第3話 イラつくあいつ


バイトの愛理は嫌いなやつがいた。

屯平の事だ。

愛理はいつも屯平がやって来るとイライラしている。

パンケーキにココア。

子供のような組み合わせを頼み、何時間も居座る迷惑な常連。

今ではぶっきらぼうに振る舞い、まともに接客する気にもなれなかった。


「 本当にあいつ腹立つなぁ…… 。 」


「 まぁまぁ落ち着いて。

悪いやつじゃないんだからさ。 」


いつものように飛鳥がなだめる。

愛理はずっと気になる事があった。


「 思ったんですけど何で先輩は、あいつの友達なんですか?

他に友達だって居るし、あいつなんかと違ってカッコいいし話だって面白いし。 」


愛理は飛鳥の事が好きだったから、あのオタクと仲良くしている意味が分からなかった。


「 愛理ちゃん、そんな事言わないんだよ。

キミは笑ってる顔が可愛いんだからさ。 」


飛鳥の笑顔に愛理はドキッとして顔を反らす。

こんなカッコいい飛鳥の親友でいる屯平に嫉妬していた。


「 このゲームはかなりやり込めるな。 」


一人楽しくゲームをしている。

この時間が一番楽しいのだった。


ここの喫茶店のマスターのトムさん。

50代くらいで年は教えてくれない。

白髪でおしゃれな髭を生やしている。


「 愛理ちゃんは本当に屯平君に冷たいね。

優しくしてあげなさいよ。 」


マスターは凄く優しく、コーヒーが大好きである。

この静かな店も拘りが沢山ある。


「 マスターも先輩も優し過ぎます!

私はあんな常連大嫌いです。 」


本当に屯平が嫌いだった。


「 うおいっ!! さっきからうるせぇぞ!

お客様の悪口言うなんて最低な店だな?

ここの評価最低にしてやるからな。 」


屯平に丸聞こえだった。

相変わらずのクレーマーみたいな言い方。

そんな屯平も嫌いだった。


「 うるさい! お前なんてお客様でもなんでもないんだから。

早く出てってよ、迷惑客のくせに。 」


まだまだ優しく出来ない愛理。

二人は犬猿の仲なのだろうか?


「 まあまあ二人共。

屯平、俺もゲームやるわ。

二人でやる方が楽しいだろ? 」


飛鳥がエプロンを脱いでプライベートモードに。

こっちも相変わらず緩く仕事をしている。

優しいマスターだから許してくれているのだ。


「 飛鳥君、今から伝説のドラゴン退治だ。

武器と防具を揃えて行くぞ? 」


屯平と飛鳥は二人でゲームを始めた。

二人は子供のようにゲームをしていた。

笑ったり怒ったりと純粋な二人だった。


「 本当に腹立つ…… 。 」


愛理はムカついていた。

マスターは愛理の肩にそっと手を置く。


「 屯平君をそんなに怒らないでくれ。

私の大好きなお客さんなんだから。 」


愛理がイラつく理由の一つはこれだ。

自分以外は屯平の事が好きだと言うこと。

何の魅力もなく、愚痴とヤジばかり飛ばすこんな奴の何が良いのか分からなかった。


「 私時間なので上がります。

お疲れさまでした。 」


愛理がムカムカして外に出る。

こんなにイラついている自分も嫌いだった。


「 まだ3月だから寒いね。

近くのおでん屋行かないかい?

俺が奢るからさ。 」


飛鳥が愛理が上がるのを見て付いてきた。

愛理はまたドキッとして胸が熱くなる。


「 は、はい! 喜んで。 」


二人は仲良くおでん屋に向かった。

これが実は初めての二人での食事だった。

愛理はドキドキして胸が高鳴っていた。


その頃喫茶店では屯平は一人ゲームをしていた。


「 いつも悪いね…… 。

愛理ちゃんも全然悪い子じゃないんだよ。

だから怒らないであげてくれよ。 」


マスターはそう言いコーヒーを出してくれた。

屯平は気にせずゲームをしている。


「 べっつに…… 全然気にしてないし。

あんな生意気なの早くクビにした方が良いっすよ?

それがこの店の為だ。 」


本当に口が悪く、女性には特に冷たい。

マスターはゆっくりと席を外す。


「 チッ…… あんな女とメシに行きやがって。

まっ別に良いけどね。 」


また一人黙々とゲームをしていた。


二人はおでん屋で楽しく夜ご飯。


「 ここのおでんは美味しいからどんどん食べてね。 」


「 はい、ありがとうございます。 」


緊張して全然お腹が減ってない。

でも遠慮するのもあれなので、好きな具材を何個か頼んだ。


「 良いねぇ、俺も同じの貰おうかな。 」


爽やかな表情に愛理はずっと見ていても飽きなかった。

大人の立ち振舞いに何処かの誰かさんみたいに怒る事もない。

理想的な男性だった。


「 先輩…… 私の事どうして誘ったんですか? 」


「 そうだなぁ…… たまには一緒に食べたいと思ってさ。

ダメだったかな? 」


そのくっきり二重に大きな目。

見つめられるだけで鼓動が早くなる。


「 ありがとうございます。 」


二人は来たおでんを美味しく食べていた。

何かを思い出したようにスマホを取り出した。


「 そうそう、これ見てよ? 」


それは小学生の頃の飛鳥の画像だった。

その可愛さに食いぎみに画面を見てしまう。


「 可愛いぃーーっ。

これ小学生の頃の先輩ですよね? 」


「 うんうんそうだよ。 」


可愛いなぁと思いながら見ていると、その隣に居る見覚えのある姿が。


「 げげげっ! これってもしかして。 」


「 どれどれ…… ? 」


愛理の指差す人を見てみると、それは小学生の頃の屯平だった。


「 屯平だね、今と全然変わらないな。 」


その頃から仲良く隣に立っていた。


「 先輩…… コイツの一体何が良いんですか?

何度も言ってますけど、絶対二人は正反対の人間で不釣り合いだと思うんですよ。 」


「 そうかなぁ…… ?

友達っての全然違うからこそ楽しいんだよ。

屯平は俺の中ではずっとヒーローだからな。 」


そう言いながら照れ臭そうにお酒を飲む。

愛理には全く理解出来ない。


「 俺は小さな頃は体が小さくてさ、良く学校でいじめられたんだよね…… 。 」


その話の始まり方…… 。

一瞬で理解してしまうくらい在り来たりの話。

愛理は分かったかのように当てに行く。


「 先輩の事をいじめっこから助けたのが、あいつだったんですか?? 」


「 あははは、ハズレだよ。

屯平はいつもと何も変わらなかった。 」


愛理は呆れて軽く体制を崩してしまう。


「 俺は学校に行きたくなくて休み続けてたんだ。」


いじめられるのが嫌で学校に行けずにいた。

そんなある日の事。

家のチャイムが鳴った。


「 はい…… 。 」


「 よっ! 邪魔するぞ。 」


屯平がやって来た。

学校を休んでいたので、飛鳥は気まずそうにしていた。


「 もしかして慰めに来たんですか? 」


「 いや…… 新作のゲームをやりに来たんだ。 」


愛理はそれを聞いて更に嫌いになっていく。

飛鳥は思い出しながら笑っていた。


「 あいつはゲームをやりに毎日来たんだ。

土日も雨の日も毎日、毎日ね。

笑っちゃうだろ?? 」


笑っている飛鳥には悪く思ってしまうが、全然笑えなかった。

むしろ腹が立つ話に感じていた。


「 先輩! それってゲームしたかったから毎日通ってたって、利用してたんじゃないですか!?

凄い最低だと思うんですけど…… 。 」


飛鳥は笑いながら首を振る。


「 そう思うだろ??

あいつ新作のゲーム買ってたんだよ。 」


「 えっ…… それって。 」


愛理は屯平の行動が分からなくなる。


「 あいつはゲームがやりたかったんじゃなくて、俺と一緒にやりたかったから来てたんだよ。

口下手であいつは何も言わなかったけどね。

後からそれが分かって俺は凄い嬉しかった。 」


嬉しそうに昔の話をする飛鳥が、本当に輝いて見えていた。

愛理はそれでも屯平を好きになれない…… 。

だけど悪い奴ではないのかも?

と思うのだった。

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