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 通常のニュース原稿をこなしたのち、今年の重大ニュースを映像とともに振り返る。コメンテーターの世相を語る切り口に自らの見解を示し、サブキャスターに振る。彼が常識的、且つ、無難な大人の意見を述べ、コメンテーターの賛同を得ると、カメラは再び梅妻のアップ映像に切り替わる。

「街の様子は……」

 梅妻の要求に応え、カメラは、新たな年へと移ろいゆく街や行き交う人々の風景をとらえた。初詣の人々でごった返す神社の映像に切り替わると、レポーターがすかさず数人にマイクを向け、無事にターゲットのコメントを拾ったら、梅妻が全てを引き受ける。

 午前零時まで五分を切った。

 今度は、駅前広場が映し出された。既にカウントダウンを待つ若者で賑わっており、この映像で今年を締め括る。

 年明けは迫り来る。梅妻の胸にも十年分の思いが去来する。

 あと一分。

 ──さあ、カウントダウン開始よ。

 ──あと三十秒……

 ──あと五秒……

「五、四、三、二、一」

 若者らの沸き立つ声が鼓膜を揺すった。

「明けましておめでとうございます」

 梅妻の澄み切った声がスタジオ内に広がった。仕事始めに、速報で入った原稿を自らの声で電波に乗せた。

 梅妻は最後のニュース原稿を読み終え、コメンテーターのコメントに頷く。

 このあと、梅妻が残り三十秒を使ってコメントし、「今年も良い一年でありますように」と視聴者へ向け、お決まりのメッセージを送って番組は終了する運びになっている。

 だが、梅妻は無言で手元の電波時計に視線を落としたまま微動だにしない。

 スタジオ内の空気が一変し、スタッフも隣席の二人も色めき立ち始める。

 ──残り十秒……

 ──五秒……

 今度は、梅妻個人のカウントダウンが始まった。刻一刻と十年間を締め括る大仕事の時間が迫る。

 ──五、四、三、二、一!

 梅妻はやっと顔を上げた。カメラをまっすぐ見据えて微笑みかける。

 虐げられた者どもの声なき声が、梅妻の魂に突き刺さる。

 一気に早口で、だが、ひと言ひと言を丁寧に発音して最後にカメラに向かってウインクを決めた。

「それでは皆様、さようなら! よいお年を!」

 スタジオ内が俄かにざわめき始める。

 サブキャスターの後輩は机の下で密かに賞賛の拍手をくれた。目にはうっすら涙さえ浮かべながら。

 いつしか出入口からは、次々とアナウンス部の同僚たちが現れ、熱い眼差しをこちらに向けていた。

 梅妻は達成感に酔いしれながら席を立った。

 コメンテーターのSF作家から握手を求められ、固く手を取り合う。満面の笑みで深く頷いてくれた。彼は先日、言葉狩りに遭って断筆宣言をしたばかりだ。この自分を慮っての行為だと梅妻は承知だ。

 梅妻は出口の前で一旦スタジオ内をくまなく見渡すと身を翻し、廊下へ出た。

「ああ、清々した」

 梅妻は廊下に整列した同僚たちの拍手喝采の嵐の中、女の花道を堂々と胸を張り、大股で歩きながら勝ち鬨を上げるように右の拳で天を突いた。

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