is this your dog?

赤ぺこ

1

 最初に違和感を覚えたのは、散歩の時だった。いつもなら玄関を開けた途端に勢いよく外に飛び出すマロンが、私の後をぺちぺちとお行儀よくついてくる。塀の上で日向ぼっこをしている野良猫を見かけても、全然吠えやしない。家に帰るのが嫌で、折り返し地点で地面にひれ伏すことも無かった。

 体調でも悪いのかと思ったが、ドッグフードが入った餌の容器は空っぽになっている。食欲は旺盛らしい。でも、食後に少しだけ与えていた大好物のバナナには、見向きもしなかった。


「なんだかマロン、ちょっと様子が違くない?」

 祖母に尋ねたが、「いつも通り元気でしょ」とにべもなく返された。たしかにおもちゃのボールを投げれば、カシャカシャと床を滑るように駆けていく。元気が有り余っていることこの上なしだ。

「あんたは久しぶりに会うから、そう感じるんだよ」

「久しぶりって言っても、二週間前に会ったばかりでしょ」

「二週間前のことなんて、あたしはぜんぜん覚えていないけどね」

 最近物忘れがとくに激しくなった祖母が、ブラックジョークを投げかけてくる。反応に困っている私の様子を楽しんでいるのか、顔中の皺がより一層深くなった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る