第20話

「よゆーだったの」


リンゴを齧りながらヴィオレはそう言った


「まさかあんなに動けるなんてねえ。なにかの印を持ってるのね」


驚いた様子で老婆は言ったが、こちらを詮索する様子はない


当然ながらヴィオレ嬢は試験に受かった。身体能力において既に成人を超えている彼女が失敗する道理が無かった


「それじゃあ、冒険者の仕事について説明するわね。冒険者たちはギルドからできそうな依頼を自分で選んで引き受けてもらうわ。新人のうちは多少面倒見てもらえるけれど少しすれば完全に自己責任だから、きちんと自身の実力と依頼の難易度を見極めなさいね。」


「分かったの」


今まで自力で生きてきたヴィオレ嬢にとっては今更言われるまでもないことだろう


喉が乾いたのだろう、老婆は少し水を飲み話を続ける


「冒険者にはランクがあるわ。上かA、B、C、D、E、Fとなっているわ。A、Bランクからは人事評価や新しく試験を受けることになるけど、ほぼ全ての国で通じる実力者であるという証明になるわ。それより下は純粋にどのような魔物を倒したことがあるか、どれほど依頼をこなしてきたかで変わるわ。C、Dランクは平凡、長く続けていれば誰でも成れるけれどピンキリね。Eランクは初級者。Fランクは登録したてのひよっこね」


私も登録した時に聞いた話だ。Cランクであればそこそこの評判で収入も安定してくる1人前と言える。ヴィオレ嬢なら運良く魔獣なんかに出逢って実績を積めればすぐにCランクになれるだろう


「ん。だいたい分かったの。ヴィオレはFランクなの」


「ええ、そうよ。賢いわね、ヴィオレちゃんは」


老婆は幼い子供に弱いようだ


「はい、これ。冒険者カードね。無くしちゃダメよ?」


そう言って老婆はヴィオレ嬢にカードを手渡す。それは硬いが柔軟性があり、よく分からない素材でできていて、ヴィオレ嬢の名前とランクが書かれていた。これが冒険者ギルドが世界で通用している理由だ。このカードを対となる装置を使うと情報をアップデートできるのだとか。冒険者ギルドの創設者である異世界人が自身の《印》を実体化させたものだと言われているが、それそのものも、実体化の原理すらも未だ分からずじまいである。それ故に複製や偽造が不可能であるということから身分の証明になるので多くの国から認められることとなったのです。

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