モテる男はつらいなぁ

 夕方、僕が事務所に帰るとやっぱりエビちゃんは立ち上がって「おかえりなさい」と出迎えてくれる。

 はじめの頃はもうええのにと思うこともあったけど、なんか今ではほれが当たり前になって、エビちゃんがおらんときは寂しいとすら思うようになった。

「ただいま。ええ子で待っとったか?」

 僕が言うと、エビちゃんは「はい!」と返事をした。かわいいやっちゃ。

「すっかり親子やな」

 東雲さんが面白そうにほう言うと、エビちゃんはなぜか少しむっとした顔をした。

「伊勢原さんは全然若いですから。僕と20しか違わんのですよ」

 エビちゃんの言葉に東雲さんは声を出して笑うた。ごめんエビちゃん、僕も笑うてしもうた。

 20も離れとったら親子なんよ。20しか、とはあんまり言わんな。

「20も、やん。正確には23でしょ?」

 東雲さんが僕の方を見て言うたけん、僕はうなずいた。

「エビちゃんはまだ24歳やもんなぁ、僕は今年で47歳、もうかき揚げうどんがキツイもん」

「ほんなん言うて、エビちゃんが来る前に神田橋さん連れて3人で勝浦にかき揚げうどん食いに行ったやないですか」

 東雲さんがほう言うて、僕達はワハハと笑い合った。

 あの大きいかき揚げ、好きなんよな。

「エビちゃんも今度お父さんが連れてったぁけんね。勝浦のうどんうまいけん」

 僕はポンポンと頭を叩いたけど、エビちゃんはむすっとしたままやった。

「どしたんな~エビちゃん、ほんなにむすっとしとったら蒸しエビになってまうよ?」

 僕が言うと、エビちゃんは思わず吹き出してしもたみたいやった。

 何をほんなに怒っとるんか知らんけど、やっぱりエビちゃんは笑顔が一番かいらしわ。

「ほうや、エビちゃんにお土産あるよ。こないだポケット直してくれたお礼」

 僕は書類入れに突っ込んどったお菓子を引っ張り出して、エビちゃんの手に握らせた。

「おっきなチョコ玉もちもちチョコや! ええの?」

 さっきまで怒っとったエビちゃんが嬉しそうな声を出したけん、僕は思わず笑うてしもうた。

「うん、弁当のついでに買うただけやけん」

「ありがとうございます!」

 エビちゃん、ほんなチョコ一つで子供みたいにはしゃがんだって。

 でもこんなに喜んでくれると嬉しいな。

「伊勢原さん、僕には?」

「東雲さんは『縫うたらええやないですか』って言うだけやったでしょ」

 僕は東雲さんの声真似をしながら言うたった。

「結局伊勢原さんも若い子がええんですね、僕のことは遊びやったんですか?」

 東雲さんが低音のよう響く声で言うと、エビちゃんが声を上げて笑うた。

「えぇ、東雲さんも伊勢原さんが好きなんですかぁ?」

 僕と東雲さんは、エビちゃんの言葉の違和感に気が付いた。

「「も?」」

 僕と東雲さんが同時に言うと、エビちゃんは恥ずかしそうに顔を隠してしもた。

「つまり僕達、ライバル同士ってことぉ?!」

「あっ、はっ、はい……!」

 まぁた東雲さんは、しょうもないことを言う。ほんでエビちゃんまで「はい」言うてもうてるし。

 ホンマ、モテる男はつらいなぁ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る