第23話 不思議な井戸

「気にするな、俺の判断のせいだ」


 ジラフさんは見張りを継続するのか、座りこんで。自分が不甲斐なかったと反省することばかり言ってくる。

 ジェナさんに限っては不思議そうに私を何故かじろじろ見てくるので少し不快だったりする。


「あの…なんでそんなに見てくるんですか?」

「あー、ごめんね。ただこれが噂に聞いたやつかなーってね」

「噂?」


 何の噂だろうと思って聞いてみるがどうにも歯切れ悪く答えてくれない。


「まー、噂って言っても冒険者は変なのがたまにいるみたいなそんな感じの噂かなー」


 そんな私に変な要素があるのだろうかと逆に心配になってジェナさんに見られたところを見るがいたって普通の身体だ。

 まぁ、格好は不格好ではあるけど、それも鎧を脱げば普通の恰好と言える、旅人みたいな?冒険者には見れないってゲンボウさんに言われたが個人的には旅人と言えるとは思う。


 そのあとはさすがにジラフさんをここまで苦しめるつもりはなかった罪悪感もあり、反省しながら水など必要かと思い、井戸の場所を聞いて水をジラフさんにあげたりする。


「リアラちゃんもジラフで分かったと思うけど、俺もこうなるから稽古はゲイジーかダズさんにつけてもらっていいかなー?あ、隊長でもいいよー?」

「あれは、私の突進が初見殺しなところがあってたまたまだと思いますけど…」

「しょけんごろし?まぁ、確かに初見殺しかー、走り回ってる時点で本気で走ってるのかなとは思ってたからその油断もあってジラフはこうなったわけだしね」


 というと私の全速力がこれ以上はないと思っていたところに咄嗟に防御してしまったが、それ以上にその速度が思った以上にダメージを受けたから立てなくなった?という感じかな?


 そう考えると、やはり私の初見殺しはただ相手の意表を突いただけで、バレてれば対策されるんじゃないかなと思う。

 そしたらジラフさんもさっきみたいに受けることをせずに避けるだろうし、ジェナさんも私の動きを見たから同じことはしないだろうし。


「走り回ってるのもダズさんに言われてやってるのかなー?」

「いえ、走ってるのは私が何かしてないと落ち着かないからで、ダズさんからは鎧を着れば私がもっと踏ん張れる?とかそんなこと言ってました」

「言ってることわかんねー」


 そう言って笑ってるが、それでも満足したのかジラフさんの介抱をようやく手伝ってくれて、ジラフさんの鎧を脱がしてあげてた。


 ただ、一回は一回なのでもう二人に頼めないだろうし。ジラフさんの容態を見る感じ、少なくとも私が考えた一歩を踏み込んでの一撃は誰かに通用するんだなっていう実感も湧いた。

 その一撃を与えるのが難しいんだけど…


 3人で見張りと言うか私とジェナさんで見張りをしてジラフさんを休ませて。のんびりとした時間が過ぎていってると、町の人から食事が届いて、安心安定のスライムラディッシュだったが二人分しかなかったのを気にした町の人がもう一食分持ってこようとするのをジラフさんが引き留めて、ジラフさんは食欲がないとのこと。


 そんなに当たり所が悪かったのかな?と気にしていたら単純に町の人にそこまで手を煩わせたくなかったのと、私に対して下に見ていたことの謝罪らしい。


「事実だと思いますけど?」


 と言うが、それでも受け取らないので、もらうが。妙にしょっぱいくらいのスライムラディッシュだったので、味無しよりはマシだけど、美味しいとは感じなかった。


 本当ならもっと食料がまともなのがあるんだろうけど、大勢の避難者で安定供給できるスライムラディッシュはやっぱり便利だなと思える。

 とはいえ栄養価的に大丈夫なのか?と不思議に思ったけど名もなき村では主食だったわけだし栄養はあるのかもしれない。


 たまにこういう異世界要素みたいなのが謎だ、てかスライムラディッシュって言うけど本物のスライムはどんな見た目なんだろう。

 もしスライムも白いねばねばだったら食欲が失せて今後スライムラディッシュを食べれなくなるかもしれない。


 そういえばとこの町もそうだけど、地下水?が出てるのか井戸が何かしらの拠点に都合よくあるけど、これもある意味ふぁんたじぃ!だ。


「ジェナさん、井戸って簡単にできるものなんですか?」

「井戸は国からの支給品だよー」


 ポンと井戸を渡してくるのか…ってさすがにそんなわけないか、試しに聞いてみたら意味不明な返しをされて困惑してしまった。


「そんな、まるで井戸を自由に作れるみたいに言うじゃないですか」

「あー、まーそうかな?作ってるね」

「どういうことですか…?」

「井戸って言うのは見た目なだけで実際ほとんどの町村にある井戸は魔導を使って作った本物じゃない井戸なんだよ」


 急に出てきた魔導の単語にびっくりするが。というと地下水を汲んでるんじゃなくて人口的に作った水をいままで飲んでいたのか。

 それって飲んでも大丈夫なのかと不安になるけど今まで特に何も異常はなかったし…。


「さすがにそうホイホイとくれるものではないからなー。領主様がお願いして開拓の褒美として支給される町発展祝いみたいなものかなー?」

「発展しないともらえない?とかですか?」

「そうなるねー。そのために開拓者は村を興して頑張るし、開拓始めたところに行商見習いも出向くし。危険だからあまり進んでないみたいだけどねー」


 世知辛いというか開拓するに至って領主はなにかしてくれるわけではないのかな?いやそもそも開拓する意味ってなんなのか。

 元々ある町の途中に村々が出来たりして移動を便利にするとかなら分かるけどわざわざ失敗するかもしれない事業をするなんてリスクの方が大きい。


「というか、開拓したところで地図がないんじゃ誰も来ないんじゃないんですか?」

「そこはギルドに頼むのさ、どこどこに村を作る予定があるとか言ってねー」


 商業ギルドか。あまり詳しくは無いけど組合と違って結束力が強そうだし、そもそも行商を担ってるのもギルドなら話的に辻褄は合う?

 となると国と商業ギルドは結構密接な関係なのかもしれない。組合が慈善団体としたら商業ギルドは一つの会社で国という会社を相手に取引をしている。


「商業ギルドって本部とかあるんですか?」

「あるけど行かないことをおすすめするよ…なんて言ったって最北の聖教会のお膝元だからねー」


 教会ならむしろ縁起が良さそうな気がするけど?

 あれかな、聖職者って言うくらいだから金銭にそんな興味はないところにいることで、上手く二人の利害が一致して国に頼まれるくらいの規模になってるみたいな?


 そもそも商業ギルドは商いをするためにやってる人達で、戦闘力がない。そこを冒険者組合が助けてるのだと思ったが、今の話だと聖教会とやらが戦闘面で助け合ってるのかもしれない。


「ちなみに聖教会っていいところなんです?」

「教会はなー…聖職者がいるんだけど、そいつらの頭が結構ぶっ飛んでてうちの国とは仲良くないからなーなにより魔物駆逐主義のうちとそりが合わないんだよ」


 むしろ魔物に関して敵対してそうなイメージだったけどそうではないのか。それは私も合わないかもしれない。

 やっぱり話を聞いてると地図が欲しくなる。情勢がいまいち分からないし、魔導に関してももう少しなにか情報が欲しい。


 そう雑談をしてると日も沈んできて交代の時間が来たようだ。


 これまた新しい人に挨拶しようと思ってたが相手は私のことを知ってるようで挨拶しなくてもよさそうだ。


「見た目は変な子がリアラって聞いてたけど、面白い恰好だな」

「えと、初めまして?」

「みんなの名前を聞いて回って挨拶してるんだろ?レンドだよろしくな」


 爽やかそうな兵士だなーと思いつつ、今まであった人達よりずいぶんと若く見える。兵士と言えばおじさんばっかりだったから余計に。


「一人で来たってことは見張りはもう一人ですることが決まったのかなー?早くない?」

「そう言われても隊長やゲイジーさんがこれ以上気にしすぎるより復興を早めた方がいいって判断したっぽいですよ?」

「そうかなー?」


 たしかに言われてみれば一人しか来てない。隊長って言ってるけどそんなに権力ある人なのかな?


「まー、たしかに無駄だとは思ってたしねー…それじゃ俺たちは行くよ。リアラちゃんはレンドとはやりあわないでねー?」

「人をそんな戦闘狂みたいに言わないでください…やりあわないようにします…」


 二人交代だったらまた頼もうかとは思っていたけど、さすがに一人だし。私もそこまで考え無しに無理強いするつもりはない…。


 ジラフさんは最後まで厳つい顔をしてジェナさんに連れていかれた、結構大怪我だったのかと心配にはなるが、私に対して申し訳なさそうにされるだけなのでこれ以上はいじめてるような気がしてあまり深入りはしないようにした。


 そしてなんとなくというか自然の流れと言うか、二人だけの空間になってしまった。


 レンドさんは何か言うでもなく、背伸びをしたり、自由にしてる。

 気まずいしまた走り込んでこようかなと軽くレンドさんに「走ってきます!」と言うと、なんで?と疑問気な顔をされて「おう!」と言われた。


 私は町をただ一周二周として走ってその度にレンドさんとすれ違う時は一応手を振っている。


 走る速度に余裕が出てきて、一応動き方を変えたりしてるのだけど、それも少し余裕が出てきたらまた動きを変えてみてを繰り返して。

 段々と余計なことを考える時間が増えてくる。もう何日眠ってないんだろう?私は。


 眠ろうかなと思えばどうしても蘇る冷たい身体に抱きしめられる感覚、それをまた誤魔化すように私は速く走る。


 見張りの人がまた交代し、今度はゲイジーさん一人、稽古を頼もうとしたら。


「ジラフぶっ飛ばしたらしいな!俺はそれ嫌だからダズあたりに頼んどけ!あいつから教わったみたいなもんだしな!」


 そう言われて断られてしまったので、てっきりゲイジーさんなら怪我することなく私のことを鍛えてくれると思っていたからある意味意外だった。


「籠手外してやるとかはだめなんですか?それこそ手加減してゆっくりやるみたいな」

「いや、ダズから伝言だけど、その様子ならいいか!暇そうにしてたらもっと着込めとのお達しだよ」


 これ以上増えるのかとちょっと嫌だったが、ダズさんの言葉は的確なことが多いとジラフさんのことを思い出して、頷くとフルフェイスの兜と槍を渡された。


 町の誰もこんな兜被ってないじゃないかと思って、着けてみると視界が悪いし、あまりつけていたくはないが一応重いには重いので。それと槍に関しては壊さないように言われたので、使うなと遠回しに言ってるのだろう。


「足に関してはサイズが合うやつない。てか、そもそもその鎧とかも合ってないんだっけか。まぁ靴に関しては今のボロそうだし明日には町の人らに余りものないか聞いてくるから頑張ってこい」


 そう背中を押されたので、特にすることもなかったし再度走り込みをする。槍を手に持ってると絶妙に走りづらくて、これはこれで剣をいずれ持った時の練習になりそうではあった。


 そして一応鎧と兜は繋げて接着できるみたいで、不安だった走ってるときに反動で頭を打たれながら走ると思ってたのとは違い、兜の重みが鎧に来て、つまり私の肩が余計に痛くなった。


 鎧ずっと着っぱなしだったから見てないけど、これ腫れてるんじゃないかなと、逆に脱ぐのが怖い。


 そんな痛みも余計なことを考えなくて済むし、とりあえずは慣れようと走ってるとやがて朝日が昇る頃になり再度交代のお時間。


 ジェナさんが来て、私のことをじろじろ見てきてたので、なんとなく嫌だと思い挨拶して走り込む。

 一周する度にジェナさんの方から手を振ってくるので、習慣化してたし良いのだけど、変なものを見る目で見られるとどうにも苦手意識が芽生える。



 その後も走って私は3日ほど続けて走っていた。


 その間に増えた物は槍一本。厚着の服。靴も新調というかお古の物をもらえて今までの靴が限界だったのか崩れているのはちょっと申し訳なかった。

 一応これは西の街にて拝借した一品だったから。


 あとは厚手のズボンなども着込んで、そんな暑いとかは思ってなかったけど、じんわりと体が着込んだことで保熱されてるのか無性に蒸し暑い。


 ただ嬉しいこともあって厚手の服を着ることで肩の痛みが少し減った気がした、気がしただけで痛いのは変わらないけど。

 その際に腫れてないかなと見てみたけど、特に腫れてることはなく綺麗な肩をしていたので安心した。


 そしてこの町に来て四日目になり、さすがに何も考え無しに、ダズさんに言われた通りに着込んでいるのも申し訳ない、というかダズさんあれ以降一度も見てない見張りしないのか、私を遠ざけてるのか。


 朝、ジラフさんが今日の交代なのかと思い話しかける。


「ジラフさん、私そろそろ」

「待て!俺ではリアラの相手はできん!」

「いえ…ダズさんに会いたいなって…」

「そ、そうか」


 そんな私は戦闘狂ではないし。むしろジラフさん私に申し訳なさそうにずっとするから頼む予定なんかなかった。

 いや、ある意味ダズさんに稽古してもらおうと思ったから、相手が違うだけで戦闘狂なのかな?


「ダズか、ダズならこの時間なら隊長のところだと思うが場所は分かるか?」

「途中までゲイジーさんと一緒に歩いてたから、おおよその所は分かると思います」

「それならそうだな、扉に槍のマークがあるところが隊長の住んでるところだぞ」


 一応それっぽいマークとかあるんだと思い、ジラフさんに感謝しつつ、この数日間、隊長さんとやらには会ったこと無いので少し緊張する。


 どんな人だろう?


 知ってる道まで行くと。たしかこっちだったかなー?とゲイジーさんが歩き去っていた方向に進むと、家を見るたびに扉を見ていると言われた通り槍っぽいマークがある扉を見つけたのでノックをすると。


「あぁ、もう来たんすね…」


 ダズさんが出てきた。鎧は着てなくて大柄なおじさんが出てきたことに少し驚いたがダズさんと分かれば安心だ。妙に何を考えてるか分からないところなど懐かしく感じる。


「稽古をつけてもらおうかなって思ったんですが、忙しかったですか?」

「そうっすね、とりあえず中に入っていいっすよ」


 忙しかったのか。とてもそうには見えないけど、それなら別に無理はいわないんだけどな。


「お客さんかね?ダズ」


 中から声が聞こえて、ダズさんの体が邪魔だったので横から覗くように見てみるとそこにはおじいちゃんがいた。ダズさんの親戚?


「隊長、この子が例の子っす」

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