 あんた知らなかったの?

恋のキューピッドも女よ。

恋はするしライバルにだってなる。

恋愛ってそれぐらい何が起こるか分からないの。 」


相変わらず訳の分からない言い訳をして、愛理を怒らせてしまう。

自分勝手な女の子だった。

そして話している内に、何かを思い出したかのように。


「 あっ! そう言えば屯…… 平?

愛理が言ってたオタクってその人でしょ? 」


いきなり話が変わり、屯平の話に。


「 屯平?? あぁ…… そうよ。

あいつは本当腹立つ…… 。 」


思い出して腹を立ててしまう。

それに対して美紀は不思議そうな顔で見ている。


「 そう? 私は別に嫌いじゃなかったよ?

少ししか話したりとかしなかったけど、悪い人には思えなかったかな。 」


男への好みにはかなりうるさい美紀。

なのに何故かあまり辛口に言われていない。

その違和感を指摘した。


「 ねぇねぇ、ちょっとおかしくない?

オタクで態度悪くて、見た目だって気にしてない。

私は大嫌いな男よ。 」


思い切り不満をぶつけた。

美紀は思い出して屯平の事を考える。


「 んーー 女の勘かなぁ。

見た目とか口は悪いと思ったけど、何か嫌いになれなかった。 」


辛口でさばさばしているのに、屯平の事はあまり悪い事は言わなかった。

愛理は共感してくれると思っていたから、少しガッカリしてしまっていた。


「 はいはい、どうせ私は悪い女ですよ。 」


そう言って教室に戻っていった。

美紀は一つだけ良い忘れていた事があった。

飛鳥との約束で屯平の友達になる事を。

交遊関係が広がるのも悪くない…… 。

美紀は少し楽しそうだった。


その頃休みで暇していた屯平は、喫茶店でゆっくりしていた。

相変わらず一番奥の隅っこの席でゲームをしている。


「 オラオラ、俺の操作速度にゲームが付いてきてねぇな。

まだまだゲーム業界も進化しないな。 」


上手くいかないのをゲームのせいにして、一人ぶつぶつ言いながらゲームをしていた。


「 あの…… 御手洗いって何処かしら? 」


とても綺麗なお姉さんが屯平に聞いてきた。

屯平は指差しで場所を示した。


「 あ…… ありがとうございます。 」


引きつった表情をしながらトイレへ。

それを見ていた飛鳥はタメ息をつく。


「 相変わらずお前さんは…… 。

基本会話はせずに適当に流す。

お前の悪いとこだぞ? 」


イチイチ指摘されるのを嫌い、プイっとゲーム画面に目を向ける。


「 人間は絶対一人では生きていけないんだぞ?

アニメでも主人公はヒロイン結婚するだろ?

沢山見てるのに全然学ばないんだから。 」


「 独り身の奴だって居るし…… 。

結婚したいやつはすればいい。

俺は孤独に老衰するだけだ。 」


飛鳥はそんな屯平が心配だった。


「 屯平…… 奥さんって考えずに彼女…… 友達から作ってみないか? 」


屯平は無言で立ち上がる。


「 店を変える…… 。 」


また怒ってしまい出ていってしまった。


「 本当に…… 身だしなみ気にすればもっとモテるのに。

後はあの恐怖症が邪魔してるな。 」


屯平は一人ゲーセンにいた。

アーケードゲームはここにしかない。

たまにやるのが日課になっている。


( 相変わらずうるせぇな…… 。

折角の休みに小言ばっか言ってよ…… 。

姑かよ! って感じ。 )


ドラマなどの知識をまるで自分で経験したかのような知ったかぶり。

屯平の悪いとこの一つ。


アーケードゲームをしていたら、対戦相手が現れた。

対戦相手は向かい側の席で、2つのゲーム機を使い対戦する。

お互いにゲーム機を挟んで座ってるので、対戦相手は見えない。


( なんだ…… 対戦相手か。

ダルいな…… ストレス発散に揉んでやるか。 )


そう思いながら適当に対戦した。

高速でアナログスティックを慣れた手つきで動かしている。

本人はジェット機の操縦士のような気分でいる。


( へぇ…… 少しはやるな。

でもまだまだひよっこだ。 )


屯平は簡単に相手を倒してしまった。

お茶を飲み一息ついていた。

画面を見ると再戦希望が出ている。


( えっ…… ? まだ懲りてないのかよ。

まぁ勝ってる間は無料だし遊んでやるか。 )


またゲームを再開した。

格闘ゲームら屯平の得意分野。

華麗なる手さばきにより簡単に勝ってしまう。


( また勝ってしまった。 )


その後も何度も再戦して30回以上勝っていた。

相手は3000円は使っている。

かなりイライラしてムキになっているように見える。

その間屯平は無料で楽しんでいる。


「 ちょっと! あんたさっきから卑怯よ! 」


対戦相手が立ち上がり上からこっちに文句を付けてきた。

帽子を深く被り良く顔が見えない。


「 バカ言ってんなよ。

そんな嫌なら他のゲーム機行けよ。

弱い奴には発言件ないんだよ。 」


冷たい言葉で言い返した。

悲しいけどそれが現実だった。


「 何よ…… ずるい戦法ばっかして。

男の癖にパンダなんか使って。

恥ずかしいんだから。 」


負けた不満をぶつけて帰ろうとする。

うんざりしてしまったのだろう。


「 お前…… 俺より弱いけどセンスはあるよ。

根性もあるし…… 俺は嫌いじゃない。 」


帽子の人は一瞬立ち止まる。


「 はっ!? うるさい!!

オタクの癖して偉そうに。 」


捨て台詞を吐いて帽子を深く被り帰って行った。

屯平は全く動じずにそのままゲームをしていた。


夕方になり喫茶店に美紀来ていた。


「 わざわざありがとう。

今、屯平居なくてさ…… ごめんね。 」


「 いえいえ全然大丈夫です。

じゃあコーヒー頼んじゃおうかな。 」


飛鳥の前では少し清楚で可愛く振る舞う。


「 ちょっと、ちょっと!

あんたまた来たの?? 仕事の邪魔よ? 」


バイト中の愛理に文句を言われる。


「 お客さんなんだから文句ないでしょ? 」


美紀も強気に言い返す。

愛理も何も言い返せない。


チャリン、チャリン!

入店の鐘が鳴る。


「 いらっしゃ…… お帰り。 」


屯平が帰って来た。

何も返事をせずにいつもの席へ。


「 勘違いするなよ。

腹が減ったから寄っただけだからな。

食べたら直ぐに帰るから。 」


そう言い買った漫画を読み始める。

返事をしてから飛鳥はクスクス笑いながら厨房に入って行った。

直ぐに愛理が駆け寄って来て。


「 先輩、先輩…… 何で出禁にしないんですか?

あんなワガママな人ほっときましょうよ。 」


小声で言った。

飛鳥は慣れた手つきでパスタを茹でる。

フライパンに野菜を入れて素早く炒める。


「 そう言えば…… あいつ食べたい物言ってなくないですか? 」


その通りだった。

それでも飛鳥には分かっていた。


「 あいつは舌がお子ちゃまだから、ここのナポリタンが大好きなんだ。

大人でも美味しいけどね。 」


愛理は少し腹が立った。

そんなに理解して貰ってるだけで羨ましくて、それと同時に煩わしいのにイラついてしまっていた。


「 ごめんね…… あれでも俺の親友なんだ。

大目に見てくれると助かるな。 」


そう言って頭を撫でた。

愛理は直ぐに顔が赤くなる。

恥ずかしくなって客席の掃除しに行った。


( 腹減った…… 早く来ないかな。 )


ふとした瞬間に前を見る。

すると自分の前には美紀が勝手に座っていた。


「 えっ? …… 何で勝手に…… 。」


「 いきなりごめんなさい。

少しお話しませんか?? 」


美紀の友達作戦が始まっていた。

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