第8話 自分と同じ人

申請手続きの間も、僕は本当のことを言わなかった。僕の国に紛争なんてないけど、適当に嘘をつき続けた。


けれども、嘘はすぐにバレる。相手は専門家だ。嘘が一番不利になると釘を刺された。でも僕の国では嘘をつくのが当たり前だった。人前で話せる話ではなかった。


なのに、僕がどうしてもいえなかったそんな言葉を初めて、僕の代わりに言ってくれた人がいた。健康診断の医者だった。


私はあなたのような人を何人か診てきた。大丈夫。この団体を訪ねてご覧。あなたの理由は正当で、難民として申請することもできるんだよ。ちゃんと助けを求めることが大事だよ。


また紙切れを渡された。医者が渡してくれた地図は、街の中心を示していた。電車賃を節約するため、1時間ちょっと歩いて向かった。


団体の事務所がある道につくと、すぐにどこにあるかわかった。建物の入り口には大きな虹色の装飾が施されていた。虹色の意味はわかる。


大きかったその通りの反対側から事務所を眺めた。しばらくすると2階の窓から誰かがこちらを見た。びっくりして逃げてしまった。


しばらく遠くのベンチに座っていたが、ついに決心して立ち上がった。ドアを開ける時、誰かが後ろから殴ってくるんじゃないかと怖かった。でも、今後ろを振り向いたら両親がいるんじゃないかという恐怖もあって、前をだけを見つめて急いで中に入った。


そこでは、堂々と自分がゲイだという人、彼女のことを話す女性に出会った。


ある職員が僕になぜここに来たのかと訪ねた。難民申請の準備を一緒にしてくれると言った。自分は一から話し始めた。


自分と同じ人と一緒にいるところを父親に見られて、包丁を片手に殺してやると後ろから追いかけられた。僕は怖くてそのまま走って逃げてきた。


自分と同じってどういうこと?


同じ、、、


その人は友達なの?彼氏なの?


もうこの人は全てわかっているんだ。それでも聞いてくる。恥ずかしさと怖さとで頭がぼーっとしてきた。必死のことで彼氏だったと答えることができた。


わかった。じゃあ君は同性愛者なの?


うん。


じゃあ、ちゃんと言ってみて。教えて、君の経験を。


自分は同性愛者で、、、


うん。


自分は同性愛者で彼氏がいた。それが見つかって逃げてきた。


言えた!周りを見て。今君がいるのはここ。LGBTセンターと書いてある。ここは絶対に安全な場所だから。この国が特別同性愛者に優しいとは言えない。悪いやつはまだまだたくさんいる。でも、せめてここにいる時だけは安心して。これから練習していこう。いつか君は全て僕に話してくれるようになる。いつか君は自分にも権利があることを理解する。そしていつか君は僕と笑顔で話すようになる。僕を信じて。

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