次プロレスごっこするときは僕も混ぜてくださいよぉ

 夕方、集配を終えてもんてきたところで和に会うた。

 僕ら、ホンマにようタイミングが合うんよな。

「ウィーッス。伊勢原さん、今度うどん食いに行きましょうよ~」

「おまえは食いもんのことしか考えとらんのか」

 僕が苦笑いしながら言うと、和は舌打ちした。

「最近太ったんと違うか?」

「はぁ? 太ってませんよ! 何を言うとんスか?」

 和は僕をにらみつけて反論した。

 僕がからかうとすぐに本気にして怒るけんなぁ、ホンマかいらしわ。

「ホンマか~? ほなちょっと確認したるわな~」

 ほう言うて僕が脇腹を触ると、和は体をよじらせてウヒャハハと笑うた。

「うん、ちょうどええ」

「なにがや!」

 和は笑い疲れてはぁはぁ言いながら僕の腹にグーパンをしてきた。

 ほんなことをしながら事務所に入っていくと、やっぱり今日もエビちゃんが立ち上がって「おかえりなさい」と僕達を出迎えてくれた。

「ただいまエビちゃん」

 僕は挙げた手をエビちゃんの頭に下ろして、ワシワシとなでた。

 うわぁ、エビちゃんの髪ってふわふわやなぁ。気持ちええ。

「あ! 東雲さん、聞いてくださいよ!」

 一方和は、東雲さんを見つけて何か思い出したように声を上げた。

「嫌や」

 東雲さんはパソコンのモニターから目を逸らさずに返した。

 東雲さんも忙しい人やけんなぁ、今は和にかまっとう暇がないんやって。

 ほんでも和はあきらめんかった。

「え! ほんなん言わんと聞いてくださいって!」

「嫌ですぅー」

 東雲さんの指は、せわしなくキーボードを叩いとった。

 入出庫管理とかいろいろあるけんなぁ。僕はよう知らんけど。

「昨日ね、伊勢原さんがね!」

 和は東雲さんを無視して、大声で一人話し始めた。しゃあないやっちゃ……。

「俺にヘッドロックかけたんスよ! おっさんのくせに女の子にヘッドロックかけよんスよ?!」

 何かと思うたらほれか。まったく。

「都合のええときだけ女の子になるなよ」

 僕は呆れて笑てしもうた。

 和は女やけど、僕は和を女として見たことはなかった。

 和は僕の娘で、妹で、友達やけん。女としてどうにかしたろなんて考えたことは一度もないし、考えれんわ。

 和も普段から女の子扱いなんて求めとらんしな。まあ、こうしてときどき都合よく女の子になろうとすることはあるけどな。

「ホンマか~」

 東雲さんはようやくモニターから和に視線を移した。

「ホンマッスよ! なあエビ? おまえ見とったな?」

 突然和に話を振られたエビちゃんは、東雲さんの隣で「見てました」と答えた。

 ホンマに見よったんやけん、ほれ以上答えようがないわな。

「伊勢原さん、僕の大事な神田橋さんにまたヘッドロックをかけたんですか」

 東雲さんは黒目がちな目で僕を見つめながら、低音のやたらええ声でほう言うた。

 ……これ絶対怒っとう目やん。

 和とエビちゃんにはわからんかもしれんけど、これ東雲さんが興奮しとうときの目やけん。僕は付き合い長いけんわかるけん。

「和! 汚いぞ!!」

 僕は冷や汗をかきながら、和を怒鳴りつけた。

「汚いことないでしょ、事実を言うたまでッスよ」

 和は涼しげな顔でほう言うた。

 エビちゃんは僕達のやり取りをキョトンとした顔で見とった。

「伊勢原さん、次プロレスごっこするときは僕も混ぜてくださいよぉ」

 瞳孔の開いた黒い目で、ニヤニヤしながら東雲さんが言うた。

 いやいやいや、絶対無理やけん。

 今も肉食獣みたいな目で僕を見ようやん。絶対食べられてまうやん。

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