第6話 隣国に着いて

僕がついたのは西駅。あっちの国とこっちの国を結ぶ大きな駅だった。大きすぎて外に出るのに苦労した。


空気はとても軽い。それが僕の体を楽にすることはなかったけど、それでもこの切れるような鋭い空気は、違う大陸の、違う世界の風のように感じられた。僕の自由はこの風のようなものなのかも知れない。


忙しそうに歩く集団。大きいカバンを持ってノロノロと歩く集団。カオスに見えて秩序だっても見える。不思議な場所だ。駅の構内はアナウンスの声が常に流れ、静まることを知らない。


外に出ると、両手をポケットに突っ込んで、ただぼーっと座って喋ってる人たちが見えた。ここの人たちとは違う見た目で、というか僕と同じ見た目で、この人たちならきっとわかってくれると、早歩きでかれらに近づいていった。


こんにちは。すみません、一つ聞きたいことがあるのですが。僕は今、電車でここに着きました。その前は船で来ました。


ああ、君は僕らと同じところからやってきたのか。ようこそ、大変だったろう。


笑顔で握手を求めてきた人たち。違う場所で出会っていたら、僕のことを間違いだといい、叫び、まるで野犬にするように威嚇してきたかも知れない、このガタイの良い人たちを前に僕は身を引き締めた。


はい、そうです。疲れました。本当に。ボロボロですよ。ところで、僕はここに知り合いもいなく、どこにいって何をすればいいか、何もわかりません。何か教えてくれませんか。


そうか、そうだな。誰か、紙とペンはあるか。今僕らはここにいる。西駅だろ。西にいるんだ。西はわかるか。よし。君みたいにこの街に着いたばかりのやつは、ここだ。ここから真っ直ぐ東に進み、街の終わりに行くんだ。そこにはみんながテントを張って一緒に生活している。毎朝、食事の配給もある。大体の住所を書くから、もし道に迷ったようだったら、途中でまた人に聞けばいい。けどまっすぐだ。


ありがとうございます。こんなことを誰かに聞くのは初めて、とても申し訳ないのですが、少しだけ現金を恵んでくれませんか。今とてもお腹が空いているんです。


仲間たちは一枚ずつ紙幣を出してくれた。諦めるなよ、と肩を叩き、また会話に戻っていった。


優しい人に出会えた。僕は僕の国に人たちが怖くて出てきた。もう誰も信じられないと思った。なのに今、僕の人生は全てがリセットされたようにまた動き出した。


そう思ったら足が軽く感じた。今のうちに、地図の場所まで向かおう。


もらった紙幣は一枚だけ手にしたら、それ以外を小さくまとめてポケットにしまった。お金を乞うのはこれが最初で最後だからな、と自分に言い聞かせた。


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