ほな今度2トンの横乗せたぁわ

「あれぇ? これなんかおかしない?」

 クラウンクロスオーバーのハンドルを握る東雲さんが、首をかしげながら言うた。

 ああ、これまたいつものあれやな。黙っとこ。

「何がですか?」

 後部座席で僕と並んで座っとったエビちゃんが不思議そうに訊ねた。

「いや、なんでプロが二人もおんのに僕が運転手なん?」

 僕と同じくプロのトラックドライバーである和は、助手席で口をつぐんどった。

「エビちゃん、これいつものことやけん、気にせんでええよ」

 僕は小声でエビちゃんにほう言うた。

「まぁええけどぉ?」

 東雲さんがやたらとええ声を腹から出すもんやけん、エビちゃんはクスクスと笑とった。

「俺のロードスターはツーシーターッスから」

 和は一応、申し訳なさそうにほう言うた。確かになぁ、和の赤いロードスターはカッコええんやけど人が積めんけん。

「ほな僕と二人でデートするときは神田橋さんのロードスター出してもらうよぉ?」

「はい!」

 和は姿勢を正して上ずった声で返事をした。

「和のやつ、めっちゃ緊張しとう」

 僕が噴き出すと、エビちゃんもつられて噴き出した。和はわかりやすいんよ。

「なっ、なにがおかしいんや!」

 和は怒りをあらわにしたけど、余計におかしいだけやった。ホンマにかわいいやっちゃ。

「僕が車を出してもええんやけど、やっぱり東雲さんの運転とクラウンの乗り心地の良さには敵わんけんな~」

 流れる景色を見ながら、なんとなく僕はほう言うた。

 まあ僕の運転やってなかなかのもんやと思うけど、東雲さんはホンマに運転が丁寧なけん。

 ほれに東雲さんも僕と和と一緒で、運転が好なけん、いつもつい甘えて車を出してもうとる。

「僕は伊勢原さんの横にも乗ってみたいです」

 僕を見ながら、エビちゃんがほう言うた。

「ホンマ? ほな今度2トンの横乗せたぁわ」

 僕がニヤニヤしながらほう言うと、エビちゃんは目をキラキラさせて「ホンマに乗せてくれるんですか?」と言うた。

「うそうそ!」

 僕は慌ててほう言わなアカンかった。まさか本気に取られるとは思わんかったよ。

 僕がいつも集配に使とう2トントラックの横にエビちゃんを乗せていくなんて、できんことはないかもしれんけど、支店長の許可がいるし、エビちゃんも忙しいしなぁ。

 ほれに、僕らドライバーって運転だけでないけん。当たり前やけど荷物の積み下ろしもせなアカンし、荷物を破損したら自腹でお買い上げやし、中にはちょっと面倒なお客さんもおるし、結構大変なんよ。

 ほなけどエビちゃんが本気やっていうんは、顔見たらわかるけん。エビちゃんは嘘のつけん顔をしとうけん。

 エビちゃんは少しがっかりした様子やったけど、僕が現場の話を始めたら興味深そうに聞っきょった。

 現場のことを知りたがる事務員もあんまりおらんかったけん、僕はつい饒舌になっとったと思う。

 僕はエビちゃんにいろいろ話して聞かせるんが好きやった。エビちゃんはいつも、僕の目を見て真剣に話を聞いてくれた。

 閑散期のあんまり荷物がないときやったら、エビちゃんを隣に乗せてルート回るんもええかなぁと僕は思うけどなぁ。

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