狩人
春乃光
1
「狩りの醍醐味は?」
「そうですね、
「追う者と追われる者……死闘の末に仕留める。いとも簡単に捕まっては、何の喜びもないわ。困難極まるほど、大きな達成感を得られるんじゃないかしら。それこそ狩りの醍醐味よ」
「今夜は何か生き生きしてらっしゃいますね。昨日とはまるで別人だ。顔色も良くなられたみたいだし……」
やはり極度のストレスからくるものであった。
ストレスの解消こそ何よりの良薬と医師は言うが、そう単純にいかぬのが世の常だ。
だが、今夜こそ報われる。
晴々とした気分でスタジオ入りした梅妻は、今夜の番組のイメージを何度も頭に思い描いて、サブキャスター席の後輩にさっきの質問をぶつけてみたのだ。
梅妻は一瞬ニヤリとして彼を見る。
「あなたに捕まるお魚さんて、何て間抜けなの、フフフ……私は捕まるもんですか」
梅妻は呟いた。
彼は視線を落とし、ニュース原稿のチェックに余念がない。梅妻の声など耳には入らない。
ふと出入り口を見ると、コメンテーターのSF作家が姿を見せた。太鼓腹を突き出し軽やかな足取りでこちらにやって来る。初老の男の色気をかもしだし、梅妻に微笑んで挨拶すると、隣席にどっしりと腰を下ろし陣取った。和服姿がよく似合っている。
「今夜もよろしくお願いします」
梅妻も丁寧に頭を下げる。
手元の電波時計は、あと五分で本番だと告げる。
右を向くと、後輩の顔が既に本番モードに突入だ。
梅妻も正面のカメラに一度目線を向け、辺りを見回しながら本番を待つ。
午後九時のニュース番組のメインキャスターに抜擢され早十年。じきに四十の坂を下ろうか、という歳になった。
だが、慣れ親しんだセットとも今宵が最後だ。昨日決断した。
勿論、感慨もあるが、それ以上にこれから成し遂げるであろう幕引きに相応しい仕事の達成感を思えば、胸が沸き立つ。
本日は、大晦日の特番で、通常の午後十一時までが、恒例の年明けのカウントダウンをまたいで、午前零時十五分の終了となっている。
本番十秒前。
ADが指を折り、合図する。
「3、2、……」
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