第25話
「お肉美味しかったの」
森の恵み食堂を出るなり、ヴィオレ嬢はそう言った
「ええ、シチューも絶品でした。しかし、明日からは少し頑張らなければなりませんね。もうお金がありません」
「当然なの!いっぱい依頼受けるの」
ヴィオレ嬢の意欲が高かったのは直接食事に関わるとわかっていたからのようだ
森の恵み亭に戻るなり女将さんが声をかけてきた
「おかえりなさい、あんたたち。どうだった、うちの旦那の料理は?」
「すごく美味しかったの!」
「ええ、本当に。シチューを頼んだのですが絶品の一言でした」
私たちの返事を聞いて女将さんは気分が良さそうだった
「そりゃよかった。水浴びは出来ないが濡れタオルの貸出はやってるよ、どうだい?」
「少々懐が寂しいので、明日お願いしようと思います。それとひとつお聞きしたいのですが、この街で有名な怪談などはありませんか?」
女将さんは少し悩んで
「怪談って程じゃないけれど、子供が悪さしないように言い聞かせてた話ならあるよ」
「それで構いません。教えて頂けませんか?」
「悪いことをすると白影に襲われるよっていうのが常套句さ。この龍脈の森には伝承があってね。狩人が狙ってたイノシシを白い影がさらっていったとか、無惨な姿の冒険者の死体の近くに真っ白な毛が落ちてたとか。誰も確かに姿を見たことないけど、ずっと昔から真っ白なナニカがいるって話さ。それを白影って呼んでるって訳さ」
「なるほど、白影ですか。貴重なお話をありがとうございました。私たちも森に行くつもりですので気にかけておきます。それではおやすみなさい」
「おやすみなの」
「はい、おやすみなさい」
女将さんに挨拶をして、部屋に向かい、眠りについた。
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