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「寒いところをわざわざすみませんね」

 先ほどの電話での事務的な対応とは違い、その警察官はこちらが申し訳なくなるぐらい平身低頭だった。

「それで祖母は大丈夫なんですか?」

「ええ、最初は取り乱していましたが、今はすっかり落ち着いていますよ」

「逮捕とかされちゃう感じですか」

「いえ、初犯ですし金額もそれほど高くはないので、微罪処分にしました。簡単に言えば、被害金額を払えば帰宅できるってことです」

「じゃあもう帰れるんですね」

「ただ財布にお金がほとんど無かったので、万引きした商品料金を代わりに払ってもらうことになるのですが……」


 そう言うと警察官は、ポケットの中からメモを取り出した。リンゴ、どら焼き、ひき肉、人参、ツナ缶、切り昆布、突きこんにゃく、たらこ……合計で3347円だった。

「これだけのお金が払えなかったんですか」

「ええ、だいぶお金に困っていたみたいですよ」

 いや、私自身も薄々感づいてはいたのだ。祖母が私に財布を預けるのは、年金の支給日である偶数月の15日以降であること。その時でも財布の中身は決して多くなかったこと。プライドの高いはずの祖母が、私のお金で買ってきた数々の商品を黙って受け取っていたこと。

 夏休みの宿題をギリギリまでやらない子供のように、気づかないふりをして問題から逃げ続けていただけ。でも、二十歳の小娘である私に何ができたのだろうかとも正直思う。せいぜい、マロンの散歩をして、祖母と一緒に夕ご飯をたらふく食べるぐらい。その結果が今。きっとそれだけのことだ。

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