第23話

「あれが領主邸なの。おっきいの」


ヴィオレ嬢が指さす方向には一般の建物とは比べ物にならない程の大きさの豪邸が立っていた。西館、東館に分かれていて3階建ての壁に囲まれた建物だ。


「領主というものは民に威厳を示さなければなりませんからね。見た目だけでなく襲撃に備えて頑丈な造りにもなっているのでしょう。」


こちらを睨む門番をスルーして、宝石店へと向かう


「こんにちは」


そう言って宝石店に入ると店主ひとりがいた。きっちりとした服装に油で整えられた髪、品の良い革靴を履いていた。彼は私たちを見ると怪訝そうな顔をした。私たちが旅のままの格好であり、金を持っていそうには見えないからだろう


「いらっしゃい、どのようなご要件で?」


店主は無愛想に言った


「冒険者ギルドの依頼で配達に参りました」


店主は少し警戒を解いて


「ああ、配達ね。ご苦労さま。そろそろ返事が来る頃かと思っていたんだ」


「商談のお話ですか?景気が良さそうな話です」


ヴィオレ嬢はまた店内に飾られている宝石を眺めているが決して触ろうとはしない


「内容は見ないでくれよ。しかし、景気がいいのは確かだな。うちは代々領主様に贔屓にしてもらっててな。領主様のご機嫌を損ねなきゃ一生安泰ってものさ。しかし当代ご領主様、アルフレート様っていうんだがな、なかなかのコレクター気質でな。宝石や貴金属だけでは満足せず、獣の剥製なんかを集めているらしいんだよ」


「ほう?貴族様というのは分かりませんからねえ。しかし、それで店主の売上が下がるわけでもないのでしょう?ならばよろしいのでは?」


店主は少し声を潜めて言った


「なんでも魔獣の剥製が欲しいって言い出したらしい。ただの獣の剥製でもおっかないって言うのに、魔王に縁ある獣の死骸なんて正気とは思えん」


「魔獣を!それは恐ろしい。ただの獣より数段強いのですから綺麗な状態で倒すというのはなかなか難しそうですね」


そう話しているとカランカランと、扉が開く音が聞こえ客が入ってきた


「いらっしゃいませ。本日はどのような物をお探しですか?」


彼はぱっと切り替えて接客に移った。これ以上は邪魔になるだろうと思い、軽く挨拶をして私たちは外に出た。

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