第3話 宇喜多 綾乃

 旧校舎の保健室の扉を開けると南の姿があった。しかし、いつもと様子が違う。上靴が酷く汚れており、弁当箱を持っていない。今日の朝に上靴を忘れたと言っていたでは無いか。弁当も南の好物が入っているから忘れるはずがない。

「上靴見つかったんだ。で、弁当は?」

南は笑い、髪をかきあげる。嘘をついてる時の南の癖だ。

「あぁ、上靴、カバンの奥に入ってたんだ!でさ、お弁当待ちきれなくて食べちゃった。」

そっか、いじめられてるんだ。やはり、人間は醜い。自分より下を見ていないと生きれない可哀想な動物だ。

「そっか。良かったね。」

ここで心配したとて、私に何が出来る?彼女のことを余計に苦しめるかもしれないのに。しかも、彼女は苦しむ姿も美しい。このままでいてくれても悪くない。しかし、彼女は私の世界に光を灯してくれた人間だ。だから、彼女を苦しめる奴は許さない。少し調査をしてみるか。

「私の弁当食べる?」

「うん!ありがとー、綾ちゃん!」

そうしていつも通りの弁当の時間を終えた。

 帰り道。南と合流し、帰路に着く。

「ねぇ。最近嫌なことあった?」

悟られないよう、自然に。

「えー!ないよー。うーん。あ!私の飼ってた猫ちゃんが亡くなっちゃったんだよね。」

私は南に少し恐怖を覚えた。普通ペットが亡くなったらよく覚えているはず。また、悲しい顔をするだろう。しかし、南の顔には悲しみの色が見られず、ただ、笑顔だけがそこにあったから。そうだ。南はこんな子だった。一年生の時、祖父が亡くなったと聞いたが、その時も悲しみの色が見られなかった。

「そっか。辛かったね。」

「うん!」

なんでこんなにも元気なんだろう。怖い。

 いつも別れる交差点に着いた。南とまた明日。と言葉を交わす。私は別れて目の前にいる男に追いつくよう走った。その男の名は四宮しのみや 悠月ゆづき。私の幼馴染であり、南と同じクラスだ。

「ねぇ、悠月!」

「うぉ!びっくりした、お前かよ。相変わらず存在感ないよな。お化け屋敷の面接でも行ってきたら?」

よく本人の前でそんなことが言えるものだ。

「南って知ってる?」

悠月の表情が曇ったような気がする。

「無視かよ!ってか、南ってあのいじめられっ子の?」

あぁ、やっぱりいじめられているんだ。

「誰にいじめられてるの?」

「あれ?知らない?長谷川 凛とその取り巻き。」

長谷川 凛?悠月と付き合っているとこの前耳にした。

「彼女の?」

「あー。別れたんだよね。性格終わっててさ。別れてからずっとしつこくて。」

そういえばトイレで凛が、彼氏と別れた。死にたい。と言っていたのを思い出した。いじめているようなやつが死にたい?ふざけるな。思ってもないくせに。腹の底から怒りが込み上げてくる。

「あいつ、まじでうざいんだよね。付き合ってる時も自分優先で俺のこと考えてくれなくてさ。あれ?どうした?」

悠月の声でハッと我に返る。こんなことで怒るだなんてバカバカしい。

「何も無い。ごめん。じゃあ。」

「じゃあねー。」

私は誰もいない家に帰った。自室に行き、ベットに倒れ込む。南をいじめた長谷川 凛。許せない。そんなことよりなんで、なんで、なんで!なんで南は私に相談してくれなかったの?私は一番じゃないの?ねぇ。教えてよ。南。そんなことを考えていると、凛にも南にも殺意が湧いてきてしまった。だめだ。そんなことを考えても現実になることはありえないのに。そこら辺の人間みたいに感情従って行動するほど馬鹿な女じゃない。もっと現実的なアイディアを考えるべきだ。そんなことを考えていたら、いつの間にか眠りについていた。

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