第4話 女は苦手だ


屯平は日頃から女性との接点はない。

仕事での会話あってもプライベートの会話は一切無かった。

相手からの感心もなかったが、この年までに傷つき歪んだ性格はそれすら気にならない領域到達していた。


「 お疲れ様です…… 。 」


屯平が朝挨拶しても基本は無視。

言わないと言わないで悪口を言われるから、仕方なく嫌でもしている。


「 二宮さんって本当ないよね…… 。 」


「 分かるぅーーっ、絶対今まで彼女居たこと何かないよね。 」


女性社員の中で嫌われものナンバー1の男。

会社から出たら一切関係のない他人になる。

悲しい事だ…… 。


( 関係ない…… 俺は無心に仕事をする。

仕事さえしてれば文句は言われない。

人付き合い程嫌いな事はない…… 。 )


昼休みは食堂に行き、適当に安いかけうどんを頼む。

食べながらスマホのゲームをする。

この時間が至福の時間。


「 先輩! またかけうどんですか? 」


後輩の柿沼麻理恵が話を掛けてきた。

この子だけは屯平にも平等に接してくれる。

だからと言って屯平は何とも思わない。

心が歪んでしまい、優しさや愛情とは無縁になり自分の心を守る為に、周りとは干渉せずにいる。

だから傷つくこともない。


「 まぁ…… 。 」


無愛想な返答にもニコニコしながらうなずく。


「 先輩って何で誰とも話さないんですか? 」


嫌な質問が来てしまう。

だから少しも近づきたくない。

少し仲良くなっても嫌われてしまう。

嫌われるくらいなら最初から仲良くならなくていい。

そう思っている。


「 関係ないだろ…… 。 」


全て食べずに下げに行く。


「 ごめんなさい…… そんなつもりなくて。

ただ…… 話せばみんなと仲良くなれるのに。

勿体ないなって …… 。 」


屯平は帰ろうとしていたけど立ち止まる。


( はぁ? …… コイツマジで言ってんのか!?

お前みたいに誰にでも好かれてる奴に何が。

コイツも他の女達と変わらないな。 )


屯平はまた直ぐに歩き出す。

麻理恵は申し訳無さそうにしていた。

悪気があった訳ではない。

純粋そう思って仕方がなかった。

その優しさが傷つけているとも知らずに…… 。


「 先輩!! 本当にごめんなさい! 」


全く振り返る事もなく仕事場に戻っていった。


「 一宮さんっ! また領収書の誤字がありましたよ。

これじゃ通らないので書き直して下さい!! 」


間違えてしまった領収書をデスク叩き付けられる。

周りにも響くくらいの強い力で返されてしまった。


「 すみません…… 。 」


名前を間違えていても指摘すら出来ない。

正直どうでも良かった。

赤の他人なのだから…… 。


仕事を終えてビルから出ると、OL達が外で喋っていた。

屯平に気づくなり舌打ちをした。


「 本当居るだけでうざいんだよね…… 。

どんだけ迷惑かけてるか分かってないのよ。 」


聞こえるような声で話している。

嫌みを周りに聞こえるように話していると、屯平は気にせず通りすぎようとする。


「 やぁ屯平! 俺ももう終わったんだ。

一緒帰ろうか? 」


飛鳥が迎えに来ていた。

ルックスの良い体型と顔にOL達は釘付けになる。


「 あっ…… あのぉ…… 。

一宮さんのお知り合いですか?

良ければ…… 今からお食事にでも…… 。 」


お近づきになりたくてOLの一人が話をかける。

飛鳥は直ぐに立ち止まり振り返る。


「 俺に言ってるのかな? 」


「 はい! お時間があれば! 」


OL達は誘いに乗ってくれそうな対応に、ウキウキと心を踊らせていた。


「 二宮だよ…… 。 」


「 えっ…… ? 」


飛鳥は笑顔で言った。


「 一宮じゃなくて二宮…… 。

名前間違えてる失礼な奴に興味ないな。

他を当たって貰えるかい? 」


OL達は凍りついていた。

笑顔で居ても明らかに怒っている。

肌でひしひしと感じていた。


「 すみません…… 。 」


OL達は謝ってももう振り返る事はなかった。


「 なぁ…… 良いのか?

食事に誘われてんだから行ってこいよ。 」


屯平が言うと飛鳥は。


「 バカ言うなよ、俺にだって好みはある。

そんな事より帰りに秋葉原行こうか?

かなりセールやってるらしいし! 」


( 俺は心の奥では怒っていた…… 。

年上への敬意もなく、名前すら覚えていない。

飛鳥は俺の代わりに怒ってくれた。

余計なお世話だったけど…… 嬉しかった。 )


屯平はイライラしていた気持ちが少し晴れた気持ちになっていた。

飛鳥には屯平に無いものを沢山持っていた。

それが羨ましかった。


一緒にファミレスでポテトを食べながらゲームの話をして花を咲かしていた。


「 飛鳥…… 今日はありがと…… 。 」


「 ん? 何か言ったか? 」


小さな声で言ったので飛鳥には聞こえていなかった。


「 なんでもねぇよ…… バクバク!

早く食わねぇと俺が食うぞ? 」


「 おい! 割り勘なんだからズルいぞ。 」


二人でポテトを食べている姿は、学生の頃の二人と重なって見えていた。

どんなに時が流れても変わらないものもある。

それが二人の友情なのだった 。


飛鳥は遊んだ後一人で歩いていた。


「 やっぱ屯平は最高だよ…… 。

俺にはいつだってあいつが太陽みたいに見える。 」


飛鳥がいじめられていて学校に行けないとき、屯平が新作のゲームを毎日やりに来ていた時。

ゲームをしながら屯平は言った。


「 飛鳥…… 明日遠足なんだってさ。

一緒に行こうぜ? 」


「 えっ…… 。 」


飛鳥はその時凄く嬉しかった。

恥ずかしくて顔を見ずに話した屯平の言葉が、親の言葉や先生の助言よりも嬉しかった。


「 うん…… 行くよ。 」


「 そうか…… 沢山お菓子持って来いよ?

バスの中で食べる分とかあるからな。 」


当時の記憶が蘇り、一人で嬉しそうに笑っていた。


「 本当…… 毎日が飽きないね。 」


屯平が嫉妬してるように、飛鳥も嫉妬するくらい輝いて見えていた。


家に着いた屯平はバルコニーから夜の空を見ていた。

また気持ちを入れ換えて仕事に行こうと決める。

それでこそ社会人…… 大人。


屯平が会社に着いていつものように挨拶をする。


「 おはようございます…… 。 」


当然何の返答もな…… 。


「 おはようございます…… 二宮さん。 」


昨日名前を間違えてた女性社員が挨拶を返してきた。


「 おはようございます。 」

「 おはようございます、二宮さん! 」


OL達から返答が続々返ってきた。

その光景にびっくりしてしまう。


「 昨日は…… 強く言い過ぎました。

すみません、後名前もう間違えないので。 」


そう言い恥ずかしそうに席に戻った。

昨日の飛鳥の一件でみんなは考えを改め直していた。


( 本当に…… すげぇな。

俺が何も出来なかったのに、一度会ったら皆こんなに変わるのかよ。 )


飛鳥と自分をまた比べては落胆していた。

別にここの環境が凄い良くなった訳ではない。

挨拶して貰える程度にはなっただけでも、屯平にとってはかなり重要であった。


「 なぁ? ちょっと挨拶されたくらいで嬉しいか?

本当これだからオタクは。 」


席に着いた屯平の肩を組んで来た男。


宮内与一みやうちよいち

高校からの付き合いで、同じ会社に入社して働いている。

イケメンではないが口が上手く、誰とでも仲良く出来て人気者。

その為モテている。


「 別に何とも思ってないけど。 」


「 まぁ勘違いすんなよ。

お前が女と話せる訳ないんだから。 」


嫌みを言って肩を叩いて行く。

与一は性格はかなり悪い。

女性と男性では付き合いを変えている。

上司の前では可愛い後輩に様変わりする。

最低な男だ…… 。


( あいつは俺が女性恐怖症なのを知ってる。

昔からかなり嫌いな奴だ…… 。 )


休憩時間になり外に出る。

すると急いで追いかけて来る人影が。


「 先輩…… はぁはぁ。

ちょっと待って…… ぜぇぜぇ。 」


息を切らしながら走って来たのは、後輩の麻理恵だった。


「 何かな? 」


「 あの…… この前の事謝りたくて。

まだ怒ってますか…… ? 」


心配して謝りに来たのだった。

屯平は一言だけ。


「 別に…… 何も気にしてない。 」


顔を見ずに外へ出ていった。

麻理恵は嬉しそうに頭を下げる。

屯平の足取りは少し軽かった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る