ひとりもん同士
新しい友達ができて、ホンマ嬉しいわ
「嘘ぉ、ポケットに穴空いてるやん」
事務所に帰ってきて、胸ポケットからマイクロSDカードを取り出そうとして、穴が開いとるんに気が付いた。
「東雲さん、新しいシャツ買うてください」
「ほれくらい縫うたらええやないですか、ほのシャツまだ新しいでしょ」
東雲さんはキーボードを叩く手を止めて、僕の方を見てほう言うた。
「冷たぁ!」
まあ確かに、このシャツはまだ新しいんよな……。こないだ買うてもうたばっかりな気がするわ。
ちょっと縫うたらええだけやけどなぁ、ほれがめんどくさいんやん。
「和がおったら縫うてくれるんやけどなぁ、代わりにラーメンせびられるけど」
和はガサツに見えて手先は器用なけんなぁ。ほなけど料理はサッパリやけん、不思議やわ。
僕がぼやくと、伝票か何かを書き終えたらしいエビちゃんが椅子から立ち上がった。
「僕が縫いますよ、向こうでシャツ脱いでください」
エビちゃんは笑顔でほう言うと、僕の前を歩いていった。
僕はちらりと東雲さんの顔を見た。
「ええ子やねぇ」
東雲さんはほう言うて、仕事に戻った。
空の会議室で、僕はシャツを脱いでエビちゃんに渡した。
エビちゃんはソーイングセットを取り出して、ポケットの穴を縫い始めた。
「へー、器用なんやなぁ」
エビちゃんは慣れた手つきで針を動かしとった。
真面目で頭もええし、手先も器用なんやなぁ。感心するわ。
「伊勢原さん」
「ん?」
エビちゃんが恥ずかしそうな顔で僕を見ようけん、ちょっと不思議に思った。
「結構、ええ体しとんですね」
エビちゃんは上目遣いに僕を見てから、手元に視線を戻して糸を切った。
「ほうか?」
僕はなんか恥ずかしなって、ちょっと照れ笑いしながらシャツを受け取った。
毎日力仕事しようし、家でも筋トレはしようし、まぁ人よりはええ体しとう自信はあるんやけど、改めてほう言われると照れてまうな。
「助かったわ、ありがとう。僕、料理は得意なんやけど裁縫は苦手なんよな」
縫うてもうたポケットを確かめてから、シャツを着た。うん、ばっちりや。さすがやなぁ。
「伊勢原さんて、独身なんですか?」
エビちゃんがふとほんなことを訊ねてきた。
「ほうよ? 僕、結婚しとうように見えんやろ?」
僕は笑顔でほう答えた。つられたようにエビちゃんも白い歯を見せて笑うた。
「全然見えません、伊勢原さん、めっちゃ若あに見えるけん」
「うまいなぁ~?」
僕はエビちゃんの二の腕を軽く叩いた。エビちゃんは目を細くして楽しそうに笑うた。
エビちゃんは僕が喜ぶことばっかり言うてくれるよなぁ。ほういうとこが好き。
「縫うてくれる彼女はおらんのですか?」
うん、こういうまっすぐなところも好き。
「直球やな〜。今はおらんな、エビちゃんは?」
彼女は募集中やけど、この歳やともう結構キツイ。
「僕もおりません」
へー、エビちゃんくらいかいらしかったらいくらでもモテそうやけどなぁ。
ほなけど恋人とかおらんうちが一番遊べて楽しいんよな。
今やって、僕とエビちゃんと和と東雲さん、みんなで遊べて僕は楽しいわ。
まぁほんな子供みたいなこと言うとうけん、この歳になっても独り身なんかもしれんけど。
「ほな気楽なひとりもん同士、仲良うしよな」
僕が笑いかけると、エビちゃんは嬉しそうにうなずいた。
新しい友達ができて、ホンマ嬉しいわ。
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