さかなねこッス
道の駅の土産物屋で、和が熱心にハンカチを見よった。
和はどこへ行ってもハンカチを買うて帰るんよな、ほれもなんか変わった絵のついたやつ。
和が言うにはゆるキャラらしいけど、僕にはようわからん。
「ほれは何の絵なん?」
僕が訊ねると、和はハンカチを手渡してきた。
「さかなねこッス」
かわいいっしょ、と目を輝かせとう和を見て、ほれからもう一度ハンカチを見て、僕はなんとも言えん気持ちになった。
「どういうこと? 魚なん? 猫なん?」
ハンカチには猫の頭が付いた魚が刺繍されとった。いや、ホンマに何これ?
最近のゆるキャラってこういう感じなん? 僕の中ではスダチの頭にマント着けとう子で止まっとうけど。
「さかなねこはさかなねこッスよ」
「いやどういうことなん?」
和はさも当然のことに言うけど、僕には一ミリもわからんかった。
これは猫の頭が付いとう魚なん? ほれとも魚の体が付いとう猫なん? どっちにしてもなんなんこれ?
なんちゅうか、めっちゃシュールな生き物なんやけど。
「年寄りには理解できんのかな」
不思議そうに首をひねりながら和が言うた。悪気はないようで、純粋に疑問に思っとうようやった。
いやいや、純粋に疑問に思っとうからって、年寄り扱いはないわ。僕まだ40代やけんね?
「東雲さんちょっとこっち」
僕は東雲さんを手招きして、ハンカチを見せた。
「これ何と思います?」
僕が訊ねると、東雲さんは困ったようにうなった。これが正しい反応やって。
「猫……ですかね?」
「さかなねこっていうらしいんですけど」
僕が言うと、東雲さんはその辺にあったさかなねこのぬいぐるみを手に取った。
ほら、ほらほら。これはわかってへんよ。めっちゃ困った顔しとうやん。
「魚なんですか、猫なんですか」
アカン、笑いがこらえきれんわ。東雲さんも僕と同じこと言うとるやん。
「和、なんとかゆうたれよ」
「さかなねこはさかなねこッスよ」
僕に促されて、和は東雲さんに僕に言うたんと同じことを言うた。
「どういうこと?」
さっきの僕と和のやり取りをなぞるように、東雲さんがほう返した。
「それが理解できんかったらね、和がね」
「伊勢原さん!! 汚いッスよ!!!」
和は自分が僕を年寄り扱いしたことを思い出したらしく、大慌てで声を上げた。
僕らのやり取りを見よったエビちゃんが、楽しそうに笑とった。
「おまえ!他人事やと思てからに!」
和が涙目で訴えよったけど、さすがのエビちゃんもここに出せる助け船は持ち合わせとらんわなぁ。
あったとしても出さんでええよ、僕を年寄り扱いした和が悪いんやけん。
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