第32話
「疲れたの。すっごい疲れたの!」
「お疲れ様です、ヴィオレ嬢」
日が暮れた森から周囲に気を配りながら歩くということはなかなか心身共に負担が大きかった。
「毛皮と牙はいい値段で売れましたし、今日は豪勢に行きましょうか」
「やったの!おっきいお肉食べるの!」
基本的にヴィオレ嬢におんぶにだっこですからね。彼女を労うとしましょう。
「この牛のステーキにするの!」
きちんと管理された食用牛はそこらの肉より値が張るものだが、今日くらいはいいでしょう。
「私はソーセージと野菜スープ、あと不可視芋をお願いします」
私は言うも通りの注文をする
「すっごい柔らかくておいしいの!」
大きなステーキを美味しそうにほおばるヴィオレ嬢。いい食べっぷりですね。彼女が健やかに育つことほどうれしいことはありません。
美味しそうに食事するヴィオレ嬢を眺めつつ、周囲の言葉に耳を傾ける。隣の席では冒険者らしき男たちが大声で騒ぎながら安酒を呷っている。
「今日は散々だ!変な奴に脅されるわ、狩ったイノシシはどっか行っちまうわ。」
「間違いねえ!あれは新手の山賊だ!声で俺らの気を引いてるうちに俺らの獲物を奪ってったんだ!」
「なんて奴らだ!」
まさかあの白蛇と白影が手を組んだのでしょうか。ありえないことではないですが…
「すみません先輩方、今の話詳しく聞かせていただけませんか?」
高い酒瓶を片手に彼等に話を聞いたところによるといつものように森の中腹に入り、イノシシを狩っていたところ、どこからか「森を出ていけ」「森を汚すな」と声が聞こえたようですね。その声に気を取られ辺りを見渡しているうちに狩った猪がいなくなっていたとのこと。イノシシがなくなってからもしばらく森の主を名乗るものの声は続き、彼らが怒って文句を言うと声はどこかに行ってしまったようです。
一瞬で肉の塊を持っていき、一切気配を気取らせない手際は白影で間違いないでしょう。そして、森の主を名乗り姿を現さない声もやはりあの白蛇でしょう。
明日の目標は、あの白蛇にしましょうか。
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