第22話 兵士と稽古2
朝になってからしばらくすると見張りの交代なのか兵士の人が二人ほどきて、ちぐはぐな見た目の私をみてびくっとしてたがゲイジーさんが説明すると魔物の脅威がもうないと安心したのかホッとしていた。
「じゃあ見張りは一人でやっとく?」
「そうさなー、もう数日は二人でやっといた方がいいんじゃねえかな?」
そんなやりとりを見つつ、交代した後。私はゲイジーさんとダズさんについて行くとちらほら町の人を見かける。
特に挨拶をするわけでもないが私をみて驚かれるのはよそ者でしかも兵士の鎧を着込んでいるからだろう。
「ダズは町のやつらに報告しといてくれるか?俺は隊長のところに行ってくるから、リアラちゃんはダズと一緒にな」
「了解っす」
出来れば話しやすいゲイジーさんがいいなぁなんて思ったけど、町人の方が出会う?のだからあいさつ回りは大事なのかもしれない。
ゲイジーさんと分かれた後はダズさんについて行くけど、この人が町の人とどう接してるのか気になって見ていると町の人がダズさんと話すときちょっとびくっとしてるので、もしかしたら普段は無口なのかもしれない。
「魔物は多分来ないかもっす」
「はぁ…?そうなのね」
ただ、私の時にしてくれた説明よりも圧倒的に口数が少なく逆に混乱してないだろうかと不安なので私が自己紹介ついでに説明しておく。
「こんにちは、リアラです。西から来ましたが魔物とすれ違わなかったので恐らく大丈夫だと思います」
「西から…そう、生き残りなのね」
頭を撫でられて特に詳しいことは聞かれなかったが。西から来たというと頭を撫でたり「お腹すいたらこの町ならご飯食べれるからね」と優しくされる。
その姿をダズさんが見ていて「人気者っすね」なんていうから、多分これはどちらかと言うと可哀そうとか哀れみの類じゃないのかな?と思うが。そう見えるならそうかもしれない。
結構な人数と挨拶していったらダズさんが「もうそろそろいいっす」と言って解散しようとしてきたので困った。
「えと、もういいんです?」
「あとは勝手に広まるっすよ、それにさすがに眠いっす」
「私はどうしましょう?」
「走るんじゃないんっすか?」
むぅ、と思うが。まぁそもそも走り込みすると言ったのは私だし、別にダズさんが付きっ切りと言うのも申し訳ない。
特にお別れの挨拶をするでもなく、家?に帰るのだろうダズさんを見送って。走るにしても町中で走るのはさすがにどうだろう?と思って西の方に向かうと交代した二人がぼけーっと座り込んでた。
「お、さっきの、新入りか?」
「いえ!これは借り物で、多分この町にいる間貸してもらってるだけです」
そう言うと、苦笑いされた。なんだろう?やっぱり兵士じゃない人が鎧借りてるとなんかあるのだろうか?とはいえ特になにも言われることなく貸してくれたし大丈夫だよね
「リアラって言います冒険者をしていて」
「あぁゲイジーの言ってた西の生き残りだろ?すげーよな魔物って万単位で来てたんだっけ?」
「いえ、数は分からないですけど魔導を使う魔物が混じってたっていう」
なんか話が飛躍してたのを訂正したけど気の抜けたように「そうかー怖かったろうなー」とダズさんに負けず劣らずな感じでマイペースそうな雰囲気を出してる。
「よかったらお名前聞いてもいいですか?お二人とも」
「俺か、俺はなージェナっていうよ」
「ジラフ、リアラだっけか?気負うなよ」
ジラフさんがなんのことを指してそう言ってるのか分からないけど、もしかしたら西のことかなと思う。
「大丈夫ですよ、そのために私強くなる予定ですから!」
「ん、そうか」
思ってた返事とは違ったけど、これから走り込みしてくることを告げると、なんで?って顔をされたけど気にしないようにした。
「なんか必要な稽古なので!」
そう言って走って見せると、がんばってなーという声が聞こえたので手を振っておいた。
走り込むといってもただうろうろするだけっていうのもつまらないので、町を外周一回りするように走る。その際にできる限り全力で走るがやっぱり肩が痛い!
なんかこのまま走ってると体力よりも肩の肉痛むんじゃないかと思ってしまうが、集中して走り込む。
町の大きさはそんなに大きくはなく、村から少し発展したくらいかな?というものでただ建築物が多いのは西の街が大きかったから行商が多く行き来してたことが関係してるかもしれない。
あまり詳しくないが、人が多く出入りすればその分発展するだろうし。
だがそこでまたふと考えてしまう悪い癖が出て。名もない村ばかりが多いあの街はどうしてあそこまで人がいたのだろう?特に露店巡りをしていても目立ったものはないし、それどころか働いても田舎なら儲からない、儲からないということは行商人からしたら旨みみたいなものは少ない。
するとどうなるかと言えば必然的に行商人が来なくなってもおかしくはないと思うんだけど。
この地方の領主とやらが何か手回ししてるのか、それともさらに西に行けばなにか…ん?西の大陸と交易してるって話があったような?
そうなると私がいたあの街もまだ中継地点で西に目指すのかもしれない。こういう時にゲンボウさんともっと話しておけば良かったかなってなる。
東へ向かえば亜人嫌いの国。それを超えて行けば亜人たちがいるという地域まで行ける。西に向かえば最悪港町みたいなところがあって、そこまで保てばなんとか魔物たちの消息が分かるかもしれないのと同時に…いやそもそも南西から迫った魔物は南から攻め、西からも攻めてきた。それなら西の港町は無事なのだろうか?
西からも攻めて来られたとは言っても。西から来たからと言って、南から魔物が押し寄せてきていたのが西に押し寄せてきたとかだったらゲイジーさんに西からも攻められたと言って西には行かないと言ったのは早計だったかもしれない。
あとでゲイジーさんと出会ったら改めて西の情報を聞いてみて判断を委ねてみよう。
そうこう考えていると、町の外周を回ってジェナさんジラフさんを見かける。私が軽く手を振ってみると二人とも手を振り返してくれる。
ダズさんに言われて着込んでる鎧だけど、痛いのはずっと思ってることではあるとして。それを差し置いても確かに重たくなったはずの体重とは思えないくらいに速度を維持できるし、なんなら着込んでないときより足に力を込めても転ばないという安心感でもっと速く走れる。
それこそ事実私の身体ではないのだが、私の身体じゃないみたいな感覚だ。
いつまでも、同じ速度でも駄目だろうと思い、さらに速度を上げる。途中から斜めに移動したりしつつ仮想敵を想定して動いてみたりもするがそこまで細かい動きでなければ大丈夫なはず。
これなら戦えるかもしれない。試しにジラフさん達に組手を頼んでみようかなと思って何週目か分からない走り込みを終えてジラフさん達に手を振る。
「すごい元気だなー」
「はい!なんかこう、動いてないと落ち着かなくて」
「すごいなーそれで兵役してないんだもんなー」
とにかくすごいすごいと褒めてくれるジェナさんはぼけっとしながら喋ってきて、ジラフさんの方は厳つい顔でこちらをずっと見てくる。顔が厳ついからってだけで多分睨まれてるわけではないよね?
「それでその、ゲイジーさん達ともお願いして少しやったんですが組手みたいな。稽古つけてもらうことお願いできないかなって」
「俺には無理かなー」
即答されてしまった。ただジェナさんがジラフさんの方をちらりと見てジラフさんもそれに気づいて腕を組んで悩んでいた
「リアラは何と戦う…いや違うな、何になりたいんだ?」
「なりたいですか?冒険者?でしょうか」
というか冒険者にはすで私はなっているのか、ジラフさんも私の答えに眉をしかめていたので多分違う答えを言ってしまったんだろう。
「兵士といえば領主様に雇って頂くか、はたまた大きく考えて王国兵になるとか。あとはそうだな、冒険者と言えばそこまで強さにこだわるって言うのならダンジョンに向かうとかな」
雇ってもらった兵は王国兵とは違うのかそのあたりもよく分かってないのだけど。そしてまた話題に出てきた岩の魔物ことダンジョン。
私は別に好んで魔物の口に入りたいとは思わないし。国のためとか領主の人に雇ってもらうほど国に対して愛国心はないのだけど。
「その、難しいことはまだわかってないです。でもいざ何かを守りたいときに戦える力が欲しいから私は色々練習してます」
「復讐か?」
ストレートに聞かれたため驚いたが、その質問に対する答えは私も考えていたことで否定はできない。
「ゲイジーが稽古に付き合ったのはどうせ暇だったからだろう、ダズはそんなことする性格じゃないし、そして俺やジェナもそんなことをする性格ではない」
「えと、ごめんなさい」
「謝ることじゃない。鎧を着込んでいるし見習いとして鍛えてるのかと思ったがそうではないと分かったので言ってるだけだ」
ジラフさんの言い方だと、私が将来国に仕えるような人になるためなら鍛えるのもいい?みたいな言い方かな?
そしてダズさんも興味本位とか言ってたけど、本当に興味本位で私のこと指導してくれてたんだ。ゲイジーさんとは違ってすごく分かりやすい指摘や手伝ってもらったからもしかしたらゲイジーさんみたいな方が少なくてダズさんはもっとすごい人だったのかもしれない。
「んー、ジラフその子ダズさんとも稽古してると思うぞ?」
「なに?」
何故かジェナさんは私がダズさんに指導してもらったことを知ってる?いや、見てないわけだから適当に言ってるだけかな。
「そもそも鎧を貸し出してる時点でダズさんの考えだろうしなー、だから俺が稽古?断ったのはお前の言う性格じゃなくて、勝てないと思ったからだよ」
「は?何を言ってるんだ」
「西の生き残りっていうのも最後まで戦ってたんだろうし、第一にダズさん絡んでるなら逃げ足だけで生き残れたわけじゃわけではないってことじゃないかー?」
なんだろうかジェナさんが助け舟を出してくれてるのか、それともただ観察結果をジラフさんに話してるのか、ただそれを聞いてジラフさんがもっと悩み始めた。
「だからなー、俺じゃダズさんみたいに教えれることは無いし、稽古もリアラちゃんより格下の俺が戦っても意味がないから断っただけだよ」
「そこまで言うか?訓練された兵より生き残りの冒険者が強いと?」
同じことを思う。そもそも私はなんちゃってで何でもやってるに過ぎないし。格下なんて卑下してるけど実力はジェナさんの方が相当上だろうに。
もしかしてジェナさんはネガティブ思考の人なのかもしれないし、それ以上にダズさんがすごい人だからその影響でそう言ってるだけかも?
「リアラちゃんは稽古つけてほしいんだよね?」
「あ、はい」
「それならジラフ、俺からも頼むよ。一回だけでいい、その子と稽古してみて、そうだなー…地面に体を着けたら負けってどうかなー?」
どうやら助け船だったらしく、ジェナさんも一緒にお願いしてくれた。とはいえ地面に体を着けたらということは相手を倒せと同じようなものだと思うけど。殴りかかるくらいしかできないから籠手は外した方がいいかもしれない。
そもそも籠手を外すと相手の槍を防ぐ手段がないのだがゲイジーさんにも怒られたわけだし…いやダズさんの言葉を借りるなら稽古を見るなら私の本気をぶつけた方がいいのか…今回に限っては一回ということなら尚のこと。
「勝手に話を進めないでほしいのだが…だとしても武器はどうする?リアラは素手だぞ。いや、籠手は支給品ではないのか」
「はい、私は一応これが武器になります」
「むむ」
唸りながら私と一定の距離を取りつつ、槍を強く振り風を薙いでいく。
「一回だけだ」
「はい!ありがとうございます!ジェナさんもありがとうございます」
これはチャンスと言うやつだろう。どうなったとしても一回だけでも稽古をつけてもらえるなら嬉しい。
ジェナさんは「がんばって~」と手を振って応援?してくれた。
私の方も身構えジラフさんを見る。西では剣を使う人達ばかりだったけどこの町ではどういう理由なのか槍を持ってる人達が多い、純粋に槍も剣も格闘もある程度できるのかもしれない、剣は予想だけど。ゲイジーさんとダズさんは少なくとも格闘でも私をあしらってみせたのだ。それなら間違いなくジラフさんも両方できるのだろう。
私の突進力は不意打ちのようにやることもできるが…それもまたゲイジーさんには初撃をかわされたのだ。私が夜よりも速く動けたとしても見切られたら終わり。
細かい動きも大して効果を生めるかは分からないので、走り込んでいた時と同じようにジラフさんの周りを回るように走って様子を見てみる。
ジラフさんも警戒してるのか私と一定の距離を保ちつつ攻めることも無ければそれ以上離れることもない、私もただ回るだけだがジラフさんの動きをとにかく見る。
2周ほどだろうか、そしたらジラフさんは槍を私の進行方向側から振り払ってくる。これは避けるにしても私の身長に合わせて振ってきてるのでしゃがんで避けるのは難しいかなと思い距離を遠ざけるように避けてその後振るったままの勢いで態勢を立て直してないジラフさんの胴目掛けて一歩を踏み込む。
私の加速にジラフさんが目を見開きすぐさま槍を放り投げて腕を交差し防御してくるので私はその防御ごと拳を振り切る。
鈍い音がすると同時にジラフさんは後ろに少し浮くように飛ぶが、まだ立っている。それなら追い打ちをかけるべきか、あえて足を狙って地面に転ばすというのも手だろうかと悩んだが今回に限っては私のための稽古だ。足よりも正道に戦うべきだろうと踏み込もうとしたところで。
「参った。負けを認める」
ジラフさんがまだ地面に着いてないのに降参しだした。少し呆けてしまったが、さすがにこれ以上やるわけにもいかず。どうしようと思っていたらジラフさんが片膝をついて痛みに耐えている。これはやりすぎてしまったのか。
「あの!ごめんなさい、大丈夫ですか!?」
「謝るのは俺の方だ。見誤った…」
ゲイジーさんから言われてたことを守った方がよかったかと思ったが、ジラフさんの方が何故か申し訳なさそうにしている。
「あー、なるほどなー…」
意味深にジェナさんは私の方を見ていると何かに納得しているようだった。
というかジラフさん結構苦しそうにしているけどジェナさんは心配しないのだろうか、脂汗とか顔に滲ませている。
「リアラちゃんは冒険者なんだよね?」
「え、はい」
「怖いねー、冒険者っていうのはたまに変人がいるんだから」
関心してくれるのはいいのだけど、とりあえずジラフさんを先になんとかしようと思って介抱する。
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