第16話
次の日になり、道中はヴィオレ嬢の顔を隠しつつ役所へと向かう。道中はやけに巡回している衛兵が多く、朝食を買うついでに店主に話を聞く。
「どうしてこんなに衛兵の皆さんが?」
「なんでも、スラム街で騒動が起きてヤクザどもが皆殺しにされていたらしいぜ。化け物にグチャグチャにされた死体や体が爆発したかのような肉片が散乱してて、凶悪な魔族が今も街にいるかもしれないってよ」
なるほど、私の怪談とヴィオレ嬢の拳でいいように状態が分からないようですね
「おお、それは恐ろしいですね。私たちは今日には街を出るつもりなので、いくらか包んでください。それでは、平和を祈っております」
「おうよ。外はあぶねえんだから気をつけろよ」
いやはや、気のいい方でしたね
「思ってもないことを言うの」
「なんの事ですか?平和であることは良いではありませんか。その分恐怖の深度が深まるのですから」
それから何事もなく役所へ着き、役員の女性のいる受付へ向かう
「養子縁組を結びたいのですが…」
「はい。養子縁組の手続きですね。この紙に御二方の氏名をお書きください」
そう言って女性は紙を差し出してくる
「申し訳ございません。この子はスラム街で見つけましてね、哀れに思い引き取ることにしたのです。なので彼女には姓がないのです。彼女が言うには両親はもう……」
そう言って私は目を伏せる
その様子を見た役員の女性は同情したようで
「そうだったのですね。では、そこは空欄で構いません」
そして私は自身のフルネームとヴィオレとだけ書き提出する。
「はい、承りまし…た?え、これって、」
「しーですよ」
そう言って口元に人差し指を運ぶ
「は、はい。分かりました。では手続きは完了です。お疲れ様でした」
勝手に養子なんか取ったと知ったら父上たちはどれだけお怒りになるのでしょうね
「さて、行きましょうか。ヴィオレ」
「分かったの、お父様」
ヴィオレ嬢は何も言わずとも自然な振る舞いをしてくれる。スラムで育ったはずの彼女は、ひどく賢明だ。いずれその理由を知る時が来るだろうか。
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