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祖母が飼っているマロンとの出会いは七年前。当時、中学二年生だった私が久しぶりに祖母の家に遊びに来た時、いつの間にか我が物顔で存在していた。
詳しい経緯は分からないけれど、知人から譲ってもらったらしい。少なく見積もっても七歳だから、人間でいえば中年のおじさんだ。でも、豆しばのような見た目・サイズ感のおかげで、散歩をすればみんな「可愛いワンちゃんだね」と褒めてくれる。
散歩は週二回で、私の担当だ。遠くのスーパーにもバスを乗り継いで行くなど元気な祖母だが、マロンに引っ張られて転倒したことがあって、それからは私が代わりに行っている。
「小型犬でも侮れないもんだねぇ」
祖母は松葉づえをつきながら感心していたが、母は「もう歳なんだから、あまり迷惑をかけないでちょうだい」とあまりいい顔をしなかった。
「この先も一人で暮らすのは無理なんじゃないか」
「知り合いが運営している老人ホームに空きがでたらしいよ」
「だったらもう預けた方がいいのかもな」
怪我をしたその夜、祖母の今後について父と母が膝を突き合せながら話し込んでいた。まるでペットを処分するみたいな二人の話しぶりに、なんだか腹がムカムカしてくる。私はお祖母ちゃん子なのだ。
「だったら、ウチで一緒に暮らせばいいじゃん」
と、思わず言ってしまった。
「冗談じゃないわよ」
母はそう言い放ってみかんの皮を乱暴にゴミ箱に投げ入れる。その様子を見て、父は苦笑いの表情を浮かべていた。
その夜の顛末を祖母に話したら、「こっちこそ冗談じゃないわよ。いい迷惑だ」と、一言追加して憤慨していた。その怒った表情は母にとても似ていて、やっぱり親子なんだとふと思い知らされる。
結局のところ、祖母は老人ホームにも我が家にも行くことは無かった。
「これまでも好き勝手やってきたんだから、今さら他人の世話になんかならないわよ」
「お母さんは娘でしょ。他人じゃないじゃん」
「血は繋がっていたって大した付き合いもないんじゃ、他人とそう変わらんよ」
「そんなもんかな」
「そんなもんだよ」
二人の間に何があったかは知らないし、聞く気も無かった。もっとも、聞いたとしても教えてくれはしなかっただろうけれど。
私がマロンの散歩を週二回するついでに、祖母の様子を見てくる。それが、最終的な落としどころとなった。
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